【ドンチッチョ】【シュリシュリ】出身シェフが腕を振るう、アラカルトで気軽に楽しめるイタリアン誕生|赤坂【フィレモネ】
2022年7月、赤坂の住宅街にオープンした【Firemone(フィレモネ)】。ここはアラカルトで気軽に楽しめるイタリアンのお店です。シェフやサービスマンは名店【ドンチッチョ】や【シュリシュリ】出身のお二人。自由度が高く、気軽に訪れることのできる大人のイタリアンがまた1軒増えました。
場所は赤坂。とは言っても、赤坂、乃木坂、そして青山一丁目駅とどの駅から歩いても、10分近くはかかる住宅地。繁華街の喧騒とは無縁の目立たぬビルの一階に、人しれず店を構えたイタリア料理店。ここが、今、注目の【フィレモネ】だ。
店名は、ローマ神話に登場する名前なのだとか。疲れた旅人(実は神様)をもてなし、癒した人物の名をつけたのは、オーナー兼マネージャーの森裕太さん。そこには「肩肘を張らずに、好きなものを好きなだけ寛いだ気分で召し上がって頂きたい。」との願いがこめられている。
ランチタイムには陽光降り注ぐ店内は、春風を思わすうららかな雰囲気。白木に白壁、水色のナプキンが目に爽やか
その思いを反映するように、全面ガラス張りの店内は、カフェを訪れるような気軽さも魅力。扉を開ければ、白壁に木の温もりが伝わる軽やかな空間が目に爽やかだ。コースは置かずアラカルトのみ、というスタイルもカジュアル気分をもりたててくれる。
カウンター席もあり、1人でも気兼ねなく来られそう。少し遅めの時間なら、ワインバーとしても楽しめそうだ
サービス担当の森さんとガッチリタッグを組むのは、新田大介シェフ。実はこのお二人、修業時代からの仲良しで、共に外苑前の【アンティカ・トラットリア・シュリシュリ】(以下【シュリシュリ】)出身。森さん曰く、「【シュリシュリ】時代、新田シェフとは帰り道が一緒だったんです。で、料理への思いなど様々な話をする中で、彼となら波長が合うなと。なので、店をやりたいと思った時に声をかけたわけです。」
【シュリシュリ】では、スーシェフとして腕を振るった新田大介シェフ、38歳。パスタもお得意
加えて、【シュリシュリ】で働いていた時、森さんがメニューにない料理のオーダーを勝手に取ってきても、しれっとして作ってくれる新田シェフの柔軟性も一目置いていた。
シェフとサービスマンのこの関係、どこか既視感がある……と思っていたら、気が付いた。四の橋の【ロッツォ・シチリア】がまさにそれ。オーナー兼マネージャーの阿部努さんと中村嘉倫シェフの関係とリンクする。しかも、出自も同系列というデジャヴ感! 思えば、厨房とサービスとの一体感、距離感のあるフレンドリーな対応は、【シュリシュリ】、ひいては【トラットリア・シチリアーナ・ドンチッチョ】のDNA を受け継いでいる。
メニューはアラカルトのみ、というスタイルも然り。手書きでびっしり書き込まれた料理は、前菜からパスタ、メインまで内容も豊冨。ベタな郷土料理というよりも店の雰囲気に合わせ、少しライトなテイストで楽しませてくれる。「肉の煮込み料理のような山の料理と魚介のフリットミストといった海の料理をバランスよく取り入れています。」とは森さん。
長崎五島直送『燻製ヒラマサのカルパッチョ』1,800円。ヒラマサは、イタリア版魚醤のコラトゥーラで味付けしている
魚介類は、主に森さんの故郷長崎から取り寄せているそうで、既に定番化した人気メニューの『燻製ヒラマサのカルパッチョ』もその一つ。神経締めにし、真空パックで氷詰めにして送られてくるというヒラマサは、鮮度も良く身の締まりも上々。これを2〜3日熟成させ、旨みをより凝縮させてから用いている。肉厚にスライスした一切れを口にすれば、シコっとしつつもむっちりとした歯応えの中、仄かな薫香が更に旨味を引き立てる。ハーブの香りがアクセントとなっている。
『ポルチーニ茸のクレープと伊産グレートトリュフ』1個1,800円。目の前で削りかけてくれるトリュフと香りもご馳走
また、写真の『ポルチーニ茸のクレープと伊産グレートリュフ』は、パンチェッタやほうれん草、リコッタチーズなどを、ベシャメルソースと共にクレープで巻き、焼き上げたトスカーナの名物料理“クレスペッレ・ア・ラ・フィオレンティーナ”をリメイク。ポルチーニ茸とトリュフをあしらい、小ぶりに品よく仕上げ、より食べやすくリッチに仕上げている。
前菜の豊富さもさることながらパスタの充実ぶりも見逃せない。『トラパニ風フレッシュトマトのぶっかけスパゲッティーニ』のようなシチリアテイストから、卵をふんだんに用いて作るピエモンテの伝統的な手打ちパスタタヤリンを使った『伊産グレートリュフのタヤリン』、そして、カルボナーラやボンゴレビアンコといったおなじみの味まで10種類あまりがずらりと並ぶ。
『アオリイカと菜の花、伊産カラスミのスパゲティーニ』2,400円(写真はハーフサイズで1,200円)。料理は2人で楽しめる
写真は、春らしく軽やかな『アオリイカと菜の花、伊産カラスミのスパゲッティーニ』。その甘みをより強く感じられるよう肉厚にカットしたアオリイカに対し、菜の花はパスタと絡みやすいようソース状に仕立てる等々、食感のメリハリの効かせ方もさすが。パスタは、イタリア産デュラム小麦100%のプリルメーチ社製スパゲッティーニを使用。もちもちとした食感が特微のパスタは、噛み締めるほどに小麦の風味がじわりと広がり、ソースとの相性も上々。オイルベースによく合うパスタだ。
前菜何品かワインと楽しみ、〆にパスタで軽く仕上げるのもアラカルト店ならではの楽しみ方だが、せっかくならメインもしっかりと味わいたいもの。メインには、『牛頬肉の赤ワイン煮込み』や『三元豚のカツレツ』など肩の力が抜けた料理がラインナップ。リラックスした気分で味わえるのも◎。
『エゾ鹿(芯玉)のロースト マルサラとベリーのソース』4,200円。一皿だいたい180〜200gで提供。シンプルに美味
今回、新田シェフのおすすめは『エゾ鹿(芯玉)のローストマルサラとベリーのソース』。180℃のオーブンで、ゆっくりと休ませつつ焼き上げた鹿肉は、ロゼ色の断面も美しく、身はしっとりと柔らか。ソースには、赤ワインではなくシチリアの酒精強化ワインのマルサラ酒を使用。辛口タイプにカラメルを加えてコクと甘みを足し、ベリーを合わせて酸味を補っている。
左から泡タイプのフランチャコルタ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノなどワインは全てイタリア産
ざっと150~200種が揃うワインはイタリア産のみ。森さんによれば「春は、春の味覚である苦味や苦味を意識して、北イタリアのワインを、冬は煮込み料理やバターを使った料理が多くなるので、華やかな香りのピエモンテ州のワインをいうように、四季の味に合わせてお薦めしたいと思っています。」とのこと。グラスワイン(900円~)も、常時赤、白各3~4種類ほど揃っている。
撮影/三橋 優美子 取材・文/森脇 慶子
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