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更新日:2017.02.27連載

新宿ゴールデン街日記 Vol.5

新宿ゴールデン街にレモンサワー専門店【The OPEN BOOK】をオープンした田中開さんがこの街の景色や日常を綴る連載コラム。前回は、とにかく悲惨だったお店の改修前の状況を書いたが、今回は体育会系部活動さながらにハードだった改修について。

新宿ゴールデン街日記 Vol.5

夜通し行った改修作業

 ともかく僕は行動が遅くて、遅いというか、色々と誘われるとどうしても行ってしまう性分だから、飲み会なんかに遊び行っている日々のなかで、色々と遅れがでて、大工さんから、キツめに「ホントにやるんですか」なんて、電話をもらうこともあった。
 それで、掃除をはじめたのが8月終わり。それから9月頃に着工して、11月ごろには店ができるだろうなんて見立てだったが、これが、今思うと、甘いのなんの、ホントにおめでたい予想だった。

 実際に出来たのは2月末だ。それもギリギリで。壁がほとんど腐っていたので、張り直したりと、とにかく作業が多かった。
 基本的な作業は、大工さんにお任せてしていたが、最後の仕上げの部分は色々とこだわりたくて、自分らでやることに。とにかく2週間ぐらい、毎日壁に漆喰を塗っていた。それも時間がないから、昼間は大工さんが現場に入って、僕らは夜から朝まで。

 バケツで練った水っぽいスライムのような漆喰を、コテで壁に塗っていく。最初は下手で、変な模様になってしまうから、カウンター下など目立たないところから、徐々に目につく壁を塗っていく。漆喰の塗りは、その何とも言えない、ランダムで適当な模様の加減に味があるのだが、素人の適当さというのは、やっぱりそんなのとは違って、見るに耐えない。崩し、というのも、基礎ができてこそのものだ。
 僕のお店は、2階分ほどの吹き抜けがあって、とにかく塗るのが大変だった。一番上の天井部分なんて、脚立に片足だけ乗っけて、曲芸みたいに塗っていた。問題は、そんな状態でも、深夜の眠気が襲ってくることで。高さ6メートルでウトウトして、足を踏み外したときは、ホントに開店前に死ぬと思った。

懐かしい疲労感

 明け方になったら、片付けをして、隣にあるスーパー銭湯に寄って、閉店の9時まで仮眠して、そのまま、現場の打ち合わせに向かった。

 こういうことは往々にある。中学高校時代の部活動を、みんな懐かしむけど、その時は、もう2度としたくないという感情ばっかりだったはずだが、時が経ち、その感情がどこかにいってしまうと、その青春の姿が美的に見えてきて(ひたすら厳しい練習に耐える姿を美的と呼ぶのは個人的な表現だが)、もう一度、なんて発想になってしまうのもかもしれない。
 という話をするのだが、体育系の部活にどっぷり属していたという人は意外と少なくて、それは体育系である僕のセンチメンタルな思い出を、人に話したいがための客観めいた主観的な意見だと気づく。


田中 開 プロフィール
  • タナカ カイ
    1991年東京都出身。早稲田大学基幹理工学部卒業、現在は同大学院に在籍中。祖父はゴールデン街をこよなく愛した、故・直木賞作家の田中小実昌氏。その縁もあり、この街にレモンサワー専門店【The OPEN BOOK】をオープンする。

この記事を作った人

田中開

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