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更新日:2018.04.13グルメラボ

~食の未来のために~Vol.3/2018年「サステナブルレストラン」受賞シェフ生江史伸シェフの軌跡

3月末にマカオで開催された「アジアのベストレストラン50」アワードのセレモニー。今年は日本から過去最高数となる11のレストランがランクインし、盛り上がりを見せたことをご存知の方も多いでしょう。今年の大注目は初めて設置された「サステナブルレストラン賞」。栄えある第一回受賞者は【レヴェルヴェソンス】生江史伸シェフ。早速シェフに取材をしました

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2018年3月に発表された「アジアのベストレストラン50」。今年の大注目は「サステナブルレストラン賞」。アジアに先駆け、「世界のベストレストラン50」ランキングでは2014年に導入。以来5年を経た今年、栄えあるアジアの初回受賞者として選ばれたのは、東京・西麻布の【レフェルヴェソンス】でした。

「サステナブルなレストラン」って何?

「2018年度、サステナブルレストラン賞は、東京のレフェルヴェソンスに決まりました!」。マカオのウィンパレス・リゾート内にある巨大なセレモニー会場。壇上に上がった生江シェフに、びっしり満席、800人以上のオーディエンスは惜しみない拍手を送りました。

「きちんと見てくれたんだな、という嬉しさがありますね。ただサステナブルという観点では、世界にはもっともっと優れたレストランがあります。すばらしい賞をいただいてしまった以上、自分たちもさらに取り組みを進めなくては、と気を引き締めています」

    生江シェフのスペシャリテ『定点〜 丸ごと火入れした蕪とイタリアンパセリのエミュルション』。動物性たんぱく質の使用はほんの少しの生ハムとバターのみ。地球へのエネルギー負荷が少ない野菜を主役としている。

「サステナブルレストラン賞」とは、イギリスに本部を置くSRA(サステナブルレストランアソシエーション)という認証団体が評価を行うもの。聞けば、その評価基準は多岐にわたります。まずはもちろん食材の調達基準。地球にやさしい方法、貧困層の搾取につながらない方法等で生産された野菜や魚、乳製品や畜肉等を使うことが重視されます。次に、店で生まれるフードロスやゴミを可能な限り減らすこと。そして、電気やガス、水などのエネルギーを効率的に使い、無駄をなくすこと。さらにスタッフの労働時間、休日数など労働環境を向上させることも、とても大切な要素なのだとか。スタッフが健康に働き続けられる状況でなければ、レストラン自体がサステナブルではない(続かない)という判断ですね。

    千葉「エコファームアサノ」の方々とともに

    取引のある酪農家さんで。乳牛とのコミュニケーションも重要?!

 現在、レフェルヴェソンスが直接取引する日本各地の農家さんの数は40ほど。自然農法、有機農法、減農薬農法など段階はさまざまですが、すべて地球にやさしい農法を取り入れた農業者です。肉は沖縄の在来種豚である今帰仁アグー、放牧で健やかに育てられた岩手県山形村産の短角牛、餌になる米から栽培して大切に育てられた国産のホロホロ鳥などを使っています。
 さらにフードロスがなるだけ生まれない(さまざまな部位を使いきる/鮮度段階に合わせた)レシピを考え、生ごみはすべてコンポストを使い微生物のチカラで液化。ゴミとして焼却することに比べ、94%もの温室効果ガス削減になるとのことで驚きます。スタッフの週休は現在2日、昨年の長期休みは夏季2週間+年末年始10日間と、飲食業界としては驚異の好待遇ですが、さらにもっと増やす必要があると生江シェフは言います。

    日本各地の生産者を訪ね歩く日々。この時は小麦農家を訪ねて北海道へ

「ガストロノミーレストランは仕込みが多く一日の労働時間が長いので、代わりに世界の一流のレストランのように週休3日間にするか、それとも週休は据え置きでランチを2~3回削るか、、、レストランとしてビジネスを成り立たせる必要を考えると、海外に比べてガストロノミーレストランの価格認識が低い日本ではハードルが高いんですが、なんとかならないかとずっと考えています」

すべては『シェ・パニース』からはじまった

 生江シェフがこのような考えを持ち始めたのは、さかのぼること20年近く、アメリカ・カリフォルニアでの経験からでした。
「バークレーにある『シェ・パニース』というレストランでディナーを食べた日がターニングポイントです。ルッコラのサラダでスタートし、ニンニクのピュレのスープと牛のリブステーキにピストゥソースが添えられたメインコース。シンプルでしょう? でも、もう、すべてが飛びぬけておいしかったんですよ。鳥肌が立つほど感動して、このおいしさは何なんだ?と」
 このくだり、私自身もとても共感します。調理自体はとてもシンプルで、素材自体からみなぎる力を感じる料理なんですよね。生江シェフはその後、創立者であるアリス・ウォータースの本を数冊日本に持ち帰ってじっくり読み、彼女の有機農法への熱意、コミュニティやファーマーズマーケットへのサポートほか、数々のエシカルな取り組みを知ることになります。

  • 【シェ・パニース】の創設者アリス・ウォータース
    🄫Kenji Miura

  • 🄫Kenji Miura

「ああこれだ、と思ったんですよ。あの味をつくるには、志のある生産者やコミュニティとの信頼をベースにレストランを運営する、この関係性が不可欠だと。その時、僕は将来こういうことをしたい、こんなレストランを作ろう、という大きな夢を持ちました。その後2014年に、縁あってシェ・パニースで研修をさせていただけたんですが、スタッフの労働環境もすばらしかったです。スタッフがハッピーでかつプライドを持てる環境で働いていなければ、お客さまを幸せにするサービスはできませんよね」

 この6月には、都内に新たなベーカリーレストランをオープン予定という生江シェフ。シンプルな料理という意味では、ミシュラン二つ星のガストロノミーレストラン、レフェルヴェソンスよりシェ・パニースのコンセプトに近い。できうる限り彼の夢のレストランに近づけたい、と奔走中です。

    「いただきますプロジェクト」のメンバーと、イベント時のキッチンで

食の世界がつながれば、きっと社会をよくすることができる

 生江シェフは近年、多くの社会的な活動や講演、カンファレンスでの登壇などにも力を入れています。和歌山「アイーダ」の小林寛司シェフを中心に、2015年に食関係者や多くのシェフが集って始まった「いただきますプロジェクト」では、在来種の畜産物を次世代に残すための活動や、震災後の東北復興を目的とした石巻「リボーン・アート・フェスティバル」でのレストラン運営など、さまざまな食の社会活動にメンバーとして参画中。日本各地の伝統食材生産者を訪ねストーリーを発信したり、また青山のファーマーズマーケットでは、スローフード協会の若者ネットワークをサポートし、マーケットで残った野菜を使ったスープを作ってフードロスを考えるイベントなどにも参加しています。

    2018年3月にバンコクで行われた「ReFood Forum」での講演風景

 一方で海外では、サステナビリティをテーマとした数々のカンファレンスでの講演、ワークショップのファシリテーションなど、毎月のように海を越える日々。直近の3月にも、まず「メルボルン・フードアンドワインフェスティバル」では食の未来について講演し、カリフォルニアのソノマでは昨年末の火災被害救済のためのチャリティディナーで料理をし、タイ・バンコクでは、アジアから食のサステナビリティを考えようという料理人主催のフォーラム、「ReFood Forum」に登壇しました。

    ReFood Forumの主催者で、さまざまな社会活動でも有名なバンコク「BoLan」のオーナーシェフ夫妻と

 アリス・ウォータースがシェ・パニースを立ち上げたのは1971年、イタリアでスローフード協会が創立されたのは1989年。その後21世紀に入ってからは、デンマーク「ノーマ」のレネ・レゼッピ、ペルー「アストリッド・イ・ガストン」のガストン・アクリオ、アメリカ「ブルー・ヒル」のダン・バーバーはじめ、欧米を中心に数多くのスターシェフたちが、地産地消、持続可能なシーフードへの挑戦、在来種の食材の継承、フェアトレードの推進、フードロスの削減など、さまざまな社会活動を通じて食の問題意識を世界に発信してきました。
 生江シェフのさまざまな活動は、まさにその大きな潮流に呼応したものと言えるでしょう。実際に、アジアでもその流れが加速しているのを感じます。ReFood Forumに登壇し、生物多様性の保全について話した台湾「ムメ」のリッチー・リンシェフは、「現在の食の問題について、いつもに増して考える機会になったフォーラムでした。今後も続いてもらいたい」と、またコラボレーションディナーを担当したタイ「ル・ドゥ」のティティド “トン” タサナカジョンシェフは、「フォーラムはインスピレーションの宝庫でした。参加後、すぐ店のフードロスをさらに削減するプログラムをスタートしています」と話してくれました。

    2017年11月の「スローフード・ユース アジア食の未来会議」ではワークショップを担当

 そんなアジアでの流れを象徴するかのような、今年の「アジアのベストレストラン50」でのサステナブルレストラン・アワード導入。生江シェフは受賞を受け、冒頭のコメントに続けて次のように語りました。
「エシカルやサステナブルといったトピックが、世界各地のイベントなどにシェフを集める推進力になっているのを感じます。『良きこと』に僕らの産業が力を貸せるのはすばらしい。ここアジアは国家間の経済格差が大きいので、ヨーロッパと同じスピードでは進めないでしょうが、未来を真剣に考えている若者はたくさんいます。そんな彼らが各国で活動を進め、お互いにつながっていけば、子供達の未来は明るいと思いますね」

この記事を作った人

佐々木ひろこ

日本で国際関係論を、アメリカで調理学とジャーナリズムを、香港で文化人類学を学び、現在フードライター、エディター、翻訳家。多くの雑誌や書籍、ウェブサイトに寄稿中。料理人を中心としたサステナブルシーフード勉強会“Chefs for the Blue”の世話人。

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