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あの話題の店が移転オープン! 秘密にしたい一軒家レストラン|東京・東麻布【Crony】

ミシュラン一つ星の人気フレンチ【Crony(クローニー)】が東麻布に移転オープン。新しいお店は、東京の都心にあるとは思えない隠れ家のような一軒家。非日常なのにリラックスできて、デートにも友人との食事にも、いろんなシーンで訪れたくなる。ますますバージョンアップした注目店の全容に迫ってきた。

Crony東麻布の外観

北欧のエッセンスが散りばめられた、春田シェフが作る美しく驚きのあるフランス料理と、ソムリエの小澤さんが選ぶワインがつくる世界感が魅力的な【Crony】(クローニー)。オープンしてすぐにミシュラン一つ星を獲得した人気店だ。

その【Crony】(クローニー)がオープン4年を機に、2月に移転open。ますますパワーアップしたと聞いて、早速訪れてみた。

新しい店は、大通りから一本裏通りに入ったところにある、ガラス張りの一軒家だ。以前の地下にあったときに”大人が集う隠れ家感”とはまた違う、堂々としたシックな外観。都心の一等地に建つ一軒家レストランというラグジュアリーな佇まいに、自然と期待値も上がる。

    2階のシックなダイニング

    2階のシックなダイニング

中央のドアを開けると、左側にオープンキッチンが。ここでは春田シェフが率いるチームがキビキビと料理をつくっている様子が見てとれ、一気にレストランという非日常の臨場感に引き込まれる。その奥にはゆったりとしたウエイティングスペース。そして正面には、2階のメインダイニングへ続く階段が、これから始まる至福の世界へとゲストを誘っている。

2階に上がると、高い天井と窓ガラスの開放感あふれるスペースにテーブルが配され、心地よい空気が流れている。土壁や木のテーブルなどオーガニックなインテリアが醸し出す雰囲気は、かつて訪れた北欧のレストランのようだ。

    この日のメニュー。眺めているだけでも楽しい

    この日のメニュー。眺めているだけでも楽しい

席に案内され、テーブルに着くと、温かみのある木のトレーの上にメニューが。以前のお店にはメニューがなかったから、おや? と思うと、ソムリエの小澤一貴さんが「このお店から、メニューを置くことにしたんですよ」と話してくれた。

実は、店名の【Crony】とは”茶飲み友達”という意味。それは店と、お客さま、そして、食材をつくってくれる生産者、皆が茶飲み友達のように心地良く地繋がっていければいいな、そんな思いが込められている。「その思いを形にして伝えたくて、メニューをつくることにしました」とのこと。

眺めてみると、そこには使われている食材と、その生産者さんの名前がずらり。

以前から、日本の食材を積極的に使っていたが、移転に際し、春田シェフと小澤さんが改めて生産者のもとを訪れたことで、その想いをもっと多面的に表現し、伝えられないかと試行錯誤したのだという。

    コースの中の一品。『ほうれん草 帆立貝』

    コースの中の一品。『ほうれん草 帆立貝』

「料理は、出会った食材から閃くことが多いですね」とはシェフの春田理宏さん。

たとえば、このほうれん草と帆立の一皿。生産者を訪ねて、とてもおいしそうなほうれん草に出会ったことで生まれた一皿だ。

付き合いの長い八百屋さんの紹介で、秋山さんという農家を訪れた春田さん。ふと見ると、とてもおいしそうなほうれん草があった。聞けば、育て方に工夫をしており、味が濃い昔ながらのほうれん草を目指して作っているという。

食べてみると、本来の苦みや青臭さがきちんと表現されている、とびきりおいしいもので驚いたのだそうだ。その濃厚なほうれん草本来の味わいを生かしたいと、表現したのがこの料理だった。”帆立貝はあくまで脇役”と春田さん。ナチュラルな帆立貝の甘みと食感があることで、ソースに込めたほうれん草の力強い味わいを引き立てている。

    1階のオープンキッチンで料理をする春田シェフ

    1階のオープンキッチンで料理をする春田シェフ

そんな素材を生かし、研ぎ澄まし、洗練度を増していく春田さんの料理に、ぴたりと合うワインのセレクトもまた、【Crony】(クローニー)の魅力だ。ソムリエ・小澤さんが、さまざまなアプローチで思いがけないペアリングをすすめてくれるのだが、そのワインのストーリーの話が実に楽しい。

西麻布のオープン以来、【Crony】(クローニー)名物のコースの途中に登場する、天然酵母と日本酒を使ったサワドゥブレッドにあわせるのは、なんと、日本酒酵母を使用したチリワイン。「日本酒酵母を使って、チリでワインつくっている方がいるんですか!?」と聞くと、作り手は、『シャトー・ムートン』や『オーパス・ワン』を手掛けた名醸造家で、現在はチリでワインを造るパスカル・マーティーという人物だという。

ちなみに、こちらのサワドゥブレッドは、以前の店からバージョンアップして登場。各ゲストごとに、ホールで焼いたものが運ばれてきて、目の前で切ってくれる。(食べきれない! と焦ることなかれ。食べられないのはお土産にしてくれる)。ふわりと漂うサワードゥ独特の香り(ほんのり日本酒のような香りがするのは気のせい?)でまずうっとりし、食べれば、外側はガリっと、中はもっちり、しっとり。ペアリングしたワインとあわせると、すっと溶けあうようにお腹におさまっていく。

  • ソムリエの小澤一貴さん

    ソムリエの小澤一貴さん

  • コース中盤で登場する、同店名物の『サワドゥブレッド』

    コース中盤で登場する、同店名物の『サワドゥブレッド』

ちなみに、このサワドゥブレッドは、コースの中盤に登場する。クローニーのコースは、全18品。見た目が美しい北欧やフランスのエッセンスが散りばめられた前菜の数々から始まり、食材の香りやみずみずしさが際だつ野菜の皿をへて、サワドゥブレッドで一拍。その後、絶妙な火入れで素材の味を極限まで引き出し、旬の日本らしい季節感を添えた、魚や肉の料理に続く。

それはまるで、季節を編んで生まれる音楽のよう。最初のかわいい前菜から軽やかに始まり、どんどんクライマックスのメイン料理へクレッシェンドしていく。

    この日の料理『白アスパラガス 桜 桜鱒』白アスパラの甘みとしっとりとした鱒が溶け合う

    この日の料理『白アスパラガス 桜 桜鱒』白アスパラの甘みとしっとりとした鱒が溶け合う

コースの最後を飾るのが、あらたなスペシャリテになりそうなデザート『長田さんの緑茶 本みりん』だ。

風にそよぐ茶葉のようなデコレーションをされた見た目も美しいこのデザートには、食材に敬意を払う店のメッセージが込められている。

【Crony】では、コースが始まる前に、ゲストに”茶飲み友達”の印として、一杯の緑茶を出すところから始まる。そして、こちらのデザートは、この緑茶を抽出した後の茶葉を利用して作られたもの。生産者の方からいただく全ての命を無駄にしたくない。いただけるものは最後まで美味しく料理としてまっとうさせる。ほんのりと緑茶の苦味と香りが口に広がる、美味の中には、そんな素敵なストーリーが隠れているのだ。

    デザートの『長田さんの緑茶 本みりん』

    デザートの『長田さんの緑茶 本みりん』

こうしたフードロスなどの環境への配慮は、移転後新たにフォーカスしたことなのか、とシェフに聞いてみると、「食のサステナビリティについては、以前の店から普通に取り組んでいました」と春田さん。そもそも、フランスやデンマーク、アメリカと海外経験の長かった春田さんにとって、そうした意識というのは、あたりまえにあるもので、声高に叫ぶものではなかったという。

けれど日本では、そうした思いや、考えを”伝えていく”という重要性にも気がついたと春田さんと小澤さんは語ってくれた。食を通じてさまざまな体験ができるようになった今、こうしておいしく、楽しく、ゲストがレストランから様々なメッセージを受け取るのは、今のレストラン体験の一つの楽しさであることは間違いないだろう。

”お客さま”というかしこまった距離感ではなく、大切な”茶飲み友達”として心地良いもてなしをうけて、食事を終えるころには、なんだか地球にも、人にも、もっと優しくなれる気持ちになるから不思議だ。

窓際の席からふと見上げると光る東京タワーが美しい。

日本て、思った以上に素晴らしい国なのかもしれない。コロナ禍が過ぎて、海外から友人が来れる日が来たら、真っ先にここでひさしぶりの再会を祝いたい。そんな気持ちになって店を後にした。

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子

取材・文/山路美佐
大学卒業後、丸の内の総合商社に入社するも食への探究心を抑えきれずイタリアに料理研修の旅へ。その後「家庭画報」ほかの雑誌で食・旅の編集を担当。ヒトサラ副編集長を経て、現在はフリーの食と旅の編集者に。美味探求の旅は30カ国以上にのぼる。

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