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更新日:2017.12.08デート・会食 連載

新宿御苑【シェフス】の『上海蟹の茶碗蒸し』|森脇慶子の今月の気になる「ヒトサラ」

人気ライターの森脇慶子さんが、今絶対に食べてほしい料理を紹介する連載第二回目は12月いっぱいまでしか食べられない、今だけのご馳走が登場。オレンジ色に輝くこの料理の正体は!?

シェフス

今月のヒトサラは・・・・・・新宿御苑前【シェフス】

フルフル、やわやわ、優しいのに濃厚な『上海蟹の茶碗蒸し』

 初めて上海蟹を食べたのは、いったい幾つの頃だったろうか。20代後半、香港の庶民的な上海料理屋で、勧められるがままに食べた蒸し上海蟹が、もしかしたら初体験だったかもしれない。今ではもうはっきり思い出せないほど、上海蟹は、私の年間食ルーティンの中にしっかりと組み込まれている。
 私だけではない。今や、日本人にとっても馴染み深い秋の味覚として、すっかり認知された感がある。

    上海蟹の料理は、他にも『上海蟹みそシューマイ』850円や『上海蟹みそ炒飯』5400円などいろいろ。『上海蟹みそ豆腐』5400円も必食の一皿。これもごはんを呼ぶ佳品だ。

    上海蟹の料理は、他にも『上海蟹みそシューマイ』850円や『上海蟹みそ炒飯』5400円などいろいろ。『上海蟹みそ豆腐』5400円も必食の一皿。これもごはんを呼ぶ佳品だ。

 その食ルーティンの一軒として、毎年11月の声を聞くと上海蟹を目当てに欠かさず足を向けているのが、新宿御苑前【シェフス】。なぜなら、上海蟹が傑出しているからだ。東京中の中華料理店で上海蟹を試した訳ではないが、この店ほど大きく立派な上海蟹はそうそうお目にかかれまい。重さにして一杯約230〜250g。手に持つとズシリと重い。聞けば、同店の上海蟹は、有名な陽隥湖でも太湖でもなく、江蘇省宿遷市近くの駱馬湖で採れたものだとか。

「駱馬湖は、水質がよく天然の水草が多いため、上海蟹の餌となる小魚や小エビ、タニシが豊富。だから蟹もよく育ち、味も良くなるんです」とは、マダムの王のり子さん。定番の蒸し蟹の旨さは言うまでもないが、それ以上に心待ちにしている逸品! それがご覧の『上海蟹の茶碗蒸し』。(私が勝手に思い込んでいる)同店のスペシャリテだ。

    『上海蟹茶碗蒸し』。写真はWサイズで8000円。これで3~4人分あるが、独り占めしたい美味しさ。Sサイズ4000円もある。口に入れると舌の上でとろける。

    『上海蟹茶碗蒸し』。写真はWサイズで8000円。これで3~4人分あるが、独り占めしたい美味しさ。Sサイズ4000円もある。口に入れると舌の上でとろける。

 稀代の美食家だった初代主人の故・王恵仁さん。彼は、大の卵好きでもあったそうで、この一皿も王さんオリジナル。だからなのだろう。まず、この茶碗蒸し自体が素晴らしい。フルフルとしたその柔らかさは、まるで極上の絹ごし豆腐の如く滑らか。「茶碗蒸しは吸物感覚で作られければダメ」とは、とあるベテラン和食料理人の名言だが、その言葉を地でいくトロりとした口当たりには、思わず目尻が下がる。美味の秘密は、卵の約4倍とスープが多めの配合とその蒸し加減。そして、圧巻は、何と言っても茶碗蒸しを覆い隠すかのようにたっぷりとかけられた上海蟹味噌だろう。オレンジ色を帯びたソースには、雌雄両方の身と味噌が、贅沢にも約3杯分も使われているそうだから、その濃厚さたるや想像以上。しかし、くどさは微塵もない。一種妖艶な味噌の旨味がふんわりソフトな卵とクリーミーに混ざり合い、やがてコクとまろやかさが混然一体となって舌に広がる。後に残る優しい余韻が愛おしい。そのままでも十分美味いが、もし、お腹に余裕があるならば、お代わりは御飯にトッピングして“蟹味噌卵かけごはん”を試してみてほしい。一粒で二度美味しい体験をできるはずだ。

    上海蟹炒飯も捨てがたいが、上海蟹のみそごと茶碗蒸しを御飯に乗せて頂く美味しさは、また格別。汁かけ飯的うまさだ。卵の優しさと蟹味噌の上品なコクがよく合う。

    上海蟹炒飯も捨てがたいが、上海蟹のみそごと茶碗蒸しを御飯に乗せて頂く美味しさは、また格別。汁かけ飯的うまさだ。卵の優しさと蟹味噌の上品なコクがよく合う。

 ちなみにマダムによれば、メニュー化したのは「10年ほど前から」。茶碗蒸しを作るのに蒸篭を要するため、蒸し蟹の注文が殺到している時は、作れなかったり待たされたりすることも多々あるそうだが、待つ甲斐はあり。予約時に、あらかじめ頼んでおくと良いだろう。

石綿太輔シェフよりひと言

「最初は、強火で約3分卵全体に均一に火を入れ、その後、ごく弱火にして今度は15分ゆっくりと蒸し上げるのがコツですね。火が強すぎると卵にスが入ってしまうんです」

撮影/岡本祐介

この記事を作った人

  • 森脇慶子
    「dancyu」や女性誌などで活躍するフードライター。綿密な取材と豊富な経験に基づく記事は、読者のみならずシェフたちからも絶大な信頼を得ている。日々おいしいものを探求すべく新旧問わず様々な店を訪問。12月には選者を務める「東京最高のレストラン」(ぴあ)が発売。

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