世界に名を馳せる天ぷら職人の最高峰、【みかわ是山居】早乙女さんが考える「料理の本質」とは
当代屈指の天ぷら職人【みかわ是山居】の早乙女哲哉さん。卓越した技術と繊細な味わいで世界中から注目が集まる早乙女さんに、料理の本質とは、モノづくりの本質とはなにかを伺いました。
日本人だって外国人だって、食べたときの反応はみな同じ
――【みかわ是山居】には世界中からお客様が集まっていらっしゃいます。その現状について早乙女さんご自身はどうお考えですか?
世界中からお客が集まってくることはいいこと。料理を食べるという点では、日本人だって外国人だって何も変わらない。言葉が通じなくても、食べているときの反応はみんな一緒。だからこそ、つくる側は気を引き締めなければならない。
ただ、残念なこともあって。店によっては、外国人客に出す魚のレベルを落としたり、いじったりする人もいるんだ。「どうせ彼らにはわかんないだろう」という考えがあるから。
わからないなんてことはない。子供だろうが、老人だろうが、日本人であろうがなかろうが、どんな人が来ても自分ができる精一杯の仕事をする。そうしないと絶対に“本質”を見抜かれてしまう。
日本には世界に誇れる素晴らしい料理がたくさんあるし、それをつくれる職人がいる。だって海外で本格的な日本料理を食べられないでしょ? でも、東京に来れば中華もフレンチも最高のものが食べられる。そんなの他の国ではありえない。だからこそ、日本の料理人にはそんなことをしてほしくないね。
人の舌がもっとも甘味を感じる温度で供される『海老』。頭と身で揚げ方を変え、一尾から二つの味を引き出しています
――先日お伺いしたときに、外国人客が早乙女さんの動きをじっと見つめ、今ここにいる空気を全身で堪能しようとしていたのが印象的でした
この間、黒人のお客が来たんだけど、帰り際に通訳を介してこう言ってきたんだ。
「お店に入って、天ぷらを食べてから帰るまでずっとあなたを見ていたが、無駄な動きが一切無かった。一つの流れの中でモノができていく、こんなの見たことが無い」と。
わかる人にはわかるんだよ。具体的に何をしているのかわからなくても、「ここが肝心なんだろう」というポイントは見ている。みな、本質を見ようとするから。自分は1ミリたりとも無駄な動きはしない。そうすれば振る舞いは必然的に綺麗になる。料理人は綺麗に「舞う」ことができて当然だから。
身はふっくらと柔らかく、表面は香ばしく。驚きの旨みを内包する店の代名詞『穴子』
モノづくりとは、料理とは、想いの積み重ねできる
――早乙女さんの考える、「モノづくりの本質」とはなんでしょうか
材料に対する想い、お客さんに対する想い、その魚を獲ってきてくれた漁師への想い、運んでくれた運送会社の人への想い。そういう“想いの量”で勝負がきまる。自分はそこに対して一切妥協はない。
【すきやばし次郎】の二郎さんが握る鮨には、百も二百も想いが詰まっている。だから鮨は旨いし、握る姿にも色気がある。言葉にできなくたっていいんだよ。できあがったものに反映できていれば。
それにね、「なにがその人独特のモノをつくらせるか」が重要なんだ。努力すればいい、材料がよければいい、そんなことではなく、リズムをとる、間(ま)をとる、そういったことを“ポジショニング”として捉え、そのポジションを踏んだ瞬間にベストかどうかの確認をする。ベストからベストへリズムを刻み、その“ポジショニング”を積み重ねていく。モノづくりとはそういうことなんだ。
――早乙女さんにとっての「料理人」とは
テクニックや慣れを超えた次の段階でモノをつくっている人。料理人とはアーティスト。高いレベルで愉しみたいと考えている人に対して、的確にそのお手伝いができる人。
いま、つながりのある陶芸家が150人ほどいて、いろんなアプローチの仕方のヒントをもらっている。そして、「あんたたちに負けないような料理をつくっている」と、胸を張って言えるし、その人たちを触発できればいいなと思っている。
これからもそういう意識でモノをつくっていきたいし、目標は深く深く、小さく小さく。「ここまで深く掘り下げた。これがあなたに見えるか?」そんな仕事がしたいね。
食器もほぼすべてが名だたる作家の作品。長年かけて収集された、早乙女氏の希望に叶う銘品です
早乙女哲哉(そうとめ てつや)
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Profile
1946年、栃木県生まれ。中学を卒業した2日後には、上野の老舗【天庄】で皿洗いをしていたという。15年間ひたすら修業に励み、29歳で独立。店は瞬く間に評判を呼び、2009年に多彩なアーティストの作品が彩る現在の店【みかわ是山居】を開店。
撮影/大槻志穂 取材・文/嶋亜希子(ヒトサラ編集部)
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