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更新日:2021.11.18食トレンド

料理界で勢いを増す“石かわグループ”からフレンチの新店【jinen.】が誕生

2021年9月、渋谷駅にほど近い高級住宅地の南平台に興味深いレストランが誕生した。名前は【jinen.(ジネンドット)】。ミシュランの三つ星に輝き続ける日本料理店【神楽坂 石かわ】の店主・石川秀樹さんがプロデュースするフレンチレストランだ。厨房をまかされたのは、【レストラン モリエール】や【noma】、【INUA】で研鑽を積んだ加藤将益シェフ、28歳。日本料理の巨匠と、輝かしいキャリアを持つ料理界の新星がタッグを組んで生まれたこの店は、一体、どんな料理を提供するのだろう。

【jinen.】料理

閑静な住宅街にひっそりと佇む、大人のための隠れ家

    【jinen.】外観

    【jinen.】のエントランス

渋谷駅から歩くこと約10分。豪邸が立ち並ぶ閑静なお屋敷街に、フレンチレストラン【jinen.】は誕生した。豪壮な格子扉の先には、ゆったりとしたアプローチがエントランスまで続いている。誰かの私邸か、はたまたアジアのリゾートにでも、迷い込んでしまったと錯覚してしまいそうだ。

    【jinen.】外観

    緑と水に彩られたアプローチが、訪れる者を日常から非日常へと静かに誘い込む

お気づきになった方もいらっしゃるだろう。そう、此処はミシュランの三つ星に輝き続ける【神楽坂 石かわ】の系列店であった【レストラン ナンペイダイ】の跡地。しかしながら、店内に広がるのはまったくの異空間だ。かつては真っ白なクロスがかかったダイニングテーブルが、凛とした静謐さを生み出していたが、新生【jinen.】においては、丸太から切り出したままの姿を活かしたテーブルが、温かみを醸し出し、癒しを与える。「フィンユール」の椅子も、上質で心地よい晩餐を約束してくれそうだ。

    【jinen.】内観

    席数は14席。テーブルは基本的に2名がけだが、3~4名で利用できる席もある

素材の持ち味を最大限に活かす“石かわイズム”が健在

【jinen.】のテーマは、「自然」を意味する店名の通り“あるがまま”。石かわグループの総帥であり、名店中の名店【神楽坂 石かわ】の店主でもある石川秀樹さんに厚く信任された加藤将益シェフが、素材の真味を極限まで引き出した料理を提供する。

    【jinen.】内観

    アフリカンチェリーの木から切り出した無垢材のダイニングテーブルが温かみのある雰囲気

メニューは前菜からデザートまで11品で構成される、 おまかせコース一本。「次の予約を入れてくれるかどうかは最初の3皿で決まると思っています」と加藤シェフ。その言葉通り、一皿目は佇まいからして実に印象的だ。

    【jinen.】料理

    おまかせコースの一皿目『jinen.畑』

土に見立てたイスラエル産のオシェトラキャビア、旬の野菜、ドライアイスを組み合わせて、朝靄にけぶる畑が表現されている。キャビアの塩味が、野菜の旨みを邪魔しない絶妙な塩梅。これほどまでに上品でやさしい口あたりのキャビアには、そうは出合えないだろう。

二皿目は『蒸した鮑と素麺』。3時間ほどかけて丁寧に蒸し上げたアワビと、熊本の蓮根手延べそうめん、塩昆布とバターのソースを合わせた一品である。

    【jinen.】料理

    使用するアワビは、主に山口県萩沖で獲れる500g前後のもの。運ばれてきた瞬間、その大きさに心が躍る

アワビがやわらかく、その味わいになんと奥行きがあることか。蓮根の粉を使ったそうめんの食感は独特で、さながらパスタのアルデンテだ。一緒に味わうと、海の恵みと山の恵みのコントラストが楽しい。

筆者がとりわけ心惹かれたのは、三皿目の『カリフラワーのムニエル』。加藤シェフの出身地である北海道産のカリフラワーをバターで焼き上げた一品で、見た目はとてもシンプルだが、口に運ぶとふくよかな味わいにハッとさせられる。ほくほくとした食感で、カリフラワーってこんなにおいしかったのか! と驚くほどに旨みが凝縮しているのだ。まさに丁寧な火入れの賜物である。

    【jinen.】料理

    【jinen.】のスペシャリテ『カリフラワーのムニエル』。かかっているのは、鶏のだしを使ったクリームソース

「最後までおいしい」を究めたコース

    【jinen.】料理人

    加藤将益シェフ。東京にイノベーティブ・フレンチの風を吹かせた【INUA】でオープニングからクロージングまでシェフ・ド・パルティを務め上げた。底抜けに明るい人柄で、ファンが多いのも頷ける

石川さんが声をかけただけあって、加藤シェフは素材の持ち味を活かすセンスに長けている。そのことをご本人に伝えると、シェフはこんなことを話してくれた。

「【INUA】が閉店して宙ぶらりんの状態だったときにおやっさんに声をかけていただき、とりあえず一緒にお昼を食べたんです。そしたら、その数時間後に『夜は【石かわ】に食べに来ないか』と誘われて。正直なところお腹はパンパンだったのですが、意を決して出かけたら、思いがけない展開が待っていました。なんと、全部食べられてしまったんですよね。それで、理解しました。本当においしいものは抵抗なく、体にすっと入っていく。【jinen.】でも、最後までおいしいと思いながら食べていただけるコースを究めたい。それが私の向かうところです」

    【jinen.】料理

    〆のリゾットの後には、エポワス、コンテ、ブリ・ド・モー、フルムダンベールの4種のチーズが登場。食後酒と共に、美食の余韻に浸る

食べ疲れすることなく、最後までおいしくいただくことは、食べる側からすると最も理想的な食体験だ。石川さんに見出された加藤シェフならば、それを高いレベルでやってのけるのだろう。「自分の評価ではなく、お客さんが喜ぶことを第一に考えるおやっさんに憧れる」とシェフは語ったが、取材中、常にこちらのことを気遣い続けてくれたシェフもまた、目の前の人を幸せにできる料理人に違いない。

    【jinen.】外観

    アジアのリゾートを彷彿とさせるアプローチが美食の余韻を深める

最後にひとつ朗報を。
【jinen.】には予約が殺到しており、すでに2021年のディナーは満席となっているが、12月からは土曜だけでなく、平日の昼も営業するとのこと。時間は12時~、12時30分~、13時~の3パターン。メニューはディナーと同様である。ぜひ、チェックしてほしい。

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子 取材・文/甘利美緒

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