35年以上愛され続けるイタリアンとは|【リストランテ山﨑】乃木坂
2021年4月で35周年を迎えた【リストランテ山﨑】。名立たるシェフを輩出し、今は6代目矢島直樹氏がシェフを務めています。伝統を大事にしつつも進化を忘れない、多くのファンから愛されるお店とは。昭和にオープンし、平成、そして令和へ。今を生きる【リストランテ山﨑】をお届けします。
伝統を崩すことなく、進化し続けるリストランテ
“イタメシブーム”ー。
この言葉を耳にしたことがおありだろうか。往年の食通なら、懐かしいと思う方も多いかもしれない。1980年後半。バブルが絶頂期に達していたちょうどその頃、それまで隆盛を誇っていたフレンチに代わって、徐々に頭角を表し始めたイタリアンの潮流。そうした(主に東京での)イタリア料理界の一連の動きを称してそう呼んでいたのである。
その先駆的存在としてブームの一翼を担ったのが、他でもない、ここ【リストランテ山﨑】だ。オープンは1986年。折しもその前年、神宮前に誕生したN.Y.スタイルの劇場型レストラン【バスタ・パスタ】が、そのセンセーショナルなスタイルで話題を呼び、本国イタリアでは、イタリア料理界に新風を吹き込むべく、グアルティエーロ・マルケージがヌォーバ・クッチーナ・イタリアーナを提唱。時代の波がイタリアンに向き始めていた、まさにその只中にあって産声をあげたのが同店。当時、日本ではまだ数少なかった本格派リストランテの誕生だった。それは、一重にシニョーラである山﨑順子さんの強い信念と熱意の賜物だろう。
乃木坂駅から徒歩2分、緑生い茂る南欧風の建物にある【リストランテ山﨑】
自らが理想とするリストランテを創りあげるべく、空間はもとより、カトラリーからサービスに至るまで一貫して一流を求めた山﨑シニョーラ。そんな彼女のお眼鏡に叶った料理人が初代シェフの寺島豊氏。この時なんと弱冠24歳。【グアルティエーロ・マルケージ】でパスタを任されていたところをシニョーラの山﨑さんに見出され、スカウトされたのである。
オープン当初、地下にあった店内は、仄暗くスノッブな雰囲気に包まれた大人の空間だった。その中で、まるでスポットライトに当たっているかの如く、白いテーブルクロスの上で輝くマルケージ仕込みの料理は繊細で美しく、その洗練されたおいしさに人々はたちまち虜になった。多くの美食家らの舌を魅了し、瞬く間に世間の耳目を集めた。
木漏れ日が心地よい個室
今も続くスペシャリテの一つ『冷たいキャビアのスパゲッティ』を始め、コースを彩った料理の数々はそれまでのイタリアンのイメージを一新。経験したことのない新しいテイストは、その後の東京イタリアンに大きな影響を与えたと言ってもいいだろう。寺島シェフに続く2代目シェフに日髙良実氏、3代目には濱﨑龍一氏が就任と、歴代に名料理人がシェフを務めてきた同店。名シェフを次々と輩出してきたその功績もまた見逃せない。
現店舗は2008年に改装。地下から2階へと移転。以前とは打って変わって、昼時には窓から木漏れ日が降り注ぐ明るいリストランテへと生まれ変わった。そして、現在、6代目シェフを務めるのは、矢島直樹氏40歳だ。一度はシステムエンジニアの道に進むも、小さい頃からの料理好きが高じ、23歳の時に料理人へと転身。奇しくも【リストランテ山﨑】のシェフを務めた濱﨑龍一シェフの下で6年間修業を積む。その後イタリアはミラノを中心に研鑽を積み帰国。同店のシェフに就任して7年目を迎える。
開放感のある、居心地の良い店内
「伝統を崩すことなく、新しいものを取り入れていく。ミラノの修業先【アイモ・エ・ナディア】で学んだその精神と技術をここでは、僕なりに表現していきたい。」とは、矢島シェフ。その思いは、同店きっての名物『冷たいキャビアのスパゲッティ』への姿勢にも現れている。
歴代のシェフに受け継がれてきたこの伝統の一品を、レシピ自体は変えることなく、矢島シェフは少しだけ手を加えた。まず、キャビア。それまで使っていたオシェトラを、ロンバルディアのフレッシュタイプのセヴルーガに変更。塩分が少なく、小粒ながら一粒一粒がしっかりとしたそれはパスタにも絡みやすい。麺との一体感がより増幅されると考えての抜擢なのだが、更にパスタの巻き加減にもひと工夫。
名物『冷たいキャビアのスパゲッティ』
矢島シェフ曰く「キャビアとパスタだけのシンプルなこの一皿は、ある意味鮨と同じだと思うんです。言わば、パスタは鮨飯。口中でホロリと解ける握りのように、パスタも少し空気を含ませたふわっとした巻き方にしている。」そうで、キャビアの優しい塩加減と共に、よりソフトで エレガントな味わいを楽しませてくれる。
前菜『サクラマスのひと皿』
続いて登場したサクラマスの前菜は、まるで皿の上に咲いた花園のように愛らしい一皿。一晩塩でマリネしたサクラマスの上には、細かく刻んだキウィやピスタチオ、グリーンオリーブとピスタチオのペーストをトッピング。香草や香草の花々をちらしている。口にすれば、ねっとりとしたサクラマスの官能的な食感にフルーツの柔らかな酸が心地よく広がる。舌に残る軽やかな余韻には、冷えたシャンパンが合いそうだ。
プリモピアット『タリアテッレ 鰯と発酵トマト、アーモンドペースト』
さて、プリモピアットは『鰯と発酵トマトのタリアテッレ』。小田原から届いたヒコ鰯とトマトソース、アーモンドにケッパーの組み合わせは、シチリアはパレルモ名物の“鰯とトマトのスパゲティ”を思わせる。とはいえそこはリストランテ。矢島流にアレンジし、品格のある一皿に昇華させている。盛り付けにしても、タリアテッレをタンバル状にまとめ、上にはヒコ鰯とドライトマトを飾ってお菓子のような愛らしいルックスに仕立てる一方で、味わいもより繊細に。
中華の友人から教わったという発酵トマトをソースに用いることで、より旨味を濃密にすると共に、発酵ならではの深みのある酸がドライトマトのあまみと相まって重層的な味の奥行きを醸し出している。原型が南のパスタゆえ、手打ち麺ではなく、パスタの街と言われるカンパーニャ州グラニャーノの「ジェラルド ディ ノーラ」の乾麺をあえて使うところに矢島シェフのこだわりが伺えよう。
メイン『シストロン産仔羊のロースト クミン香るニンジンのピューレ』
どちらかといえば、技巧的な前菜やパスタに対し、メインの『シストロン産仔羊のロースト』はグッとベーシックだ。ロゼ色に焼きあげられた仔羊にナイフを入れれば、肉質はしっとりとソフト。フランス産の仔羊ならではの上品な草の香り、滋味深さは、これまでの繊細な皿の余韻を崩すことなく舌を締めくくる。柔らかさは求めつつも、低温調理は用いず、200℃のオーブンに出し入れし、肉を休ませながら余熱で焼きあげるのは、仔羊本来の肉らしい風味を引き立てたいと考えてのこと。クミン風味の黄色い人参ソースやパセリオイルが彩りと味の抑揚を演出している。
6代目シェフ、矢島直樹氏
イマドキのパフォーマンスを追い求めるのではなく、食材の真のおいしさと真摯に向き合った上でのアレンジには無理がなく、どこか品格さえ漂わせている。その背景には、35年に亘る【リストランテ山﨑】の伝統があり、また、少しずつ進化を遂げてきたリストランテとしての矜持がある。そして、それらを引き継ぎ、今の“山﨑”を表現することが、矢島シェフに託された使命であり、また本懐とも言えるだろう。流行に流されることなく、時流を見つめてきた老舗の古くて新しい味を満喫したい。
【リストランテ山﨑】
電話:03-3479-4657
住所:東京都港区南青山1-22-10 ウエスト青山ガーデン2F
アクセス:乃木坂駅 徒歩2分
※緊急事態宣言中の場合、営業時間が変更されている可能性があります。最新の営業時間はお店に直接お問い合わせください
この記事を作った人
取材・文/森脇 慶子 撮影/岡本祐介
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