予約困難店のシェフたちがプライベートで通う店【終りの季節】【感情】に、新たな姉妹店【根深】がオープン|東京・六本木
港区を中心とした予約困難店のシェフたちが、営業終わりに一杯、ときにはお客さまと連れ立って……とプライベートで通うワインバー【終りの季節】から2024年2月、新店【根深】がオープンした。店主は、日本料理【感情】でオープニングから経験を積んだ若き料理人、小林千春(コバヤシ チハル)さん。こだわりのジビエと野菜が振る舞われる、注目の隠れ家ビストロを紹介する。
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27歳という若さで、六本木の隠れ家ビストロを任された注目の料理人とは?
生産者のもとを訪れて知った、その野菜にしかない食感の“個性”
自在にアレンジされるジビエにも注目
ワインバーとしてアラカルト利用もできる【根深】の裏メニューとは?
27歳という若さで、
六本木の隠れ家ビストロを任された注目の料理人とは?
日曜定休が多い港区で、日曜の夜営業を掲げる救世主
六本木ヒルズから、けやき坂を下った先のビルの一室。【根深】とひかえめに書かれた表札以外に店の様子を伺えるものはないが、一歩足を踏み入れると、若手のスタッフらがにこやかに迎え入れてくれる。
ゆるやかなカーブのついたカウンターテーブルは8席
ライブ感が愉しめるカウンターとは打って変わって、薄明かりのもとセンスのよいインテリアを配した個室が1部屋。自宅に招かれたようにゆったりと寛げる空間だ。
個室は4名用。高級感のある絨毯と温もりのある丸テーブルで、プライベート感も演出
まさに隠れ家と呼ぶにふさわしいこの場所で、弱冠27歳という若さで店を任されたのが、料理人・小林千春さん。日本料理【感情】でオープニングメンバーとして腕を磨き、続く六本木のワインバー【終りの季節】では、客として通う一流シェフたちに料理を振る舞い、キャリアを重ねてきた。
1996年、静岡県生まれ。中学生の頃から料理人を目指し、静岡の料理専門学校を卒業。20歳から都内の人気ビストロなどフレンチを中心に経験
「ビストロ、日本料理と歩んできて、バー【終りの季節】ではメニューにある程度の幅があったので、とにかく学びたいという気持ちで、あらゆることに挑戦できました。生産者さんと直接お会いできる機会が増えたことで、「素材の“食感や香り”を軸にしていきたい」という自分の方向性にハッキリ気付けたのだと思います」
そんな自然な流れのままに、ジビエと野菜が【根深】のテーマとなった。
生産者のもとを訪れて知った、
その野菜にしかない食感の“個性”
本日の自慢の野菜たち。6月までは、北海道余市を訪れた小林さんが惚れ込んだ農家「コロポックル村」のホワイトアスパラも仲間入り
小林さんのいう“食感や香り”を最大限に味わえる料理が、『ホワイトアスパラのおひたし』。
「フレンチを経験しているとソースやピューレを添えがちですが、生産者さんとお付き合いを重ねて、その野菜にしかない、食感の“個性”を知ることができました。その個性を最大限に生かすためには火の入れ具合が肝になりますし、このホワイトアスパラも、ベストなシャキッという食感に仕上げるため、茹で具合にはすごく気を遣っています」
茹でたホワイトアスパラは、剥いた皮などからとっただしに漬けこみ、冷やしてから真空にするという小林さんもお気に入りの調理法で。
『ホワイトアスパラのおひたし』。ホワイトアスパラ本来の味がぎゅうと凝縮され、香りやみずみずしさがたっぷり味わえる
お次もシンプルな見た目ながら野菜の食感や香りを最大限生かした一皿『たけのこと桜エビ』。
「大阪府貝塚で有機栽培でつくられるたけのこは、アクが少なく、とても柔らかいのが特徴です。最初から炭焼きにすると乾き過ぎてしまうため、適度に水分を保つようにフライパンで蒸し煮のように温めていく、ブレゼというフレンチの手法をとります」
さらに食感を愉しめるよう、裏側に隠し包丁を入れるという和食のギミックも織り交ぜて。
炭焼きにしたたけのこは、オリーブオイルベースで甘夏を合わせたソースでさっぱりと
『たけのこと桜エビ』。小林さんの地元・静岡の桜エビで、香りと旨みのアクセントをプラス
3品目は、「本当にパワーの強い野菜を育ててらっしゃる」と小林さんも絶大な信頼を寄せる、北海道余市「雉子谷(きじたに)農園」の新玉ねぎ。じっくり火を入れた玉ねぎは、それ単体がすでにシチューのような味わいに仕立てられており、パルミジャーノチーズをおろすことで、メインの一品にも昇格。
トップゴールドという辛みの少ない、みずみずしい玉ねぎを使用した『新玉ねぎロースト』
自在にアレンジされるジビエにも注目
今回の撮影で使用した鹿は、長野県阿智村から直接仕入れている甲州鹿
鹿とヒグマ、猪などこだわりのジビエを安定的に仕入れるのも、小林さんの目利き。
「【感情】にいた時のお客さまが、ITの会社を経営しつつ狩猟をされる方で、北海道の弟子屈町(てしかがちょう)まで伺う機会があったんです。撃つだけのハンターもいますが、食べるまでを完結したいと考えていらっしゃる方で、鹿を仕留めた直後に、そのまま車に装着したクレーンのようなもので吊るして血抜きまでするので、肉がとても新鮮で臭みもない。さらにその場所自体がマイナス10℃くらいの極寒の地域なので、仕留めた直後から冷凍庫で処理しているような状態で、東京へ運ばれてくるまでの状態も完璧なんです」
「うちで卸してもらっているのはきれいな味の鹿肉なので、そのままがおいしい」と、ソースはあえて無し。基本は塩とオイルでいただく『鹿のロースト』
鹿肉のローストは、鮮度や柔らかさが見て取れる、薄いピンク色。しっとりと保湿された身は味わい深く、余韻まで楽しめる。
最後は、ジビエを煮込んだラグーソースを合わせたショートパスタ。小麦の香りが強く、ジビエの力強さにも合わせられる「ヴィチドーミニ」のパッケリをチョイス。
パルミジャーノチーズを削りかけて仕上げる『パッケリ ラグーソース』。コクのあるラグーは、魚醤のような旨みの集合体だ
ワインバーとしてアラカルト利用もできる
【根深】の裏メニューとは?
夜営業のみで、15,000円のお任せコース一本勝負。料理人からも一目置かれるワインバー【終りの季節】の姉妹店だけあり、【根深】もワインの品揃えには余念がない。フランスを中心にイタリア、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、もちろん日本産まで、一貫して料理に合う、優しく綺麗な味のワインをラインナップする。
ワインはグラスでも1,500円から。料理に合わせるのは白ワインが多いが、ジビエやラグーと合わせるお客さまも多いため、赤ワインも豊富
特に「2017 サヴィニー・レ・ボーヌ レ・プランショ / ジャン・ピエール・ギヨン」(右から2番目)は、しっかりとした熟度ながら、ビオロジックでナチュラルにつくられているおかげで、飲み疲れのない滑らかな赤ワインだ。
コース終了次第(21時以降)、ワインバーとして利用もできる【根深】では、アラカルトメニューの注文も可能。
小林さんのお気に入りメニューは『千代幻豚の白味噌しゃぶしゃぶ』とのこと。アラカルトメニューが手書きされた原稿用紙には、「裏(に)メニュー」も
「常連のお客さまから「桜エビがあるならパスタで食べたい」などのご要望があれば、対応することもありますし、先日は「びっくりするほどおいしくて」と持ち込まれたかぶを即興で料理したり(笑)。ちょっとした無茶振りに応えることで自分の進化も感じているので、案外楽しいんです」と、小林さんは意気揚々。
抑揚のあるコース料理を組み立てつつ、ワインバーとしての自由度も備える【根深】。その振り幅を楽しむ余裕すら感じられる若き料理人の今後にも注目だ。
撮影/鈴木拓也 取材・文/藤井存希 構成/宿坊アカリ
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