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更新日:2018.05.11食トレンド グルメラボ 連載

ファーマーズマーケット@UNUがめざすもの/~食の明日のために~Vol.4

ファーマーズマーケットとは、農家などが買い手に直接販売する対面型の市場。この流通スタイルの歴史は長く、欧米では50年以上続くマーケットも少なくありません。今や日本各地で開催されている都市型ファーマーズマーケットですが、実はつい最近までその概念を知る人は多くありませんでした。「都市を耕す」をコンセプトに、10年間雨の日も風の日も毎週末開催を続け、その状況を変えてきた東京・青山のファーマーズマーケット@UNUに話を伺いました。

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東京の真ん中で農を叫ぶ

 東京・表参道駅から青山通りを渋谷方面にのんびり10分。国連大学前の敷地に毎週末、カラフルなテントを屋根にして立つ市がファーマーズマーケット@UNUです。農家さんと会話しながら買いものができる野菜直売店を中心に、スパイスマーケットやお茶のショップ、パンやマフィンを売るべーカリーから搾りたての油が買えるスタンド等がずらりと軒を並べ、グルメフードを売るキッチンカーがにぎやかに周りを囲みます。

 店とキッチンカーを合わせると通常の週末でも100近く、イベント時には150〜160もの店が並ぶというこのマーケット、ご近所住人はもちろん遠方からの常連客も多く訪れ、外国人観光客の姿もちらほら、料理人が出勤前に立ち寄る姿も珍しくありません。大都会東京のど真ん中にありながら、採れたて野菜のエネルギーや土のにおいにつつまれた、産地とダイレクトにつながる空間は、ニューヨークやロンドンのマーケットにも通じます。

    青山の街にぽっかりと空いたのどかな空の下、心地よい風が吹くマーケット。売り手も買い手も楽しそう。

    青山の街にぽっかりと空いたのどかな空の下、心地よい風が吹くマーケット。売り手も買い手も楽しそう。

「海外のファーマーズマーケットに似てますか?笑 でもそういえば、ファーマーズマーケットって『外国のどんな大都市にだってあるのに東京にはない。おかしいよね』という弊社代表・黒崎の問題意識が事業の始まりだったんです」

 マーケットを企画運営するメディアサーフコミュニケーションズのスタッフ、若菜公太さんは言います。

「2008年9月のことでした。最初は本当に小さなマーケットからはじまったんですよ。近くの別の場所でスタートし、ここに移ってきた当初も出店数は20ほど。お客さんも少なくて、毎日手配りでビラを撒いていたくらいです。それから10年、おかげさまで、今では多くの生産者さんたちとお客さまに来ていただけるマーケットになりました。単発のイベント感覚ではなく、やっと日常の一部ととらえていただけるようになったと思います」

 一日の来場者は通常の週末で15000人ほど、イベント時はさらに多くの人が訪れます。買い手にとってはおいしい食材、安心な食べ物を生産者から直接買える場所として、作り手にとっては意識の高い買い手が集まるマーケット、食べ手の声を聞ける場所として、確かな地歩を築いてきました。

    バナナピーマン、レッドオーレ、フェアリーテール、プッチーニ...一般的な種類はもちろん、珍しい野菜を買えるのもファーマーズマーケットのお楽しみ。

    バナナピーマン、レッドオーレ、フェアリーテール、プッチーニ...一般的な種類はもちろん、珍しい野菜を買えるのもファーマーズマーケットのお楽しみ。

若手生産者をサポートし、未来を支える

マーケットへの出店希望は全国から引きも切らず、野菜の収穫期ともなると出店枠は争奪戦になるのだそう。新規の出店希望に対しては生産方針や未来を切りひらく意思などを聞き、主催者と参加者として共感できるかどうかをお互いじっくり確認してから、その時に枠が空いていれば参加してもらう方針、と同スタッフの竹田潤平さんは説明します。

「農家さんに関しては有機や自然農法の生産者だけ、などと特に線引きはしていないんですよ。でも、必然的に多くはなりますね。そしてなかでも、今は特に若手生産者に重点的に入っていただいています。彼らの多くはまだスタートアップの段階で販路が少ない。情報も足りない。農家として経営が軌道に乗るまでは本当に大変で、『思い』はあるのに仕事として続かないことも多い。だからなるだけ彼らを支え、育てていきたいんです」

  • 左/緑色の生胡椒を発見。右の容器に入っているのは熟成させたもの。右/さまざまなスパイスやナッツを揃えるスパイススタンド。量り売りで買えるのもうれしい。

    左/緑色の生胡椒を発見。右の容器に入っているのは熟成させたもの。右/さまざまなスパイスやナッツを揃えるスパイススタンド。量り売りで買えるのもうれしい。

 ファーマーズマーケットで生産物がある程度売れるようになれば生活が安定し、農家としての次の一歩を考えられる余裕が生まれるでしょう。料理人に紹介して味を気に入ってもらえれば、定期的に取引が発生する可能性もあります。現在はニューカマーの若手生産者の店を一区画にまとめ、マーケットの開催中もスタッフがアドバイスしやすい位置に配置しているそうです。

 さらに昨年には、マーケットで残念ながら売れ残ってしまった野菜をまとめ、近隣の契約レストランに配送・販売する”re-think delivery”(リシンク・デリバリー)というプログラムも始まりました。多角的に農家をサポートするシステムを、着実にととのえていることが伝わります。

    左から、メディアサーフコミュニケーションズの田中佑資さん、若菜公太さん、竹田潤平さん

    左から、メディアサーフコミュニケーションズの田中佑資さん、若菜公太さん、竹田潤平さん

    拝原宏高さん、酒井かえでさん、田中亘さん

    拝原宏高さん、酒井かえでさん、田中亘さん

「いい農業」をめざして

 これまで10年間にわたり、東京の消費者の食と農への向き合い方を見つめてきたファーマーズマーケット@UNU。この先の未来に目指すべき「いい農業」はと問うと、竹田さんは次の3つの「基本」を挙げてくれました。

① 安心できる野菜や果物をつくること
② 農家として、きちんと生活できる経済性を担保すること
③ 水質汚染回避や生態系維持など、地球環境や社会問題を考えて取り組むこと

 基本と言ってもじつのところ、これら全部を考えられている農家さんはまだまだ少ないそうです。より真面目に農業に取り組むほど、忙しさもあってなかなか考える余裕がない。だからこそ、マーケットとしてサポートできるところはしていきたいと言います。

    グルメフードを売るキッチンカーもたくさん。青空の下で食べる窯焼きピザ&クラフトビールは最高。

    グルメフードを売るキッチンカーもたくさん。青空の下で食べる窯焼きピザ&クラフトビールは最高。

「ファーマーズマーケットは作り手、つまり農家にとっては販路の拡大場所であり学びの場です。そして使い手、つまり都市のお客さまにとっては『いい農業』『いい農産物』に対して興味を持つ入口。農業の未来のためには都市と農、両方の裾野を広げることが重要で、ファーマーズマーケット@UNUはそのためのプラットフォームになっていきたいですね」

都市は農を求め、農は都市を求めている。
農業の未来は明るく、可能性を秘めている。
(メディアサーフコミュニケーションズのHPより)

お知らせ

農業の未来と農的生活の可能性を追求するためメディアサーフコミュニケーションズが石川県に運営する、古民家を改装したファームハウス「TAKIGAHARA FARM」。カフェに加えて宿泊施設もオープンしました!

この記事を作った人

佐々木ひろこ

日本で国際関係論を、アメリカで調理学とジャーナリズムを、香港で文化人類学を学び、現在フードライター、エディター、翻訳家。多くの雑誌や書籍、ウェブサイトに寄稿中。料理人を中心としたサステナブルシーフード勉強会“Chefs for the Blue”の世話人。

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