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更新日:2020.12.02食トレンド

コース仕立てのネパール料理、その哲学を味わう【OLD NEPAL TOKYO】豪徳寺

大阪の人気店「ダルバート食堂」のシェフ・本田遼氏が、2020年7月、豪徳寺にオープンした【OLD NEPAL TOKYO(オールドネパールトウキョウ)】。ここでは、家庭的な料理であるネパール料理をコース仕立てに昇華し、さらにナチュラルワインと併せて提供するという。一体どんなお店なのだろうか──

Khaja/カジャ

豪徳寺に突如現れた、ネパール料理専門店【OLD NEPAL TOKYO】

スパイスに対する概念が変わった。
野菜には様々なスパイスが調合されている。食べれば刺激的な香りや独特の風味が口いっぱいに広がってと思いきや……確かにターメリックや自家製のガラムマサラといったスパイスが口中に広がる。しかしそれは想像以上に穏やかで、むしろキュウリやカブといった野菜たちのしっかりした味わいに驚かされる。スパイスによって野菜のおいしさが引き出されている。

    南瓜のタルカリ(野菜料理)

    『南瓜のタルカリ(野菜料理)』。南瓜を濃厚なスープ仕立てにし、グリーンチリのアチャールをのせて辛味のアクセントを加えている

カレーも同様だ。スパイスの香り、鮮烈な味わいを楽しませつつ、そのスパイスによって肉の風味や旨味、コクをもしっかりと楽しませてくれるのだ。臭み消しのためではない。スパイスという名脇役が演出する素朴かつ複雑なおいしさの数々に舌鼓の連打だ。

    OLD NEPAL TOKYO 内観

    レンガを効果的に取り入れることで、カトマンドゥの街並みの雰囲気を演出。木材を多く使用し落ち着いた空間となっている

世田谷区豪徳寺駅から伸びる商店街を1分ほど歩くと、目指す『OLD NEPAL TOKYO』が見えてくる。2020年7月にオープンした新店だ。5年前、大阪に開業して以来、人気を博し続けている【ダルバート食堂】。そのオーナーシェフの本田遼氏が東京に初出店した店である。
 

「Khaja/カジャ」~前菜~

大阪で提供していたのは“ダルバート”(豆のスープ“ダル”と、ご飯“バート”そしてアチャールやカレーがワンプレートにのったもの)のみだが、東京では単品ではなくコース仕立てで楽しんでほしいと、数種の“カジャ”からスタートする。

    カジャ

    コースの最初は「Khaja/カジャ」から始まる。カジャとは、メイン以外の軽食のようなものの総称

“カジャ”は主に白ごはん以外と食べるもののことを指す言葉で、同店ではネパールを俯瞰でみたカジャを用意。たとえば取材した月はネワール族スタイルで、別の月はシェルパ族、また別の月はポカラ地方など、前菜としてカジャを用意し、様々なアチャールとのペアリングで提供してくれる。

    ロティ

    ネパールの家庭で一般的なロティ(薄焼きパン)は素朴な味わい。酸味の効いたジャガイモのアチャールと一緒に

    グンドゥルックのアチャール

    『グンドゥルックのアチャール』。周りは紅真大根、ビーツ、ピスタチオなど。よく混ぜていただく。グンドゥルックの酸味が野菜の味を引き立てる

これらもすべて“カジャ”。いただいたのは、『ヒエのロティ×じゃが芋のアチャール』、『南瓜のタルカリ×グリーンチリのアチャール』、『里芋とウラド豆のマショウラ×黒ニンニクのアチャール』、『グンドゥルック(乳酸発酵させた青菜を乾燥させて戻したもの)のアチャール』。どれも野菜の素朴なおいしさをアチャールが引き出す組み合わせ。合わせて頼んだナチュラルワインが止まらない。

    ポークセクワ

    『ポークセクワ』。マリネ後にローストし、ネパール山椒とトマトのアチャールなどを添えて提供

そしてカジャの最後に出されたのが『ポークセクワ×ネパール山椒とトマトのアチャール』、『フレッシュコリアンダーのアチャール』。セクワは現地ではスパイスでマリネした肉を串焼きしたものを指すが、【OLD NEPAL TOKYO】では絶妙に火入れしたローストで提供。

こちらもネパール山椒が豚肉の甘味を引き立て、コリアンダーが豚の濃厚な旨味にさわやかな味わいを添える。なんと絶妙な味の組み合わせ! 正直、もっと食べたいのですが……とお願いしたくなるほどで、このカジャで一気にネパール料理のファンになる。
 

「Khana/ダルバート」~メイン~

    ダルバート

    こちらがコースのメインであり、ネパールの国民食でもある「ダルバート」。ごはん、豆のスープ、おかずなどをあわせてこう呼ぶ

ついで提供されるのが「Khana/ダルバート」だ。
中央に『ライス』、奥に『ダール(豆のスープ)』、『猪カレー』と『チキンカレー』、手前にじゃが芋、なす、グリーンピース、カリフラワーを使った『本日の“タルカリ”(野菜の炒め煮)』。さらに大根、りんご、フレッシュトマト、発酵させたひなのかぶ、そして『本日のアチャール』が5種と、その日の青菜の炒め物がある。メニュー名を聞いているだけでお腹いっぱいになってしまいそう(笑)。

    猪カレー、チキンカレー、ダール、5種のアチャール

    ご飯は中粒米と長粒米をブレンドし使用。手前が猪カレー、奥がチキンカレー、その右隣がダール、周りには5種のアチャールが並ぶ

まずはダールをひと口。とろりとして、素朴ながら食欲を掻き立てられる味わいだ。ついで、そのダールを香りよいライスにかけ、あとは気分でカレー、タルカリ、サーグを加えて混ぜ合わせ口に運んでいくだけ。

カレーだけならスパイシーで、タルカリも混ぜればやさしい味わいが加わるし、ザーグまで混ぜれば様々な素材の味とスパイスが幾重にも絡み合う複雑で贅沢な味わいに。そのバランス次第で、噛むたびにいろんな表情を見せてくれる。それがおいしくて、楽しくて、ワインに合って……すっかりネパール料理の虜だ。
 

「Mithai/デザート」

最後は、ネパール産ピーナッツバターのクルフィ(アイス)がデザートとして供される。アイスとその上にふられたシナモンなどのスパイスが口のかなで溶け合い絡まり合う、甘さと様々な香りの一体感にあぁ至福。

あくまで“ネパール料理”の枠内で、新たな魅力を引き出す

    シェフの本田遼氏。「料理の文献が少なく、現地での会話を通じてネパール料理を探って行くのが難しくも楽しい」と語る

    シェフの本田遼氏。「料理の文献が少なく、現地での会話を通じてネパール料理を探って行くのが難しくも楽しい」と語る

聞けば、本来ネパール料理はコースでは食べられないと言う。しかしネパールに魅せられた本田遼氏は、ネパール料理、ひいてはネパールの食文化の魅力を広く知ってもらいたいと敢えてコースとして提供しているという。

ネパールでは外でどれだけ“カジャ”を食べても、家に帰ってご飯である“カナ” (ダルバート)を食べる。そこに目を付け、カジャによる前菜、ダルバートをメインにというコースを構成。

    里芋とウラド豆のマショウラ

    里芋とウラド豆のマショウラ(ベジミート)。フライ仕立てにし、黒ニンニクのアチャールを添える。黒ニンニクの香りがほどよいアクセントに

「目指すのはネパールの人に『これはネパール料理だね』と言われつつも、日本の人には『ネパール料理ってこんなに美味しいんですね』というふたつの味の実現」と本田氏。

そのために過剰にスパイスを使わず、余計な素材を加えず。しかし、それと同じくらい洗練された一品に仕上げることにも留意している。カジャはもちろん、手のかかるアチャールも自家製なのはそのためだ。

    自然派ワイン

    香りのマリアージュも楽しんでほしいと、白とオレンジの自然派ワインを多数揃える。グラス800円〜。他にネパールのラムなども用意

また「ネパールではあまり飲まれないナチュラルワインを揃えることで、食文化の広がりの提案もしていきたい」とも。香り豊かで余韻が穏やかなナチュラルワイン、特にオレンジを含めた白は、やはり香り豊かなネパール料理と好相性で、味だけでなく香りのペアリングが堪能できる。

    OLD NEPAL TOKYO 外観

    ネパールの街かどで見かける鉄板をイメージした扉のエントランス。商店街を歩くこと数分、ムーディーに照らされた同店が佇む

「いつか…できれば5年後くらいにネパールで店を出したいんです。東京で成功したネパール料理ということで、現地の注目も集めるだろうし、その店を模倣した店も増えると思うんです。それがネパール料理のレベルアップにつながれば……そうやってネパールに恩返しが出来たら嬉しいですよね」。

開店して半年ながら、この味、サービス、哲学さえあれば東京での成功も、ネパールでの成功も必ず掴めるはずだ。
 

本田 遼氏

    1983年、兵庫県神戸市生まれ。専門学校を卒業した後、様々な職を経験しつつ、世界を旅して回る。23歳の時に「こんなに感動した料理は初めて」というネパール料理と出合う。日本に戻り、料理人としてのスタート。2015年、大阪に「ダルバート食堂」を、2020年東京に「OLD NEPAL TOKYO」を出店。著書に「ダルバートとネパール料理」(柴田書店)がある。

    1983年、兵庫県神戸市生まれ。専門学校を卒業した後、様々な職を経験しつつ、世界を旅して回る。23歳の時に「こんなに感動した料理は初めて」というネパール料理と出合う。日本に戻り、料理人としてのスタート。2015年、大阪に「ダルバート食堂」を、2020年東京に「OLD NEPAL TOKYO」を出店。著書に「ダルバートとネパール料理」(柴田書店)がある。

この記事を作った人

撮影/今井 裕治 取材・文/武内 しんじ(フリーライター)

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