一歩先を行く創作日本料理の名店【La BOMBANCE】の岡元氏がおすすめする日本酒5選|SAKENOMY
全国1300軒を超える酒蔵や数万を超える日本酒情報をお届けしている、日本酒ソムリエアプリ「SAKENOMY」。日本酒をよりおいしく、楽しんで欲しいと、飲食店のプロが日本酒と料理の合わせ方のコツを提案。今回は六本木【La BOMBANCE】の岡元信さんが登場。数多ある酒蔵から店に合う日本酒を選ぶ基準について、独特のアプローチの仕方を岡元さんに伺った。
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『白瓜と数の子の和え物・とうもろこし揚げ・牛ロースの焼きおにぎり、サマートリュフを器に見立てたほおずきに盛り付けて ほおずきトマト』 × 「東洋美人」
『素麺 酸・苦・辛・旨などさまざまな香りや味わいとともに』 × 「十四代」
『いちじくの胡麻味噌ソース・焼きごま豆腐、カニと空豆のあんかけ』 × 「紀土」
『焼き魚や煮魚』 × 「磯自慢」
『クリアな魚介のスープ』 × 「林」
【La BOMBANCE】
「ジャンルを超越した日本料理を楽しんでほしい」という思いから、フランス語で「ご馳走」という意味の『La BOMBANCE』という店名でオープンしたのが17年前のこと。紀尾井町の高級料亭『福田家』で腕を磨いたオーナーシェフ・岡元信さんが生み出す料理は、和の伝統、技法を大切にしながらも、フォアグラやトリュフなど西洋の高級食材をも取り込み、魚の出汁をムースにするなど、自由奔放だ。こういったスタイルも今でこそ当たり前になったが、まだイノベーティブ・フュージョンというジャンル名がなかった時代だけに、日本料理の新しいスタイルを追求するまさに先駆け店として一斉を風靡し、ミシュランの星も獲得。今もなお唯一無二の独創性で常連客を飽きさせず、また新規客を驚かせている。
店内の内装、器使いもモダンでアーティスティック。それでいてどこか可愛らしさを感じる抜け感も独特だ。常に時代を先取りしていく岡元信さん。オープン当初はワインに力を入れていたが、近年は日本酒も充実させている。特に、東洋美人の造り手・澄川氏、十四代の髙木氏をリスペクトし、料理も造り手の個性からインスパイアされペアリングを考えているとのこと。
「飲み疲れない、飲み飽きない」が僕のおいしいお酒の基準。一杯、二杯はおいしくてもだんだん重たくなってくるものは苦手です。香り華やかで味がきちんとありながら、雑味など余計なもの、ネガティブな要素がなく、軽やかで、きれいにすーっと体に溶け込んでいく。はかないけれど余韻は長く、「ああ、また飲みたい」とう印象を深く残してくれる奥深い魅力をもったお酒に惹かれます。でも、これはあくまでも僕の好み。美味しさの基準は人それぞれです。
おいしいお酒も沢山あります。どうやって自分の料理に合うお酒を選べば良いのか迷ってしまいますよね。僕の場合、お酒の味や造り云々ではなく、お酒を造っている人で選んでいます。お酒に対する哲学、考え方に共感できる、リスペクトできる、深く知りたいと思う、「自分と気が合うだろうな」と思う造り手のお酒を選んでいるのです。そして、ペアリングを頼まれた場合は、造り手のルーツをたどり、その人が育った風土や時代など、生み出された作品のバックグランドを想像し、造り手自身を描くような料理を作ります。また、日本酒は提供温度も重要です。管理は低温貯蔵できる冷蔵庫で保管し、提供するときは、少しずつを心がけています。
1.『白瓜と数の子の和え物・とうもろこし揚げ・牛ロースの焼きおにぎり、サマートリュフを器に見立てたほおずきに盛り付けて ほおずきトマト』 × 「東洋美人」
蔵元杜氏の澄川宜史さんはとても華やか、あでやかでスター性があります。反面素朴なところも見受けられ、どんなに人気酒蔵になっても奢ることなく、一つひとつのディテールを大切にきちんと整ったものを作り上げています。華やかさ、艶やかさはオレンジ色のほおずきで表現。色の鮮やかさがより際立つように白い器を使いました。そして、白瓜と数の子、焼きおにぎりと牛ロースやトリュフといった具合に、素朴なものと高級感を感じるものを合わせています。
2.『素麺 酸・苦・辛・旨などさまざまな香りや味わいとともに』 × 「十四代」
十四代の髙木顕統さんが造るお酒は、地軸となって世界を動かす魔法のようなエネルギーがあります。その視野は、地域、日本を超え、世界を巻き込んでもなおぶれないパワー。味わいの厚みは複雑すぎて解明できないくらい天才的です。こういうお酒には、一個人の思索でピンポイントで何かを合わせるという必要はありません。何を合わせようとも、酸、旨味、コクでカバーして包みこんでくれるくらいの包容力があるからです。十四代のお酒にはもうおんぶにだっこで遊んでもらうしかない。頼りっぱなしですがそれが楽しいのです。そこで、いろいろな味わい、香りを散りばめた一皿にしました。香ばしく焼いた鮎の香り、身の柔らかさの中にほのかに潜む苦味、出汁の旨みが染み渡った冬瓜、生ハムの熟成した香り、甘酸っぱいほおずきトマト、茗荷や生姜など薬味を加える素麺などすべてを受け止めてくれる十四代。宇宙的なスケールなので、天体を思わせる器を使いました。
3.『いちじくの胡麻味噌ソース・焼きごま豆腐、カニと空豆のあんかけ』 × 「紀土」
海あり山ありの風光明媚な和歌山、海南にある酒蔵。“風土”をテーマにするという強い思いから“紀土”という名前にしたそうです。その風土を思い浮かべれば、単に景色が良いというのではなく、荒々しさもあれば静けさ、のどかさもある。温暖かと思いきや冷たい風が吹く、強い光と漆黒の陰など緩急のある町。確かに紀土を飲むと、「えっ、こうくる?」という嬉しい裏切りに感動させられます。だから、料理も食材や温度、食感で「なるほど、こうきたか」と感じてもらえるような想像を超える対比を考えました。まずひとつのお盆に2つの対比。ひとつは冷たく、ひとつは温かい。いちじくに甘辛ソースとナッツの食感。焼いた胡麻豆腐にあんかけ、というあまりない組み合わせ。緩急でペアリングというわけです。
4.『焼き魚や煮魚』 × 「磯自慢」
磯自慢は、伊勢志摩サミットでは乾杯酒として採用された日本を代表する銘柄の一つになっています。八代目の寺岡洋司さんは、大変真面目で几帳面な方、という印象です。知識をきちんと積み上げ、技を駆使して、一つひとつ根拠のある造りを目指していらっしゃる。業界ではパイオニア的な発信力もあり、尊敬を集める人物。透明感のあるすっきりとした味わいながらも奥行きや、柔らかな厚みを感じます。十四代と同じく、誰が飲んでも美味しいと感じる正統な酒造りは本当に素晴らしい。イメージするのは、やはり正統な日本料理。信楽焼、篠焼などどっしりとしながらも美しい伝統的な和食器が似合うと思うので、そこに、焼き魚や煮魚をシンプルに盛り付けたいですね。
5.『クリアな魚介のスープ』 × 「林」
富山に『La BOMBANCE 環水公園』を出店し、現地へ行く機会が増え、出合ったのが「林」です。料理店で初めて飲んだ時、味わいから富山の冬を思い浮かべることができました。雪が積もりしーんと静まりかえった風景の中、真面目に一生懸命働く蔵人‥‥。林さんにはまだお会いしたことがありませんが、今一番興味を持っている方です。富山は一級河川が5本も流れ、海から山までの高低差が4000m。水に恵まれているだけでなく、U字に深くえぐれた富山湾は世界でも珍しい地形と聞いています。美しい水が育むお酒と魚介。実は僕は日本酒のつまみとして一番おいしいつまみは、ダシだと思っています。「旨い」と「旨い」の最たる相乗効果。その醍醐味をこの「林」で味わうことができると思いました。富山湾で揚がった魚介でクリアな出汁を取りそこに少しの塩を加えただけのシンプルなスープで。春は桜鯛、夏は牡蠣、冬はタラ‥‥、秋は魚介ではなくキノコが良いかもしれません。九谷の器でお出ししたいですね。
「香りが華やかすぎず、辛口であればたいていの料理に寄り添ってくれるものなので、もっとおおらかに楽しんでいい」と話す岡元さん。試飲会、あるいは食事に行った時に出会ったお酒で「どんな場所で、どんな人が造っているのだう?」という興味が湧いたものは、造り手の育った環境、つまり、地形、気候、特産物や郷土料理、陶磁器類のことなどまで調べ尽くす。さらに造り手が生きてきた時代背景、土地の歴史なども掘り下げていくという。「幅広く知識を得て、食材、料理法を合わせていけば間違いなく寄り添ってくれると僕は信じています」と強い信念のもと、あまり種類は増やさず、造り手とのつきあいを深めた上で料理を考え、「合って当然」という飲み合わせで提供している。また、「造り手への礼儀として、味わいが落ちないように管理することはもちろん、個性を伝えるための酒質にあった酒器選びもできる限りの努力をしたい」と岡元さん。酒蔵直送、-5度で貯蔵など品質にも気を配り、酒器も多種多様に揃えているのもさすがだ。
【ラ・ボンバンス La BOMBANCE】
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電話:050-5871-2153
住所:東京都港区西麻布2-26-21-B1F
アクセス:六本木駅 徒歩10分店舗詳細はこちら >
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取材・文:藤田実子 撮影:藤田実子・La BOMBANCE
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