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更新日:2017.02.27グルメラボ

先人たちの名言に学ぶ「食の哲学」

人間の営みの基本、食。あまたの偉人・有名人が食にまつわる名言を残しています。甘いのあり、辛いのあり、苦いのあり。彼らの言葉を読み解けば、食に対する新たな発見があるかもしれません。

先人たちの名言に学ぶ「食の哲学」

マリー・アントワネットは、本当に悪名高き無知発言をしたのか?

「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」

 歴史上もっとも有名な食にまつわる名(迷)言でしょう。その主は、断頭台の露と消えた悲劇の王妃、マリー・アントワネットです。フランス革命期に、小麦の価格が高騰してパンが食べられなくなった民衆に向けて放ったといわれ、彼女の無知さや非情さを表しているとして、よく引用されています。

 しかしこれ、本来は真逆の意味なのだとか。実際は「ブリオッシュを食べればいいじゃない」と言ったそうで、ブリオッシュは贅沢品と思われがちですが、じつは安い小麦の味をバターや卵で風味づけした安価な菓子パンでした。つまり、「高いパンではなく、安いブリオッシュを食べればいいのでは」という意味になります。

 しかも最近、この発言の主はマリー・アントワネットではないという説が有力になっているのです。これが広く流布したのはフランスの思想家ルソーの自伝的著作「告白」でとり挙げられたから。ルソーは「ある高貴な婦人の言葉」として紹介しています。もしほんとうにアントワネットが言ったのなら、彼女が9歳のとき、まだフランス王家に嫁ぐ前、ということに。

 「高貴な婦人」が誰なのかもまだ解明されていませんが、慈善家であったというマリー・アントワネットにとっては、はなはだ不名誉な名言、となってしまいました。

現代に受け継がれる千利休の侘び寂びの精神

 戦国時代一の食通と称される、茶人・千利休。とはいえ、豪華な食事を好むのではなく、素材を生かしたシンプルなものを好んだようで、

「家は洩らぬほど、食事は飢えぬほどにてたる事なり」

という名言が、利休の信条である侘び寂びの精神を端的に表しています。

 利休が秀吉の命により自刃したのが旧暦2月28日、新暦3月27日ごろ。利休が愛した菜の花にちなみ、命日は菜の花忌と呼ばれています。菜の花を模した春の和菓子、菜種きんとんはこの季節の茶席にぴったりですが、利休を偲び3、4月はあえて供しない、菜の花も茶席に飾らない、という茶人たちも多いそうです。故人の愛したものを飾って偲ぶのではなく、飾らないことで偲ぶ。足らざるを尊ぶ侘び寂びの精神がここにも生きているようです。

食にこだわる文豪たちの一家言を味わう

 近・現代を代表する日本の作家のなかにも食通が数多くいます。『鬼平犯科帳』『剣客商売』など、時代小説の名作を世に送り出した池波正太郎はその代表格です。作中では江戸時代の食べ物がいきいきと描かれ、登場するレシピを再現する愛好家も多いとか。食に関するエッセイなどもあり、編集者や若い友人たちに向けた『男の作法』には、具体的でユーモアあふれる金言至言が満載です。

「たまにはうんといい肉でぜいたくなことをやってみないと、本当のすきやきのおいしさとか、肉のうま味というのが味わえない」
「てんぷら屋に行くときは腹をすかして行って、親の敵にでもあったように揚げるそばからかぶりつくようにして食べなきゃ」

 なんてかっこいい作法でしょう! 老若男女も時代の垣根も超えてさまざまな示唆を与えてくれる名言です。

 最後の無頼派・壇一雄は、“男子厨房に入るべからず”だった1970年にレシピ集『壇流クッキング』を上梓しました。世界各国の美味を求めて放浪し、見よう見まねで体得したレシピは圧巻です。

「なあに、思い思いのものをブチ込めばいい」

 豪快で明快な言葉の数々に料理が楽しくなること請け合いです。

 なにを食べるかはどう生きるか。先人たちの名言は、そう語りかけてきます。珠玉の言葉たちをじっくりと味わって、自身の食を見直してみるのはいかがでしょうか?

この記事を作った人

塩川千尋(フリーライター)

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