なにげないのに超絶ウマい! イタリアン巨匠の隠れ家【インフィニート ヒロ】東京・赤坂|ニュースな新店
イタリア料理界を40年以上牽引してきた巨匠が、赤坂にこじんまりとした自店をオープン。夜な夜なシェフのファンたちが集うこの店では、山田宏巳シェフがシェフ仲間のネットワークを駆使して全国から取り寄せた食材を、自由に料理する。肩の力の抜けた、素直においしい料理に今日も人々は魅了される。
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イタリア料理界の巨匠が68歳で挑戦する新しいレストランの形
ウイットに富んだ料理は繊細な技と自由な発想から生まれる!
シェフ友達との交流で、今も進化中
イタリア料理界の巨匠が68歳で挑戦する新しいレストランの形
多くの名シェフを拝した伝説のリストランテ外苑前【ヴィ ザ ヴィ】、今なお語り継がれる往年の名店原宿【バスタパスタ】、そして西麻布【ヴィノッキオ】、青山【リストランテ・ヒロ】
銀座【ヒロソフィー】に表参道【テストキッチンH】等々……。
数々の話題店の料理長を歴任してきた日本イタリア料理界の傑物・山田宏巳シェフ。東京イタリアンの礎を築いたこのカリスマシェフが、齢68歳にして再び新境地を開いた。
場所は赤坂。一ツ木通りから一歩入った雑居ビルの3階。扉を開ければ、どこか密やかな空気の漂う美食の空間が待っている。
カウンターに立ち、にこやかに腕を振るう山田宏巳シェフ。お客様一人一人の好みや食べるペースをさりげなくチェック。量や献立の内容を変える臨機応変さもさすが。
テーブル席や個室もあるが、特等席はやはりカウンター席だろう。まさにかぶりつき。野菜を切るリズミカルな音、肉の焼き上がる匂い、そして茹であがったパスタが目の前でソースで和えられていく様子etc.料理が出来上がる様子を五感で感じながらの食事は、そのシズル感もご馳走。そこに山田シェフの笑顔があれば、最高の食卓となる。
「ここは東京。だから、イタリア人が喜ぶ料理ではなく、日本人が美味しいと思う、日本人のためのイタリア料理を自由に出していきたい。それが、イタリア料理の枠から離れていても、美味しければいいんじゃないかな。」とは、山田シェフ。これまでも、パンをバターではなくオリーブオイルにつけて食べるなど新しいイタリアンのスタイルを発信してきた彼らしい一言だろう。
美味しいものへの直感力は人一倍。美味の限りを知り尽くしたその料理は、これ見よがしに高級食材を羅列しがちな昨今の傾向とは一線を画す。
ウイットに富んだ料理は繊細な技と自由な発想から生まれる!
ある日の献立は、こうだ。
まずは前菜が3種。『冷たいトマトのカッペリーニ』に『自家製ボイルハムの温野菜添え』と山田シェフ十八番の料理が立て続けに出た後、小さなココットに入ったチーズのスフレが登場。シンプルに見えて、底には刻んだトリュフを忍ばせてあるサプライズは、山田シェフならではのウイット。鼻を擽る芳香に、食欲はますます加速されていくというわけだ。
“TOKYOX豚のくわい揚げ”。和食の蓑揚げのような一品は、TOKYOX豚の肩ロースを、繊切りにしたくわいを衣にして揚げたもの。衣のサクサク感をなくさぬよう、あえてソースはつけていない。
次なる魚料理は藁で燻したサワラのソテー、そして肉は『TOKYOX豚のくわい揚げ』と来て、締めのパスタは、あの【キャンティ】譲りの名品『シソヴェーゼのパスタ』。
これが、実に旨い。
具は、青じそとパセリ、ニンニクのみ。さしづめ中華なら卵炒飯といったところだろうか。中華の料理人の腕が卵炒飯で判るように、このシソヴェーゼも、単純なだけに調理への細やかな気遣いが鍵となる。
【キャンティ】の森岡輝成シェフ直伝! の『シソヴェーゼ』。山田シェフが若き日、乃木坂の【ハングリータイガー】(閉店)での修業時代に教わったとか。30年の封印を解いての登場。
「ニンニクはうーんと細かく刻んでね。」若いスタッフに山田シェフの声が飛んだ。彼自身も、青じそとパセリをこれでもかというほどめちゃくちゃ細かく刻んでいる。そう、この繊細さが大切なのだ。
オリーブオイルにバターを加えて旨味を補うのもポイントの一つなら、ニンニクと青じそ、パセリを軽く炒めて火を止め、茹であがったパスタと混ぜる、このタイミングも味を大きく左右する。
目の前で鮮やかに仕上げられたその一口を頬張れば、口にした瞬間、鼻腔を抜ける青じその爽やかな香りが素晴らしい。
そう、日本人にはバジリコよりも、古来よりDNAに刻み込まれてきた青じその香りの方が、味覚の琴線に響くに違いない。もともとは、バジリコが手に入らなかったための苦肉の策だった一品が、回り回って、今、“日本のパスタ”として昇華されたーと言っても良いかもしれない。白金【コート・ドール】の斉須政雄シェフによる“梅干しと青じそのスープ“と並ぶ銘品だろう。
大理石の調理台に、木そっくりに似せたコンクリートのカウンターや天井の梁など本物とフェイクが入り混じった内装は、どこか隠れ家的な雰囲気。
そして、こうした素朴な一皿にこそ、山田シェフの50余年に渡る料理人人生の集大成、料理の本質が潜んでいるように思えてならない。熟練の技はもちろん、その料理人人生の中で培われてきた舌と感性、そして人脈。これらに裏打ちされたその一皿一皿はけれんなく、それでいて、どこか洒落ている。わかりやすくシンプルな料理は、食べ疲れることなくスーっと心になじむ。
だが、そこには、山田シェフでなくては表現できない何かがある。様々な経験を積んできたからこその、目には見えない深い味わいを感じるのだ。それこそが、インフィニート=無限大の美味しさなのかもしれない。
シェフ友達との交流で、今も進化中
さて、山田シェフといえば、その交友関係の幅広さも見逃せない。
イタリアン関係者は言わずもがな、和食店からラーメン屋、異業種に至るまでまでジャンル や地域、年齢を超えた親交の深さは、業界一と言っても過言ではないだろう。
見事な牛舌は、旧知の仲である六本木の和牛料理店【さんだ】のご主人から。手前の小ぶりなトマトが、あの名作『冷たいトマトのカッペリーニ』を生んだ高知県堀田のフルーツトマト。
12月1日の正式なオープンの前、10 月半ばからの約1ヶ月半ほどの会員向けのプレオープン中は、友人シェフ達とのコラボディナーも頻繁に行われたと聞く。その置き土産?的食材も多く、例えば、前出の『TOKYOXのくわい揚げ』は、予約至難のとんかつ店南阿佐ヶ谷【とんかつ成蔵】の三谷成蔵シェフに教えて貰ったブランド豚TOKYOXを使った一品。
牛にしても、会員制焼肉店【グロッサムモリタ】の森田隼人オーナーシェフが、熊本の畜産家田中健司さんと開発した赤身が美味しい“もりたなか牛”を紹介してもらうと言った案配だ。
プレイスプレートは、惜しまれつつ閉店した【クレッセント】から譲り受けたものを使っている。料理人の思いを繋いでいきたいという山田シェフの思いがこんなところにも。
青森の【オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ】の笹森通影シェフや、岐阜【柳屋】の山田和孝氏など地方のシェフとのネットワークも広く、日本津々浦々から美味しいものが集まってくるのも、自ら進んで地方に赴き好奇心豊かな山田シェフなればこそだろう。
ちなみにコースは、15,000円から(前菜からデザートまで6品)で、前述の魚、肉の両方がつくと20,000円。予約をしてから出かけたい。
撮影/佐藤顕子 取材・文/森脇慶子
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