「寿司といえば、富山」――この冬こそ行きたい、“天然のいけす”が育む寿司と工芸・地酒を堪能する旅
“天然のいけす”と呼ばれる富山湾の恵みを味わいに、東京から日帰りで富山へ。回転寿司で出合う工芸の美、新湊漁港の迫力ある昼セリ、ベニズワイガニの押しずし体験、地酒「富山ノ酒と寿司シリーズ」の試飲、そして【鮨 順風満帆】での至福のコース――。一日で富山の寿司文化をまるごと体感できる、濃密な旅となりました。
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立山連峰と富山湾が生む、海と山の恵みの県
港町の暮らしが育んだ、富山ならではの“発酵と保存”の鮨文化
新幹線で約2時間。冬の高岡からはじまる、富山の寿司旅
立山連峰と富山湾が生む、海と山の恵みの県
富山県は、3,000m級の立山連峰から水深1,000mを超える富山湾まで、約4,000メートルの高低差が生むダイナミックな地形が魅力。四季ごとに表情を変える雄大な自然に加え、黒部ダムや五箇山合掌造りなどの名所も豊富です。冬の寒ブリ、白エビ、ホタルイカなど、富山を代表する海の幸が揃う“食の宝庫”としても知られ、海と山の恵みが旅人を迎えてくれます。
新湊の水辺を走る富山地方鉄道。海と山がすぐそばに寄り添う、富山らしい原風景
そんな中、2023年に富山県は「寿司といえば、富山」を掲げた本格的なブランド戦略を始動。県全体で普及啓発・人材育成・環境整備を進め、“寿司の聖地”としての発信力を強化しており、いま全国から注目が集まっています。
富山湾越しに立山連峰を望む、富山独自の海と雪山の風景
港町の暮らしが育んだ、富山ならではの“発酵と保存”の寿司文化
富山の寿司文化は、海の幸と立山の雪解け水に支えられ発展してきました。起源は、魚を発酵させて保存する「なれずし」。旅人の携行食としても親しまれ、時代とともに押し寿司やます寿司へと進化しました。
発酵で旨みを深めた、富山寿司の原点「なれずし」
なかでも「ます寿司」は、江戸時代に藩主への献上品として生まれた特別な押し寿司。沿岸部では季節ごとに多彩な地魚の寿司が受け継がれ、“土地の寿司”として愛され続けています。こうした風土が、富山の寿司文化を形づくってきました。
富山名物として全国に知られる、笹に包んだ押し寿司「ます寿司」
この日は、富山県主催の「寿司といえば、富山」メディアツアーに参加。富山県知事政策局・政策推進室の柴田さんの案内で、富山の食材と寿司文化を一日で深く体感する旅へ出かけました。
09:30 富山駅到着
10:15 [高岡エリア]工芸と寿司の融合体験 ―【氷見回転寿司 粋鮨 高岡店】
11:00 [射水エリア]港町・新湊の素顔にふれる水辺散策
11:40 [射水エリア]「昼セリ」見学 ―【新湊漁港】
12:00 [射水エリア]昼食・押し寿司体験―【みなとキッチン】
14:00 [射水エリア]散策 ― 新湊内川
15:00 [富山エリア]地酒「富山ノ酒と寿司シリーズ」の試飲 ―【バール・デ・美富味】
16:10 [富山エリア]見学 ―【富山市ガラス美術館】【池田屋安兵衛商店】
17:30 [富山エリア]夕食・寿司コース ―【鮨 順風満帆】
19:40 富山駅発
新幹線で約2時間。冬の高岡からはじまる、富山の寿司旅
[高岡エリア]工芸と寿司の融合体験 ―【氷見回転寿司 粋鮨 高岡店】
東京から北陸新幹線で約2時間。11月中旬の富山駅に降り立つと、“寒ブリ宣言”を目前に控えた独特の高揚感が漂っていました。最初の目的地は【氷見回転寿司 粋鮨 高岡店】。氷見の朝セリで揚がった鮮度抜群のネタを、富山が誇る工芸皿とともに味わえる、いま注目の回転寿司店です。
凛とした職人の気配と温もりあるカウンター
【氷見回転寿司 粋鮨 高岡店】でいただいたのは、「氷見朝とれ三種」と「地物三種」。「氷見朝とれ三種」では、しっとりと柔らかいアジ、繊細な甘みが広がるアンカン、そして解禁目前ならではのほどよい脂がのった氷見ブリと、旬をまっすぐに映す三貫が登場。
続く「地物三種」は、コリッとした歯ざわりが心地よいバイ貝、鮮度のよさが際立つ甘えびの卵のせ、昆布で巻いた“富山らしい”白エビの軍艦。噛むほどに昆布の旨みと白エビの甘さが重なり、思わず唸る味わいで、いずれも氷見の朝獲れならではの生命力と、富山の海がもつ豊かな表情をダイレクトに感じさせてくれました。
「氷見朝とれ三種」。この日はアジ、アンカン、氷見のブリ
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「地物三種」。バイ貝、甘エビ(卵のせ)、昆布で巻いた白エビ
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ペアリングは、清都酒造場の「勝駒」
こちらのお店では、寿司とともに“工芸の町・高岡”ならではの体験ができるのも魅力のひとつ。
富山県内の24名の職人・作家が制作した工芸皿シリーズ「わたしたちの、工芸寿司皿 SUSHI PLATE」を使い、「氷見朝とれ三種」と「自家製三種」を数量限定で提供しています。銅器、漆、陶芸など、多彩な技が結晶した皿はどれも唯一無二。寿司をさらに美しく際立たせ、富山旅の魅力が一気に広がる最初の体験となりました。
店内の壁一面に並ぶ工芸皿「わたしたちの、工芸寿司皿 SUSHI PLATE」
[射水エリア]港町・新湊の素顔にふれる水辺散策
新湊・内川は、漁船が行き交い、生活橋が連なる情緒豊かな水辺の町。観光地化されすぎていない素朴な空気が心地よく、港町ならではの日常の営みがゆったりと流れています。
“日本のベニス”とも称される新湊・内川。澄んだ水辺の先には、雄大な立山連峰が望めます
内川の水辺を歩いていると、港町ならではの“魚と生きる暮らし”が、あちこちに息づいていることに気づきます。そんな地域の営みを象徴する存在のひとつが、干物づくりを手がける【IMATO】さん。
富山県射水市で漁師が目利きした、富山湾のおいしい魚介で丁寧につくられる干物は、無添加・高鮮度がこだわり。滑川海洋深層水を活かした加工技術など、地域資源を大切にする姿勢に触れ、港町が育んできた海と生きる知恵を感じ取れました。
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内川沿いに佇む【IMATO】
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無添加・高鮮度にこだわった干物の数々。通信販売でも購入可能
[射水エリア]「昼セリ」見学 ―【新湊漁港】
午後に行われる全国でも珍しい「昼セリ」を見学。水揚げ後すぐに競りにかけられるため、場内は活気に満ちています。ベニズワイガニが並ぶ光景は壮観で、基準を満たしたものは「高志の紅ガニ(こしのあかガニ)」としてブランド化。東京から訪れる人がいるというのも納得です。
「昼セリ」は12:30頃から開催(日曜日・水曜日は定休日)。活気ある競りの様子が間近で体感できます
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新湊漁港の「昼セリ」は、1人100円で見学可能。※事前予約が必要
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これは9月〜翌5月のベニズワイガニ漁期だけに見られる季節限定の景色
[射水エリア]昼食・押し寿司体験―【みなとキッチン】
ランチで訪れたのは、新湊漁港のすぐそばにあるシェアキッチン【みなとキッチン】。生産者や料理人、地元の食の担い手が交わる“地域の食の交差点”で、昨年もイベント取材で訪れた場所です。
大きな木のテーブルと開放的な窓が心地よい、【みなとキッチン】のキッチンスタジオ
この日は特別に、本ズワイガニの押し寿司づくりを体験。2人で1杯の蟹をさばき、脚・胴・ツメ・味噌を丁寧に分け、生姜酢飯や大葉との層を重ねて仕上げます。
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鮮度抜群の本ズワイガニ。身の張りと色艶は、港町・新湊ならではのごちそう
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自分で捌いた本ズワイガニ
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木枠に酢飯、大葉、海苔、カニの身を重ね、最後にそっと押して仕上げます
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本ズワイガニの旨みが凝縮された押し寿司。産地ならではの贅沢な味わいでした
今回の押し寿司体験は限定プログラムですが、【みなとキッチン】では季節や水揚げに合わせた多彩なイベントを開催中。富山湾の“今”を知るなら、まずはイベントカレンダーをチェックしていみてください。
[富山エリア]地酒「富山ノ酒と寿司」シリーズの試飲 ―【バール・デ・美富味】
富山駅前に戻り、日本酒バル【バール・デ・美富味】へ。季節の生酒や日本酒カクテル、地元食材を使った料理が揃い、カジュアルに日本酒を楽しむ体験ができる場所です。
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富山駅から徒歩1分とアクセス抜群の【バール・デ・美富味】
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県内14蔵が共同開発した新商品「富山ノ酒と寿司」
この日は、林酒造場「黒部峡」と桝田酒造店「満寿泉」をいただきました
店内で目を引いたのは、寿司ネタに合う日本酒「富山ノ酒と寿司」。ラベルに寿司ネタが描かれ、相性が一目でわかるユニークな一本です。この日は特別に、同シリーズの試飲とます寿司のペアリングを体験。さらに「富山県酒造組合」専務理事の東さん、「富山ます寿し協同組合」理事長の大郷さんから日本酒やます寿司の背景を伺い、富山の食文化の奥深さを改めて実感しました。
[富山エリア]見学―【富山市ガラス美術館】【池田屋安兵衛商店】
夕食までの間に、【富山市ガラス美術館】と【池田屋安兵衛商店】へ。
【富山市ガラス美術館】は、グラスアートを専門に展示する美術館。チフーリ(Dale Chihuly)の常設展示と、隈研吾建築の美しい空間が楽しめる、富山を代表するアートスポットです。この日は【富山市ガラス美術館】開館10周年を記念し、日本の現代ガラス芸術の歴史と現在を紹介する展覧会が開催されていました。
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隈研吾氏が手がけた設計。富山県産材のルーバーが柔らかな光をつくる開放的な空間
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企画展「開館10周年記念:めぐりあう今を映す―日本の現代ガラス 1975-2025」は、2026年1月25日まで開催
続いて訪れたのは【池田屋安兵衛商店】。富山が“くすりの町”として発展した歴史を今に伝える老舗の和漢薬店です。店内にはレトロな薬棚が並び、名物「越中反魂丹」など伝統薬が揃います。古い製造機を使った“丸薬づくり体験”も人気で、旅の思い出にぴったり。2階には薬膳料理のレストランも併設され、医薬と食の文化を一度に味わえるスポットです。
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白壁土蔵造りの趣ある外観
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昭和レトロなパッケージが並ぶ店内
[富山エリア]夕食・寿司コース ―【鮨 順風満帆】
締めくくりの夕食は、今年8月にリニューアルした寿司店【鮨 順風満帆】へ。富山湾の朝獲れ鮮魚を中心に、全国から届く旬の魚介と富山の地酒を楽しめる一軒です。富山の地酒を多く取り揃えており、「黒部峡」「満寿泉」に加え、希少な「勝駒」やANA国際線ビジネスクラスにも採用されている「羽根屋」も揃う充実ぶり。旅の締めにふさわしい時間が始まりました。
富山駅から徒歩5分。旅の締めに立ち寄りやすく、最後の一食にぴったりの一軒
「香箱ガニ」。内子・外子・身が重なる奥深い旨みに、思わずため息がこぼれる一品
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「刺身3種盛り」。氷見産のブリ、滑川産の甘エビ、岩瀬産のきじはた。産地が鮮度を物語る一皿
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「げんげの天ぷら」。サクッと軽い衣に、とろりとした身が際立つ深海魚の一品
「炙り黒ムツ」「炙り赤ムツ」。脂がふわりと溶け、炙り香が旨みを引き立てる至福のひと口
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「白エビ」。とろりと甘く、口の中でほどける富山ならではの味わい
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「アジ」「バイ貝」。アジは香り高く軽やか、バイ貝は瑞々しい食感と旨みが際立つ一貫
コース全体を通し、富山の豊かな海の幸を余すことなく堪能できました。前菜の白エビやバイ貝、ホタルイカに始まり、刺身は氷見や滑川の魚が主役。香箱ガニや紅ズワイの茶わん蒸し、げんげの天ぷらなど温菜も印象的で、握りは平目、アオリイカ、炙りムツ、氷見のブリが続きます。どれも鮮度と丁寧な仕事が際立ち、富山の地酒と合わせれば、旅の締めに相応しい満足感に包まれましたーー。
一日を通して出合った富山の海の幸と、その背景にある人・文化・歴史。どの体験も、「寿司といえば、富山」と胸を張って言える理由を教えてくれるものでした。富山湾が育む多彩な魚介、食材に寄り添う地酒、職人の確かな仕事。そのすべてが一貫に凝縮され、旅の最後にいただいた寿司は、この土地の豊かさそのもの。
今回の旅で深めた“富山の寿司”への理解を胸に、また季節を変えて、この地ならではの旬の一貫に出合いに来たいと思います。
この記事を作った人
取材・文/嶋亜希子(ヒトサラ編集部)
東京・下町出身。アパレル業界を経て出版社へ。12年勤務し、編集長も務める。その後「ヒトサラ」で編集を担当し、現在はグルメ業界9年目。パンとフルーツが好きで日々の楽しみに。@papapa_paaan
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