新宿ゴールデン街日記 Vol.7
新宿ゴールデン街の景色や日常を綴る【The OPEN BOOK】田中 開の連載コラム。今回は、先月でオープンから半年を迎えたという田中さんが考える、善い客、善い店についてのお話です。
Vol.7 飲食店と客の関係性
お店のオープンから先月で半年。ちょうど先日、とある料理雑誌の企画で、マッキー牧元さん、佐藤こうぞうさん、森一起さんが鼎談し、【the OPEN BOOK】を使ってもらったことがあった。そのときの、会話を脇から聞いていた。
みなさん飲食店を知る人物として、僕の大先輩だ。僕の行く店も、けっこう、みなさんが書いたり話したりするところから選んでいる。
飲食店は、飲食できるお店という定義ながら、やはり、長く続くお店は、単に美味しいとか安いということだけでなく、飲食以外の事柄で何か人をもてなせるということが大事だと、改めて思わせてくれた。
マッキーさんが、“常連”と“よく来る人”は違う、と言っていて、なるほどと思った。たった半年の経験ながら、これにはとても納得してしまった。マッキーさんは、若い頃、とにかく通っていれば“常連”になれるかと思っていたが、そうではなかったらしい。
ドライな言い方かもしれないが、店の人間にも好き嫌いはある。1回だけ会った人でも、大好きになれる人もいるし、その逆もある。接客業だろうと、人間は機械じゃないのだから、同じことをどんな人にでもできるとは限らない。お金と飲み物・食べ物の交換だけでなく、何かで気を遣ってくれた人には、こちらもサービスしたい。その関係に甘えた横柄な人には、やはりサービスというのは最低限になってしまうのが、世の常じゃないだろうか。
とはいえ、みんながみんなお店の人と仲良くしたいわけでもないし、飲みに行くときは放っておいて欲しいという人もいるはずだ。だから、仲良くすること=善、とも限らない。その場にいる人、それは店員も含めて、が居心地が良ければ、それで良いというのが、僕の考えだ。
マッキーさんは、以前、お寿司屋さんのカウンターの中に入ったとき、とても驚いたという。それは、カウンターの中から、店内が、お客さんの様子が一望できて、その様子が手に取るように分かったからだという。
ふだん、カウンターに腰掛けている分には、大抵、店内のまっすぐの方向しか見ないわけで、その一覧性は全く違う世界に映るかもしれない。そして、飲んでいる僕らは意外と無防備だけど、その様子、とくに下心なんてものは、向こうに筒抜けだったりする。とくに、口説こうとしている男性なんて、悲しいかな、分かりやすい。悲劇なのか、笑劇なのか、おそらく、その女子は僕らなんかよりも、もっと早く察している。そして、下手な口説き方をしている男子に、優しい店員は、よほどいないだろう。
常連か、ただの人というのは、うまく言葉にできないのだけれど、そうやって善いお店の通い方をしてくれるかどうかで、そして、その通い方をうまく教えてくれるのが、粋な店だと思う。森さんが例えてくれたが、酒場はやはり「大人の学校」だろう。
田中 開 プロフィール
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タナカ カイ
1991年東京都出身。早稲田大学基幹理工学部卒業、現在は同大学院に在籍中。祖父はゴールデン街をこよなく愛した、直木賞作家の故・田中小実昌氏。その縁もあり、この街にレモンサワー専門店【The OPEN BOOK】をオープンする。
田中開
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