ヒトサラマガジンとは RSS

予約困難店【渡邊料理店】に姉妹店が誕生! 多彩なアプローチで全皿に薪火を取り入れたフランス料理|門前仲町【jiü 慈雨】

食通たちがこぞって予約を取りたがるビストロフレンチ【渡邊料理店】のオーナーシェフ・渡邉幸司氏が、新たに姉妹店【jiü 慈雨(ジウ)】を開業しました。門前仲町の同じ通り沿い、目と鼻の先にゼロから設計デザインした一軒は、ワインカーヴをイメージした居心地の良い空間。シェフを務めるのは、かつてレカングループで渡邊氏のもとで研鑽を積んだ大和田龍之介氏です。同じジャンルのフランス料理でも、すべての料理に薪を使うという本店とはまったく異なるコンセプトを打ち出し、早くも予約困難店として話題を集めています。

juuuの

異なる2フロアで構成された一軒家レストラン

    jiüロゴ

    店名【jiü】にデザインされた4つの点は雨でもあり炎でもあるそう

門前仲町の【渡邊料理店】といえば、食通にとって予約が取れるのならぜひとも訪れたいと願う一軒です。開業から3年目の今年、2025年3月19日に姉妹店として【jiü 慈雨】をオープンさせました。常連さんからご縁をいただいたという物件は、【渡邊料理店】からすぐの場所。じっくりと細部にまでこだわってデザインし、一軒家のレストランが完成しました。お店を訪れ、まず目に入るのはお洒落な看板。そして、フランス料理店らしく店頭にその日のメニューを掲げています。「店名の慈雨とは、万物を潤し育てる雨のことで、日照りがいていた時に降る恵みの雨という意味です。そんな存在のレストランになれたらという想いが込められています」と渡邉氏。

    jiü店内

    1階は厨房に向かって一直線に並ぶ7席のカウンター

地下のカーヴをイメージしたという内装デザインは、天井が低めでどこかホッと落ち着く空間です。ウェルカムプレートとしてセッティングされた杉の木をはじめ、店内の随所に木材が使用され温かな雰囲気に。カウンター席に座ると、目の前で機敏に調理するシェフたちの姿と薪の炎を眺めることができ、料理への期待が高まります。

    カトラリー

    カウンターの引き出しを開けるとカトラリーが美しく並びます

    jiü2階

    昼と夜で趣が変わる2階は、全14席のテーブル

階段を上がった2階席は、大きな窓からの眺めが印象的です。目の前に流れる大横川と豊かな緑を見渡せ、夜のライトアップも見事な借景に。両岸に植えられているのは桜の木なので、春には桜が咲き誇る圧巻の景色を望むことができます。席の間隔は程よく狭く、営業時にゲストが座るとビストロらしい賑やかな雰囲気になります。

すべての料理に薪火の技が光る全10皿のフルコース

    jiü料理

    薪によって食材本来の持ち味が際立つ『秋鯖 茄子 おおまさり』

毎月1日に更新されるメニューは、アミューズ・スープ・前菜3種・魚料理・肉料理・アパンデセール・グランデセール・ミニャルディーズの計10皿。季節の移ろいを感じるエレガントなフランス料理ですが、なんとアミューズから最後のお茶菓子に至るまですべてに薪火を施しています。「これだけ近くの距離で店をやるので同じことをやっても仕方ないですし、薪を熱源にして料理をしてみたいという想いがあったので、提案させてもらいました」と語るのは、シェフを務める大和田氏。

    蕪のアイス

    唯一毎回変わらず提供する定番の『千葉県柏市の蕪のアイス』

“デザートの前の小さなデザート”として供されるのが、メインディッシュの前に登場する潔い佇まいのこちら。熾火でじっくりと火入れすることで、蕪の持ち味を最大限に引き出しています。使用する牛乳にもこだわり、蕪の風味が活きるようミルク感を控えめにしたオリジナル。底に蕪の葉のピュレ、オリーブオイル、岩塩を添えることで、蕪のアイスの風味がより際立っています。蕪をそのまま味わう以上に蕪の甘みや旨みを感じることができる、食材や故郷への愛情が伝わるメニューです。

    YoshinoHerbFarm

    千葉県柏市にある「Yoshino Herb Farm」から届く野菜たち

野菜は、大和田氏の故郷である千葉県柏市の「Yoshino Herb Farm」から。風味の豊かさと瑞々しさが特徴で存在感も抜群ですので、薪火とも好相性です。かぼちゃやなすひとつとっても多彩で初めて耳にする品種も。9月のコースで提供していた前菜『秋鯖 茄子 おおまさり』で使用していた「おおまさり」は、千葉県産の大粒で甘みの強い落花生。パンも自家製のほか、千葉県松戸市の【Zopf(ツオップ)】から取り寄せています。

    jiü

    薪火の魅力を閉じ込めたシグネチャーのソース

メインディッシュのお肉を薪火で焼き上げることは勿論ですが、ソースや付け合わせからも薪火を感じていただける仕立てに。シグネチャーであるソースは、使用する素材それぞれに合ったアプローチで薪火を取り入れています。香味野菜は、焦がし気味に焼き上げることでたっぷりと薪の香りを吸ったような仕上がり。それを薪で燻したバターソースで丁寧にソテーし、白ワインやフォン・ド・ヴォーを加えて煮詰めています。付け合わせの野菜は、熾火でじっくりと火入れ。

    蝦夷鹿

    艶やかな断面から火入れの技術を感じる『蝦夷鹿』

お肉は、強火で表面を焼き固めてから、スチームコンベクションなども使用しながら、最後は強火で薪の風味を一気に纏わせて出来上がり。カットした断面はうっとりするような艶やかさで、口へと運ぶと薪火ならではのしっとりとした豊かな肉質に魅了されることでしょう。ディナーコースの肉料理は2種類から選ぶことができ、取材した9月は他に『フランス ビゴール豚』も用意。営業時に焼き場を担当するのは、【傳】などで研鑽を積んだ花田光示氏。スープと共に提供するパンを自家製酵母で焼き上げるのも花田氏の担当で、ゲストから非常に好評です。

“薪”に徹底したこだわりを貫くことで生まれる【jiü 慈雨】らしさ

    ボトルワイン

    ボトルワインはブルゴーニュやボルドーなどフランスが主軸

「しっかりと薪の香りを感じていただける料理には、テンションを合わせてスモーキーなタイプやしっかり樽が効いたものを提案することもあれば、料理とは逆に軽やかなワインで流すようにお楽しみいただく提案をすることもあります」(大和田氏)。スタッフ全員が料理もサービスも担当するのが【jiü 慈雨】流。料理に合わせたドリンクは、誰に尋ねても最適な提案をしてくれます。ペアリングメニューは用意していませんが、ご要望に応じてくれるのでぜひ相談してみてください。

    薪

    お店の入り口に積み上げられているのは、薪として使用する楢ノ木

    山宮かまど工業所

    薪窯は日本橋浜町で100年続く「山宮かまど工業所」によるもの

「朝お店に来たらまず火をつけます」と大和田氏。シグネチャーのソースをはじめとする料理の仕込みに加え、ソフトドリンクで使用しているシロップなどにも薪を使用しているので、仕込みの時間にも常に薪窯には炎が灯っています。大和田氏曰く「薪は安定した火力ではないので使いこなすのはなかなか難しいのですが、特有の香りや焼き目、そして火が強かったり弱かったりするむらも料理の魅力になっています」。すべてに薪を使用しながらも緩急ある構成で巧みな薪火使いに感銘を受けますが、薪火の専門店で修行したわけではなく、食べ歩きを重ね、独学で試行錯誤を繰り返したというから驚かされます。

    大和田龍之介

    父親もフランス料理のシェフだった大和田氏は自然とこの道へ

オーナーである渡邉氏との出会いは、大和田氏が初めて務めた【キャトリエム】でのこと。当時シェフを務めていた渡邉氏の年齢が、現在の大和田氏と同じ年齢だったと振り返ります。その後も【ブラッスリーレカン】【ルシャスリヨン】などで渡邉氏のすぐ近くで研鑽を積んだことは非常に掛け替えのない時間だったと話します。別々の店に移ってからも連絡を取り合っており、今回の姉妹店の開業にあたり、ふたりの想いを丁寧につくり込むことで【jiü 慈雨】が完成しました。何気ない会話ややり取りから、渡邉氏が大和田氏に信頼を寄せていることが伝わってきます。

「薪料理をしっかりと貫きたいという想いがありますので、少し乱暴な言い方になってしまいますが、お客様に息継ぎさせないくらいの感覚で、アミューズから最後のお茶菓子までコースを通して“薪×フランス料理”をご堪能いただきたいと思っています」(大田和氏)。

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子 取材/外川ゆい

フードジャーナリスト。つくり手のストーリーや想いを伝えることを信条に、レストラン、ホテル、スイーツ、お酒など、食にまつわる記事を執筆。出産を経て食育への関心も高まり、食いしん坊な息子との食卓を楽しんでいる。グルメライター歴は22年。

編集部ピックアップ

週間ランキング(10/31~11/6)

エリアから探す