熟成キムチが決め手! 深い味わいの『キムチチゲ』に心も体も温まる/【韓灯】森脇慶子の今月の気になるヒトサラVol.11
韓国の家庭では毎日の食卓に欠かせないキムチ。【韓灯】のマダムがつくるキムチはひと味違うと常連さんにも大評判。そのキムチを熟成させ、味の決め手にしたこちらの『キムチチゲ』はほかにはない深い味わい。寒くなるこの季節、わざわざ足を運んで食べに行きたくなります。
今月のヒトサラは・・・・・・月島【韓灯】
オモニの熟成キムチが味の決め手。まろやかな酸味と辛味が忘れられない『キムチチゲ』
晩秋から初冬にかけて、韓国では“キムジャン”の季節を迎える。寒さが本格化してくるこの時期、一家総出で、 否、ご近所さんや親戚が集まって、ひと冬分のキムチを漬け込む、この一大イベントが“キムジャン”。韓国の風物詩的行事の1つだ。
聞くところによれば、キムジャンの適期は最低温度が0度以下、平均温度が4度以下の日が続く頃が良しとされているらしく、韓国の気象庁では、そんな“キムチを漬けるのに良い日”を知らせる“キムジャン前線”なるものまであるそうだ。ところ変われば品変わる、で、日本で言えばさしずめ桜前線と言ったところだろうか。
写真は、漬けて2週間目の白菜キムチ。漬けた翌日から店で提供している。
さて、今や日本の食卓でもすっかりおなじみなったこのキムチ、出来立ての浅漬けもいいが、真骨頂はやはりムグンジ(熟成キムチ)。発酵が進み、酸味と旨味が増したその味は(好みもあろうが)、一度食べたら、それこそやみつきになる美味しさだ。
そして、そんなムグンジを食べたくなると決まって思い出すのがここ「韓灯」。月島の知る人ぞ知る、アットホームな韓国料理店だ。
「キムチは、毎日食べていますよ。キムチの無い生活なんて考えられませんね。食べないではいられないんです。私、キムチに命、張ってますから」
毅然とした面持ちで、きっぱりとこう言い放ったのは金順貞(キム・スンジョン)さん。息子さん2人とこの店を切り盛りする料理上手なオモニだ。
こちらは、料理用にとってある熟成キムチ。半年漬けた酸っぱいキムチだが、このキムチ汁が旨い。
3週間に一度は漬けているというキムチは、一回に白菜8株ほどを仕込むとか。韓国直送の唐辛子とニンニク、アミの塩辛にイワシの塩辛、大根、人参、りんごなどで作る薬念(ヤンニョン)を、塩漬けして水気を抜いた白菜に挟み込むようにして漬けていき、一昼夜置けば食べられる。
だが、同店では、半分くらい使ったところで、残りは熟成用にとっておくそうで「だいたい半年くらい熟成させています」とは貞順さん。 この熟成キムチで作る“キムチチゲ”、これが絶品なのだ。
鹿児島産の皮付き豚バラ肉は、皮と脂を少し切り落としてから、胡麻油で焼き付ける。
材料は、豚バラ肉に豆腐、長ネギ、そして6ヵ月熟成の古漬けキムチとそのキムチ汁のみ。ポッサム用に数十種類の薬味で煮込んだ豚バラ肉は、余分な脂を切り落としたのち、胡麻油でさっと炒めるのが、貞順さん流。
「こうすると、胡麻油の香ばしい香りが出るのよ」との言葉通り、辺り一面漂う香りに食欲が刺激される。
キムチ汁を入れたら、煮立っているところに豆腐をスプーンですくって入れていく。
ここにキムチとキムチ汁を投入したら、続けて豆腐をスプーンですくって加えていく。形が不揃いの方が味がしみて美味しくなるからだ。最後に長ネギを入れ、煮立たせたら出来上がり。出汁も調味料も全く無し。全てはキムチの味1つ。まさに、キムチ自体が万能な調味料なのだ。
長ネギを入れてグツグツと煮込めば完成。キムチチゲは1300円。
その熟成キムチを味見させてもらうと、乳酸発酵ならではのしっかりとした酸味はあるものの、辛味と旨味がまろやかに一体化されている。これがチゲになると、豚肉の脂の甘みが合わさることで、より辛さにまろみが増し、酸味の広がりが穏やかになってくるから不思議。
白菜キムチ600円。これは漬けて2週間めのもの。熟成キムチを所望する常連さんも多いそう。
先ほどの胡麻油の風味がほど良いアクセントになり、手に持つスッカラが止まらない。アツアツをハフハフ言いつつ掻っ込んだら、小休止。残り半分は、ご飯にかけて食べるも一興。わがままを言うなら、ここで更に熟成キムチを別注し、追いキムチにして食べたい!と思うのは、私だけだろうか。
熟成キムチの味わいの奥深さー。
それは、オモニの愛情と信念の賜物でもある。
金 英徳 シェフ&金 順貞 さんからひと言
福岡から東京月島に上京して15年、化学調味料は一切使わず、全て手作りで提供しています。これからは、鷄一羽を炊き込んだタッカンマリもおすすめです。
【韓灯】
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住所: 東京都中央区月島2-8-12 ASone月島B1F
電話:050-5871-1073
営業時間:17:30~23:00(LO)
定休日:月曜
平均予算:ディナー7000円前後 -
撮影/岡本裕介
この記事をつくった人
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森脇慶子
「dancyu」や女性誌などで活躍するフードライター。綿密な取材と豊富な経験に基づく記事は、読者のみならずシェフたちからも絶大な信頼を得ている。日々おいしいものを探求すべく新旧問わず様々な店を訪問。選者を務める「東京最高のレストラン」(ぴあ)も好評発売中。
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