古い工場をリノベーション。他にはない美味、感動を生み出す斉藤料理がさらにパワーアップ|白金【Alternative(オルタナティブ)】
フレンチの豊かな知識と技術を備えながらも型にはまらない自由な発想で他にはない料理を生み出してきた斉藤貴之シェフ。2021年9月に西麻布から白金に移転しました。古い工場をリノベーションした空間は、斉藤氏の考え方を表現するにふさわしいエッジが効いています。どのような新境地を見せてくれるのでしょう。
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新しい価値を創造する場をイメージした空間にも魅了される
良い食材との出会いで「素材を活かす」の理想を実現
「どんな食材でもフレンチの技術で美味しくできる」。オールラウンダーが強み
新しい価値を創造する場をイメージした空間にも魅了される
2021年9月末に、6年間過ごした西麻布から白金へ移転した【Alternative(オルタナティブ)】。北里通りから路地の奥へと進んだところ、「えっ? ここがレストラン?」と、飾り気のない鉄の扉に少し驚く人もいるでしょう。
元工場だったという建物の1階。鉄の扉をそのまま生かした、まさにインダストリアルデザイン
昭和レトロな雰囲気の古い工場をリノベーションした空間が斉藤氏の新天地。いくつも物件を見て歩く中で、この建物にインスピレーションを感じたそうです。古い工場のインダストリアル的なかっこよさを生かし、石や木など素材感のある材質をモダンに融合させた空間は、モヒカン刈りの髪型の斉藤シェフにとても似合っています。
「型にはまらない自由な店、料理であり続けるための空間」と楽しそうに話す斉藤シェフ
「今までは借りものの空間でしたから、僕の考えや料理のイメージが完全には溶け込んでいなかったと思います」と話す斉藤シェフ。トータルで斉藤シェフのイメージを表現する舞台を完成させ、今までに増して楽しそうに料理をしている姿が印象的です。
コンクリートとモルタル、ステンレス、天然の木材×鉄の家具、緑の植栽など絶妙なバランス感で斉藤シェフのストイックさと温かな人間性を表現
店内は、テーブル席のダイニングスペース、厨房を眺めながら食事ができるカウンターほか個室も用意されています。ダイニングとカウンター席ではコンセプトが違うのもこのお店の特徴です。
ダイニングはフランス料理をベースにしながらも、パスタやヨーロッパ各国の郷土料理、そして中国料理や和食などいろいろな料理が混在する「本気の大人のファミレス的なことをやりたい」と斉藤シェフ。コースは9,900円、アラカルトでも対応するとのことです。
植栽に囲まれるカウンター席。厨房を横から眺めることができ臨場感たっぷり
一方、厨房を目の前にしたカウンター席のコンセプトは、「saitoワンダーランド」。フレンチの古典から斉藤シェフの創造力をフル稼働させた完成度の高いイノベーティブ料理までシェフならではの新しい発想、縦横無尽な才能を存分に堪能できるシェフズカウンターです。
元工場ならではの高い天井を生かし、ガラス張りの屋根と鉄の壁でアトリウムのように仕立てている個室
良い食材との出会いで「素材を活かす」の理想を実現
「丁寧に作られた良い食材を送ってくれる生産者さんに感謝。良い食材に出会えれば、良い料理は自ずと生まれてきます」と話す斉藤シェフ。例えば、昨年の秋、千葉の農家さんから送られてきたレンコンは斉藤シェフの代表作になるような料理を生んだ食材のひとつです。
「もっちりとした食感に感動しました。じっくり蒸し焼きにして甘みや香りを引き出したらソースも何もいらないんです。僕のやりたかったことができたと思える会心の料理となりました」
蓮の葉で包んだレンコンを、土を混ぜた小麦粉で固めて蒸し焼きに
お客の目の前で土竈を割って調理工程を説明してくれる
北海道産の『月光』という名を持つ百合根も斉藤氏のお気に入りです。こちらは網脂で包んで、時間をかけて蒸し、最後に炭火で表面を炙って仕上げています。
「トリュフやキャビアなど高級食材で攻めるというフレンチの流行はそろそろ終わりなのではないかと。良い食材とその個性を活かす調理法を突き詰めれば、レンコンでも、百合根でも、ナス一本でも感動してもらえる、そんな料理を作っていきたいという思いがますます強くなっています。良い食材との出会いで、取り組むべきものがますますクリアになってきました」と斉藤シェフ。
丸ごと調理したのち半分に切って、トリュフバターとトリュフをトッピング
豚の網脂で包んで90℃で1時間蒸した百合根を1時間保温して乾かしたのち、表面を炭火で焼く
「どんな食材でもフレンチの技術で美味しくできる」。オールラウンダーが強み
フレンチではあまり使わないと言われているような食材やスパイスにも臆せず挑戦して、新しい美味を生み出す斉藤シェフ。
「“ここでしか食べられないような料理を出してよ”という理解の深いお客様に恵まれているのも幸せなことです。丁寧な仕込み、味を重ねた濃厚な古典の王道料理、地味ながらも野菜そのままを生かしたシンプルの極致のような料理、華やかなサプライズ料理など、様々なタイプの料理を食べて面白がってもらえたら本望」と話します。常連客も多いということは、美味しいだけでなく居心地が良いというということなのでしょう。
『パプリカのテリーヌ 魚介のソース』は、「ソースに使って海苔の風味が、良い塩梅にホタテとパプリカを繋げてくれる」と斉藤シェフ
『クエのフリット』 厚切りで揚げてから半分にカット。皮下のゼラチン質や脂を最高に美味しく食べさせてくれる調理法だ
『山うずらとフォアグラのキャベツ包み』 古典料理の魅力を堪能させてくれる冬のジビエ料理
ワインについては、ブルゴーニュ滞在時代に畑仕事を手伝うなどして知識を深め、さらに【オルタナティブ】の西麻布時代、ワインバー&レストラン【プロヴィナージュ】の元オーナーソムリエ・田中浩史氏からも多くを学んだそうです。その経験値を生かして試飲を重ね、ブルゴーニュの名門ワイナリーだけでなく、クロアチア、セルビア、ハンガリーなど冷涼な地域の気鋭の生産者ものを中心にセレクトしています。
生産本数の少ない丁寧な作りのワインが中心。料理やお客の好みに合わせたペアリングのオーダーも可能
国内外のフレンチの名店で働き、料理のロジックを基礎からしっかり体に叩き込み、さらに歴史や文化など知識も深め、腕とセンスを磨いてきた斉藤氏。「単に先人のレシピを踏襲するだけでなく、自由な発想を持ち、自分が経験してきたことを取り込んで前進してこそ真のフランス料理」と話し、新しい価値の創造に挑んでいます。まさに、“オルタナティブ”(伝統的な手法に取って替わる新しいやり方)という店名を体現。「大人のファミレス」のダイニングと「saitoワンダーランド」のカウンターの2つのコンセプトをTPOで使い分けながら、シェフが今まで蓄積してきたたくさんの引き出しを楽しみに通いたいお店です。
撮影/今井 裕治 取材・文/藤田 実子
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