「客は待たせてもビリヤニは待たせない。」時間指定の完全予約制ビリヤニ専門店|【ビリヤニ大澤】小川町
「美味しさで勝負したい」と商業地ではなく、あえてカレーの街・神保町にほど近い小川町にオープンした【ビリヤニ大澤】。時間指定の完全予約制で、ビリヤニだけを提供する専門店だ。そのこだわり抜いたビリヤニを食べるため、お店に伺ってみた。
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ビリヤニのおいしさのみで勝負する専門店
5時間かけて作る、「究極のビリヤニ」
愛犬の病気と自分の鬱状態を救ったビリヤニ
ビリヤニのおいしさのみで勝負する専門店
店内のデザインは前身である【ビリヤニハウス】時代からの常連のデザイナーが手がけ、シンプルながら照明などには凝っており、落ち着いて食事ができる空間
8月末にオープンしたここ【ビリヤニ大澤】はその店名通り、ビリヤニを売りにした店。いや売りどころか、ビリヤニしかない専門店だ。チキンやマトンといった具材がゴロリと入ったカレーとお米による、スパイシーなインド風炊き込みご飯とでもいうべきビリヤニ。2~3年前から人気となっているが、まさか専門店ができるだなんて。と、さっそく行ってみたのだが、そこにはインディカ米を超える衝撃の連続が待っていたのだ。
大澤孝将さん。「おいしいビリヤニが作れなければ、自分は生きている価値がない」とまで言い切るほど、ビリヤニへ熱い想いを注ぐ
店主・大澤孝将さんのモットーは「ただただ究極においしいビリヤニを作りたい。それを食べてもらいたい」とシンプルだ。しかし、その究極を目指すための工程は実に様々で、なんと5時間をかけて作り上げるのだという。せっかくなので、その工程も見せていただくことに。
5時間かけて作る、「究極のビリヤニ」
マトンを使ったビリヤニを例に取ると……まずは骨付きのまま、きれいに切断したマトンを油で煮ることから始まる。
まずは下準備に、2時間30分!-
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油が沸騰したら弱火にしてマトンをコトコトコトコト1時間50分。「時間はかかりますが、油で煮ることで羊の旨みやコラーゲンを閉じ込めつつ、柔らかく仕上げることができます」
コトコトの間に、玉ネギをスライスして約115度の油で45分ほど素揚げに。
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玉ネギは旨味が出るまでしっかり加熱。「炒めてしまうと鉄板に当たる部分のみ高温になり、苦味や酸味が出てきます。揚げると繊細な温度管理ができるので、満遍なく熱が回ります」
手の込んだふたつの作業。しかしこれらは、まだ下準備。続いてはスパイスの調合だ。
さらに2時間かけて、カレーのベース作り-
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ターメリック、レッドチリ、クミンとカレーにお馴染みのものにシナモン、ナツメグ、クローブなど全9種を独自のレシピで配合。
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さらに隠し味のビリヤニミックスと混ぜ合わせる。「これを使うと途端にこなれたパキスタンの味になるんですよ(笑)」
混ぜ合わせたら、今度はミキサーにかけたニンニク、生姜と一緒に油でじっくりと炒め合わせる。
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「高温すぎると苦くなるので、低めの温度で絶対にこげ付かさないように」と、決して目を離せない。その加熱したスパイスとトマトの水煮、ヨーグルト、を合わせて再び加熱。
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そこに最初に油で煮たマトンと素揚げした玉ネギを加え、肉汁を飛ばすようにしっかり炒め合わせればカレーの完成だ。
……ふう、もう少し。
上記のカレーをじっくり加熱している間に、米を塩茹でし、炊きあがった米をカレーと交互に重ねていく。
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米は、重ねる段によって炊き加減を変えるため、2つの鍋を使い分ける。香り豊かなラールキラーという最上級品の米だ。
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タイマーも、鍋によって分数を変えてスタート。使う塩はフランス産の岩塩・ゲラルド。様々なミネラルを含んでおり塩味がマイルドで、米が旨味をまとって茹でられるのだという。
カレーと米が揃ったらいよいよ仕上げ。
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大きな大きな鍋にカレー、その上にライスと重ね入れ、フタをして、さらにアルミホイルで熱が逃げないように鍋を覆い、弱火で約20分。鍋の内部が100度になったらついに完成だ。
よそったらようやく完成!
並々ならぬ情熱あふれる5時間。ふぅ…(これでもかなり、はしょってます)
いよいよ実食!
数度噛むと、独特の香りを残しつつ、ふわふわっと溶けていく
5時間の末のビリヤニ。ひと口食べれば……まずはバスマティライスの香りと溶けるような食感の後、スパイスの香りと刺激、さらに数度噛むとほぐれていくマトンからのコクと風味。
米とカレーだけなのに、甘味、辛味、旨み、風味、コク、おだやかな塩味……なんという多層なるハーモニー!
そこにビリヤニに一番合うドリンクはこれです、と大澤さんが胸を張る、マイナス1度に冷やしたコーラを飲めば、その甘味と炭酸によるリセット感が次のひと口を呼び、本当に手が止まらないのだ。
コーラを冷やすためだけの専用冷蔵庫で、キンキンに冷やした『-1℃のコーラ』300円
700g近くと大振りに盛られたビリヤニがみるみるなくなっていく。その美味しさと食感に「こんなの初めて!」と驚かされた。
愛犬の病気と自分の鬱状態を救ったビリヤニ
大澤氏がビリヤニにハマったきっかけは、10年ほど前の南インド旅行の時。本来は別の目的があったらしいが、たまたまビリヤニを食べ、その美味しさに驚愕。以後の日程はすべてビリヤニの食べ歩きに変更し、朝も昼も夜もと、とにかくビリヤニを食べまくったそう。
『ビリヤニ』は、レギュラーサイズ 1,800円/フルサイズ 2,500円
帰国後、縁あって経堂にある人気インド料理店【ガラムマサラ】に入店。インド料理を覚えつつ、休店日には知人を集め店内でビリヤニを振る舞っていたそう。さらには、一軒家を借りて【ビリヤニハウス】と名付け、休日にみんなを集めてさまざまな味わいのビリヤニを楽しみ続けていた。
かつて大澤さんが店長を務めていた【ガラムマサラ】。「いまだに、ガラムマサラのことを“うちの店”って言っちゃいますね(笑)」
が、コロナ禍でそれもままならなくなってしまう。「それで少し鬱っぽくなってしまって…しばらく無気力でした」。
ビリヤニが作れなくなったショックで体調を崩し【ガラムマサラ】を辞めることに。美味しいビリヤニをまた食べたいというリクエストも多かったが、なかなか難しかった。
大鍋をたくさん使うのでお店を貸切る必要がある上に、一度に大人数分を作らなければおいしく炊きあがらないため“密”を避けての提供が難しかった
そんな大澤さんに転機が訪れる。愛犬が病気になってしまったのだ。手術が必要だが収入がない。どうすれば……
いろいろ考えた結果が「自分自身に価値を見出すには、自分が人に喜んでもらうには、ビリヤニしかない」という思い。
そこからクラウドファンディングで資金を集めるなど、さまざまな障壁を乗り越え、この【ビリヤニ大澤】の開店にいたった。そして開店に当たってひとつだけ心に決めたことがある。「単なる現地の味の再現ではなく、それを超えた、自分にしか作れないビリヤニを提供する」。
おいしい炊き立ての状態でビリヤニを提供するために、お店は時間指定の完全予約制。「お客さんは待たせるけど、ビリヤニは待たせたくないんです(笑)」
その思いの実現には調理法だけでは追いつかない。米は最上級のバスマティライス、マトンは必ず骨付きの状態で仕入れ、購入した専用の機械で骨をきれいに切断する、スパイスは自身で調合するなど、食材にもとことんこだわる。さらに手で食べる人とスプーンで食べる人の器を変えるだけでなく、スプーンは味に影響してしまう金属製ではなくホーロー製のものを揃えるといったことにも気を配る。
手で食べる人には平皿で、スプーンを使う人にはやや深めの皿で提供し、スプーンはホーロー製
意思が十分に込められたビリヤニ。ひと口食べれば……「すげぇうめえ」。そんな声が漏れるのが必至の食体験をしに、ぜひ足を運んでみてほしい。
最後に、愛犬(マロンちゃん)の手術は無事成功。元気に駆け回っているそうです。
取材・文/武内 しんじ(フリーライター) 撮影/今井 裕治 構成/関口 潤(ヒトサラ編集部)
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