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更新日:2018.01.09連載

西荻窪で57年愛され続ける、町中華の店【博華(はっか)】| ヒトサラ Bグルマン部 #2

様々なジャンルの“B級グルメ美食家”たちが集い、自分の愛するお店を熱く語る「ヒトサラ Bグルマン部」。今回のテーマは「町中華」です。担当は、ラグジュアリーメンズ誌『THE RAKE 日本版』副編集長の藤田雄宏さん。無類の町中華好きである、藤田さんイチオシの西荻窪【博華】をご紹介します!

西荻窪で57年愛され続ける、町中華の店【博華(はっか)】| ヒトサラ Bグルマン部 #2

はじめまして、『THE RAKE』という雑誌のファッションエディター、藤田と申します。

以前イタリアに住んでいたので、イタリア通と思われていますが、心臓はビステッカでなくジャンボ餃子、脳はスパゲッティでなくビーフンでできていそうなほどの町中華フリークだと自負しています。なので今回、町中華担当として「ヒトサラ Bグルマン部」の仲間に入れたことを大変光栄に思っています。2018年の抱負は「中国人より中華を食べる」。本業よりこっちのほうが楽しくなっちゃいそうでちょっと不安です。

今回は、足繁く通っている大のお気に入り、西荻窪の名店【博華】をご紹介します。

創業57年、西荻窪に愛され続ける
町中華の名店【博華(はっか)】

    先代のころからずっと使われている暖簾。なんとも風情のある店構えだ

    先代のころからずっと使われている暖簾。なんとも風情のある店構えだ

西荻窪にある町中華の名店【博華】のことが、85年の阪急ブレーブスくらい大好きだ。

85年はタイガースが優勝した年で、ジャイアンツの槙原から放ったバース、掛布、岡田のバックスクリーン3連発は、今も鮮明に記憶している。でも僕はあの年、パ・リーグの、それも阪急ブレーブスが大好きだった。

ペナントレースこそ4位に終わったが、この年のブレーブスはかなり強力な打線を擁していた。前年の三冠王ブーマーを筆頭に、盗塁王の福本豊がいて、弓岡、蓑田、松永、石嶺がいて、ルーキー熊野がいた。投手陣では山田久志がモーレツにカッコよく、小学4年生の僕は同球団に完全に恋していた。

【博華】とブレーブスには何の関連性もないんだけど、食すほどその美味さの虜になる同店の料理は、燻し銀的な名プレイヤーが揃っていた85年のブレーブスを想起させるのだ。

    店内はカウンターのみで12席。いつもオープンと同時に常連客でにぎわいをみせる

    店内はカウンターのみで12席。いつもオープンと同時に常連客でにぎわいをみせる

L字カウンターの空いている席に腰掛け、次に奥のビール用冷蔵庫から瓶ビールを引っ張りだすのが、僕が【博華】を訪ねたときにする最初の儀式だ。上2段が黒ラベル、下がキリンラガー(ちなみに僕は黒ラベル派)で、ビール用の小さなグラスは別の冷蔵庫に冷やしてある。

町中華では、なんの変哲もない小さなグラスで飲む瓶ビールこそが最高に美味い。

    【博華】は昭和35年の5月にオープン。2代目が、母親とともに切り盛りしている。店は2003年に建て替えられた

    【博華】は昭和35年の5月にオープン。2代目が、母親とともに切り盛りしている。店は2003年に建て替えられた

で、僕はビールを傾けながら今日の打順を組み立てる。至福のひとときだ。『やきぎょうざ』、『豆腐の煮込』、『砂肝炒め』(裏メニューの砂肝の唐揚げが僕の大好物だ)、『肉からあげ』(鳥でなくて豚)、名選手ばかりゆえ、悩みに悩む。この時点で大瓶一本空けてしまっていることもしばしばだ。

ここで我にかえり、お手製の『つけもの』を頼むのがお決まりのパターン。この日は大根のつけものが出てきたが、しばらく眺めていると、大根が白球に見えてきた。

割り箸を手にした僕の右手には山田久志の魂が乗り移り、大根を白球のごとくポンポンとテンポよく口に放りはじめる。僕の口は、藤田浩雅のキャッチャーミットのごとく、白球をキャッチしていく。【博華】のつけものは、いつもとっても優しい味で、ビールがさらにグイグイ進む。

    『つけもの』は450円(税込) 春はセロリや白瓜、夏はきゅうり、冬は大根やかぶといった具合に旬の野菜を漬けている

    『つけもの』は450円(税込) 春はセロリや白瓜、夏はきゅうり、冬は大根やかぶといった具合に旬の野菜を漬けている

つけものを頬張ったら、いよいよブレーブスの攻撃だ。

まず頼むべきは、『やきぎょうざ』。ブレーブスでいうところの不動の一番バッター、福本豊的存在の看板メニューである。薄力粉だけで練られた皮はもっちり弾力性があり、具はニラとニンニクの味がしっかりきいて、噛むと両者の優しいハーモニーがジワッと口内に広がる。油っぽさは微塵もない。

美味すぎて2皿目、3皿目と盗塁を決めたいが、先は長いので、ここは焦らずジッとガマン。ガマン、ガマン。

    『やきぎょうざ』は1人前6つで550円(税込) 最初の2つは何もつけずに味わい、もう2つは酢とともに楽しみ、最後の2つは酢にラー油を加えて食すのが僕のスタイルだ

    『やきぎょうざ』は1人前6つで550円(税込) 最初の2つは何もつけずに味わい、もう2つは酢とともに楽しみ、最後の2つは酢にラー油を加えて食すのが僕のスタイルだ


2皿目は弓岡敬二郎のように、重量級クリーンナップへとつなぐ送りバント的なメニューを選びたい。『豆腐の煮込み』、『砂肝のからあげ』、『肉野菜いため』、『ニラと玉子いため』などのそそるメニューが揃っており、何を頼むか悩みに悩む。

この日は砂肝が品切れだったので、『きくらげの玉子炒め』を注文した。こりこりした食感のきくらげとふわふわ玉子のハーモニーがたまらない。老酒がグイグイ進むではないか。しっかり送りバント成功だ。

    『きくらげの玉子炒め』750円(税込)は、シャキッと甘味のあるたまねぎが、きくらげと玉子と見事に絡みあっている

    『きくらげの玉子炒め』750円(税込)は、シャキッと甘味のあるたまねぎが、きくらげと玉子と見事に絡みあっている

さて、いよいよクリーンナップの登場だ。

『すーぷそば』(湯麺)を筆頭に、『いためそば』、『かたいやきそば』など、メニューに並ぶ豪快な麺類の数々は、さしずめ蓑田、松永、熊野、石嶺といったところか。

誰を起用するべきか上田利治監督ばりに悩むところだが、初めての方はメニューの最初に記されている『すーぷそば』を食すべきだろう。くすんだエドヴァルド・ムンク的色彩のスープが、茹でた野菜と見事に溶け合っており、大変美しい。滋味あふれる優しい味わいに、心まで温まってくる。

    スープは豚足ベースで、それにもみじ(鶏足)を入れ弱火でグツグツ。具となる人参、白菜、もやし、豚は、炒めずに最初から煮込んでいるのが博華の『すーぷそば』650円(税込)の特徴だ

    スープは豚足ベースで、それにもみじ(鶏足)を入れ弱火でグツグツ。具となる人参、白菜、もやし、豚は、炒めずに最初から煮込んでいるのが博華の『すーぷそば』650円(税込)の特徴だ

麺を食べたら、さすがに腹が膨れてきた。が、4番ブーマーが待っている。【博華】のブーマーといえば、『やきめし』だ。細かく刻まれた人参、玉子、ねぎ、豚肉、きくらげは、まるでフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のファサードを思わせる美しさである。

口にした瞬間、あまりに香ばしく優しい風味に、笑顔でレンゲをフルスイングしていることだろう。ふわふわと風に乗って、ライトスタンドに走者一掃ならぬ米粒一掃のホームラン! といった感じでペロリと完食しているはずだ。


極上のメニュー打線はまだまだ続くが、酔いも回って満腹になってしまったので、レポートはこれにて終了。

    『やきめし』700円(税込)は、パラパラとしっとりの中間系で、大変香ばしく野菜の色彩も美しい

    『やきめし』700円(税込)は、パラパラとしっとりの中間系で、大変香ばしく野菜の色彩も美しい

最後にひとつ。特別な日には、僕は【博華】でご馳走を食べると決めている。
最近では2年前の12月24日、僕の40歳の誕生日と、今年の11月3日、結婚10周年の記念日がそうだった。
僕にとってはミシュラン3つ星よりも大切な、とっても愛おしい店なのである。

【博華(はっか)】

  • 住所:東京都杉並区西荻北2-27-10
    電話:03-3390-0991
    アクセス:JR「西荻窪」駅から徒歩7分
    営業時間:18:30~24:00
    定休日:月曜

「ヒトサラ Bグルマン部」

この記事を作った人

藤田 雄宏(THE RAKE JAPAN)

1975年、東京都中野区生まれ。ラグジュアリーメンズ誌『THE RAKE日本版』 副編集長。ナポリの仕立て服を愛するあまり、2015年はナポリに駐在。毎日パスタを食べていた反動からか、帰国後、無類の町中華好きに。「独自の進化を遂げた町中華は日本の伝統食文化だ」が口癖。

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