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2016.07.28連載

  • ゴールデン街

【The OPEN BOOK】田中 開の新宿ゴールデン街日記 Vol.4

新宿ゴールデン街にレモンサワー専門店【The OPEN BOOK】をオープンした田中 開さんがこの街の景色や日常を綴る連載コラム。今回は、【The OPEN BOOK】ができるまでの話。

【The OPEN BOOK】ができるまで

 ゴールデン街にまつわることは色々とあるが、その中でも、自分のお店ができるまでのことを書きたい。

 僕が、今年の3月に出したお店は、【The OPEN BOOK】という。お店の場所は、去年の6月には決まっていた。つまり、お店を出すまでの改装に、9ヶ月もかかってしまった。ただ、僕のお店は20年以上廃墟だった場所で、それはそれは、大変なお店作りだったのだ。
 大変といいつつも、当時の写真を見ようとiPhoneを探ってみると、出てくるのは、どこかで遊んでいる写真ばかりで、我ながら、もっと仕事をしろと言いたくなる。のんびりするなと。

 廃墟、どうやら以前の店主は、夜逃げしてしまったらしく、そこから次の借り手が決まらず、オーナーも誰か分からず、崩れかかった状態で、ずっと僕の物件は存在していた。夜逃げ、というのも街で聞いた話なので、本当のことは分からない。とにかく、あそこは噂であふれていて、都市伝説のようだった。歌舞伎町のおっかない人達の所有だ、人が中で死んでいる、等々。
 僕は、幸運なことに、オーナーの方と通じることができて、その経緯は、なんてことはない、法務局で調べた住所に手紙を書いただけである。
 そうしてお店の場所が決まっても、中は20年前から放置された廃墟。改装するのは自分たちという契約だった。費用を抑えるために、掃除やできることは自分たちでやった。とにかくヒドい状況だった。お店は1階がバー、2階とその屋根裏に、人が住んでいる様子だった。家具やら全てそのままだった。

  • 1階部分。汚いけれど、これでもカウンターや家具は持ち出して綺麗になってほうだった

  • 2階部分。テレビはとうぜん映らない

 20年前のバーには、当時のボトルキープもそのままあった。カナイと書かれた焼酎のボトルがあった。ちゃんと保存しているので、もしそのカナイさんが来られたときには、ちゃんとお出ししたいと思っている。それに中身の詰まったファンタがそのまま。大きなカセットプレーヤーなども。ほとんど使い物にならないので、全て粗大ゴミで捨ててしまった。歌舞伎町には、成田さんというオジさんがいて、普通、お金がかかる粗大ゴミなどを全て無料で持っていってくれる人がいて、その人に渡した(分解して中の金属部品などを工場に売るらしい)。

 屋根から1階の天井まで、まっすぐ穴が空いているのだから、雨漏りなんてレベルじゃなくて、雨が直接1階まで入ってくる。そのおかげで色々と腐っている。ゴキブリをはじめとする生物たちのワンダーランド、ネズミの骨も発掘された。内壁を崩せば、ざーっと砂や土が降ってくるが、全てネズミの糞で触れると肌がかぶれてしまうので注意が必要だった。ときには、壊した壁の隙間からカマドウマがドバッと出てきた。それは、それは、本当に、「ドバッ」という感じで、一生分のカマドウマをぼくは見ることができた。 
 そして、1階の片隅には、白骨化した猫ちゃんがいらっしゃった。20年かけてミイラ化した様だ。隣でお店をやっているママの話では、昔、迷い込んでしまった猫が、外に出ようとみゃーみゃー泣いている声を聞いたらしい。おそらく、その子だろう。後に、供養した。

 2階の住居からは、座敷童のような女の子の人形がでてきて、しかも首から先が無くなっていた。でも、そんな建物だから、驚かずに、燃えるゴミが燃えないゴミか、ということにしか思考が働かなかった。素材的に燃えないゴミだった。今考えると、その冷静さがおかしい。



田中 開 プロフィール
  • タナカ カイ
    1991年東京都出身。早稲田大学基幹理工学部卒業、現在は同大学院に在籍中。祖父はゴールデン街をこよなく愛した、故・直木賞作家の田中小実昌氏。その縁もあり、この街にレモンサワー専門店【The OPEN BOOK】をオープンする。