コンポストにも取り組む、人気ビストロ元料理長による【atti(アティ)】|東京・白金高輪
大人の美食家が集まる港区・白金高輪で、2023年11月にオープンした【atti(アティ)】。オーナーシェフを務めるのは、赤羽橋のフレンチ【タワシタ】でスーシェフ、代官山のビストロ【Äta(アタ)】ではシェフを担った、松野 敦(マツノ アツシ)さんです。コース料理のみのフレンチながら、使い勝手の良い空間の【atti(アティ)】に注目です。
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【タワシタ】、【Äta(アタ)】で腕をふるった実力派シェフ
食材への敬意によって突き動かされた、“コンポスト”への取り組み
生産者と食べ手を優しく繋ぐ“ひと手間”
【タワシタ】、【Äta(アタ)】で腕をふるった実力派シェフ
白金高輪駅から徒歩3分。スタイリッシュながら温かみのある店内は、カウンターでシェフとの会話を楽しむもよし、半個室に仕切られたアンティークのテーブルで集うもよし。
「基本はワンオペなので、テーブル席で4名の予約が入ったらカウンター席は2名まで」と、あくまで松野さんの目と手の届く範囲で、丁寧に向き合います。
シックなオープンキッチンと、6席のカウンター
松野さんが料理の世界を目指したきっかけは、中学生の頃に訪れた地元・山梨の町中華。中華鍋を勢いよく振る料理人の姿を見て、「自分もやってみたい」と憧れを抱いたといいます。
「母親の料理の手伝いから始まり、中学校時代からずっと料理人になりたいと考えていました。高校には行かず、京都へ修業に出ようと思っていましたが、両親がともに地方公務員だったこともあり、当時は反対され(笑)、折り合いをつけるためにも高校・大学は卒業しました。大学3、4年も日本料理店で働いていましたし、一度は就職してみたものの、勤務帰りもその日本料理店でアルバイトをしていて、どうしても諦めきれず、1年で退社して料理の道へ進みました」
オーナーシェフの松野 敦(マツノ アツシ)さん。1984年、山梨県生まれ。大学卒業後、25歳から料理人の道へ進み、2023年11月10日、【atti(アティ)】をオープン
その後、「大好きなデザートづくりも学びたい」という好奇心から、フランス料理へ転向。フィリップ・バットンさんがオーナーを務める麻布十番の【ル・プティ・トノー】など人気フレンチレストランを経て、28歳から赤羽橋【タワシタ】でスーシェフに就任します。
「【タワシタ】は、食材に対する考え方や、農家さんをはじめ生産者さんと“一緒に作る”という感覚を身をもって体験した場所。自分の今の料理のベースができたと思ってます」
適度に仕切りを持たせた半個室仕様のテーブル席。インテリアを手掛けたのは、都内を中心に【Kabi】などの人気レストランを手掛ける長田 篤氏
食材との出合いは、紹介はもちろん、全国の道の駅や八百屋を松野さんが自ら巡り、おいしいと思ったら記載されている生産者の方へ連絡をとり、「伺っていいですか」と開拓を重ねているといいます。
「料理人がもつ知識だけでなく、農家さんに「これはどういう風に料理するとおいしいですか」と直接聞いてみると、思いもよらなかった調理法があったり、やはり生産者の方が一番おいしい食べ方を知っていることが多いんですよね。だから、一緒に食材のお話を聞いて、一緒に作らせてもらっているという感覚なんです」
【atti】のカウンターもオープンキッチンを採用。ひとりでの食事も気負いなく楽しめる居心地のよさ
その後、2020年まで2年ほど勤めた【Äta(アタ)】では、シェフとして腕を振るった松野さん。人気店のカウンターキッチンを通して、お客さまの声や表情からダイレクトに感想が伝わってきたといいます。
食材への敬意によって突き動かされた、“コンポスト”への取り組み
松野さんが「“顔の見えるもの”しか使いたくない」と話すように、食材への敬意によって突き動かされたのが、生ゴミを堆肥化する“コンポスト”への取り組みです。
野菜の皮やだしガラ、使い切った端材は、まとめて乾燥させ、ミミズや微生物などの働きを活用してコンポストに。自身が手掛ける家庭菜園の土に撒いたりと還元するそう。「自己満だと思うんですが、手間が少しかかっても、生ゴミを出すより、こうしてコンポストにすることで、自分も気持ちよくなるんです」と松野さん
端材は野菜のだし取りに混ぜたり、最終的に乾燥させて野菜パウダーとしてパンに混ぜ込むことも。写真は、松野さんが国内外の約30種の小麦粉を取り寄せて、配合を研究して行き着いたという自家製カンパーニュ。表面はハード系、中はふわふわの食感
「函館の農家さんを訪ねたときに、コンポストを行っている土の中に手を入れさせてもらったところ、土がめちゃくちゃ熱くて! 自然の力を実際に体感したのが大きいきっかけになりましたね。大人になって知ったのですが、実家でもお米を作りながらコンポストをやっており、一気に身近に感じて、もうちょっとその先も知りたいし、やってみたいと自然と思ったんです。おかげで、うちのお店では野菜のゴミは一切出ないんです」
コース料理の前菜『桜鱒(サクラマス)と紅芯大根のジュレ』は、アクセントにした緑のソースが、カブや紅芯大根の皮、大根の葉など端材をミキサーでおろしたもの。函館で獲れた桜鱒(サクラマス)は軽く燻製し、紅芯大根のジュレと、紅芯大根のシャーベットでいただきます。
春らしい一皿は、シャーベットの口どけと、スライスしたカブや大根の食感が、爽やかなコントラスト
また、岐阜の橋場農園さんから卸してもらっている「天恵菇(テンケイコウ)」 という、ステーキしいたけと菌床しいたけ、干ししいたけを使った一皿は、それぞれの石づき部分や軸までソーセージに混ぜたり、煮出してソースにしたりと、余すことなく使用。ソーセージに混ぜた菌床椎茸は、あえて荒くミンチにすることで、香り・味わい・食感の全てでしいたけを感じられる仕上がりです。
「天恵菇」は日本酒で水分を補いながらじっくりロースト。ぎゅうと肉質が詰まり、アワビのような食感はまさにステーキ
凝縮したしいたけの旨みを、洗練された味わいに昇華しているのが、山梨の契約農家が無農薬で育てる柚子を使った「塩柚子」。塩に漬けて発酵させた「塩柚子」は、柔らかな塩みと香りが特徴で、まろやかな味わいに一役買います。
「たくさんの要素を重ねた一皿も好きなんですが、何を食べてるか分からない料理にはしたくない。例えば「ここのしいたけがすごくおいしいから、しいたけのおいしさをきちんと味わってもらえる料理を作りたい」という想いが強くなってきて、食材を邪魔するパーツはできるだけ削っています」
主役に引けをとらない新たまねぎは、以前旅した淡路島で出合ったという「浅田農園」のもの。一層一層の厚みもさることながら、甘みや瑞々しさも格別
3品目は、北海道・十勝から仕入れている銘柄豚「蝦夷(えぞ)豚」。赤身メインの珍しい豚肉は、牛脂と豚脂で1ヶ月ほどコーティングして熟成をかけることで、しっかりとした旨みを蓄えています。ソースはフォンドボーベースに、白ワインとトマト、ペッパーとタイムを合わせた爽やかな味わい。
オマール海老、ハマグリ、イカ、ムール貝からそれぞれだしをとり、絶妙なバランスで合わせた後に、煮詰めてソースに
最後は、1〜2週間熟成させ、プリッと弾力を増したサメカレイと、4種類の魚介のだしを使ったソースに、バニラの泡を合わせた魚料理。
メニューは、夜は9品で12,000円(サービス料別)のコース1本。ランチにはそれに加えて、5,500円と6,600円のショートコースもあります。
生産者と食べ手を優しく繋ぐ“ひと手間”
また、昼夜ともにコースのみで展開される【atti】では、ワインペアリングにも注目。「ナチュールだからで選ぶのではなく、おいしさ重視で選んでいます」というこだわりに加え、希少なラインナップも、松野さんが意識している部分だといいます。
「流行りのお店に行くと、だいたい同じ銘柄のワインを紹介されることが多いなと感じていて……。もちろん流行りはあると思うんですが、お客さまの立場になって考え、飲んだことがないワインや、なかなか置いてなさそうなワインのなかで、おいしいものを選ぶようにしています。固有品種が多く、ジョージアワインに替わり世界最古のワイン産地として注目を集めている、アルメニアのワインなどもオススメです」
ワインペアリングは、6杯で7,700円(サービス料別※一皿目のシャンパンを除く)。写真左から2番目が、世界のワイン関係者が注目するアルメニア最高峰の造り手・ゾラ・ワインズの「カラシィ 2018」
最後に、コース一本で勝負する松野さんにとってのこだわりを伺うと、その答えは「塩分」だといいます。
「もちろんお酒は飲んでもらえたらありがたいですけど、今は飲めないお客さまも多いですし、うちではお酒を飲ませるために塩分を強くしたりしません。どんな方にも気持ちよく食事していただけるように、例えば「天恵菇」のステーキとソーセージに使用した「塩柚子」や、発酵させた梅干しなどで、コース全体で使用する塩分量を調整したり、乳酸菌の発酵ドリンク「コンブチャ」で柔らかな酸味を引き出して、ビネガーの代わりに使用するなど、ひと手間かけることで、塩みや酸味をバランスよく調整しています」
生産者と食べ手を優しく繋ぐ、松野さんならではの料理。穏やかな味わいながら、食べ手に強烈なインパクトを残してくれるはずです。
撮影/鈴木拓也 取材・文/藤井存希 構成/宿坊アカリ
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