100年以上続くハマの町中華【奇珍楼(きちんろう)】| ヒトサラ Bグルマン部 #16
“B級グルメ美食家”たちが集い、愛するお店を熱く語る「ヒトサラ Bグルマン部」。今回のテーマは「100年続く町中華の名店」です。極太のメンマがゴロリと入った『竹ノ子ソバ』が人気メニューの、横浜【奇珍楼(きちんろう)】をご紹介します。
Bグルマン部 今回のテーマ
「100年続く町中華の名店」
長い海外出張から帰国してまず食べたいのは、アジの塩焼きでも肉じゃがでもなく、おいしい町の中華屋のアツアツ餃子と濃厚なレバニラ炒めと香ばしいチャーハン。テレビの野球中華をボーッと眺めながら瓶ビールを傾けるのは至福のひとときです。あっ、野球中継でした。僕のノートブックはおりこうすぎて、「ち」と入れた瞬間に中華と変換してくれます。
こんにちは。ラグジュアリーメンズ誌『The Rake』のファッションエディター藤田雄宏です。趣味が高じて昨年「ヒトサラBグルマン部」に入部して以降、月~金の会社よりも中華屋に行く回数のほうが多くなってしまい、体重増加にびびっています。そんなときは大空 翼くんの「油はともだち。こわくないよ」を思い出して、自分を奮い立たせています。
そんな僕が今回ご紹介するのは、横浜・麦田町に構える名店【奇珍楼】。
100年以上続くハマの町中華【奇珍楼(きちんろう)】
ターコイズブルーとワインレッドのタイルの組み合わせが美しい。客が「奇珍」と略して呼ぶうちに看板も「奇珍」になった。が、正式名は【奇珍楼】
横浜で中華といえばふつうは中華街だけど、僕はそこから15分ほど歩いた麦田町にポツンと佇む【奇珍楼】を贔屓にしている。元町方面からトンネルを抜けて麦田町に入り、ターコイズブルーとワインレッドのタイルの美しい外観が姿を現す。毎度のことだが、それだけで胸が高鳴る。
【奇珍楼】は、広東省から日本にやってきた3代目現社長・黄 国栄さんの祖父が1918年(大正7年)に開いた店で、現在の麦田町へは、戦時統制で外国人の港付近での居住が禁止された1942年に移ってきたという。
色のコンビネーションといい書体といい、日本で最も美しいのでは?と思っている、壁に掲げられたメニュー
昭和のプロ野球好きとして言わせてもらうと、麦田町は大洋ホエールズの大エースだった遠藤一彦投手の奥様の出身地である。80年代半ばのホエールズの中では背番号24・遠藤投手の大ファンだった僕は、“球界一の天才エース~ 迎え撃つバッターを~ 打~ち取る姿~ ”と、【奇珍楼】へは彼の応援歌を口ずさみながら入店するのがお約束だ。
【奇珍楼】ではスーパーカートリオから
店内は町中華を通り越してスーパーレトロ。ここにいるだけでビールが100倍おいしく感じる
【奇珍楼】の店内はピンクのテーブルクロスにビニールカバーがかかっていて、何とも愛らしい。奥に円卓が並んだ部屋があるが、僕が好きなのは褪せたピンクがロマンチックな手前の部屋。
席についたら何も考えずに『瓶ビール』600円(税込)と名物の『シュウマイ』450円(税込)から始めるのがマイルールだ。が、今回、『生ザーサイ』300円(税込)もオススメと聞き、初めて頼んでみたらあっさりしていて超おいしい。
『生ザーサイ』は塩分控えめ。あっさりしていてとても優しい味わい
注文してすぐに出てくるここでの『瓶ビール』、『ザーサイ』、『シュウマイ』の組み合わせは、横浜大洋ホエールズの85年の1・2・3番、高木 豊、加藤博一、屋敷 要のスーパーカートリオ級にすばらしい!と膝を打ったほどだ。
毎日自分たちで巻いている『シュウマイ』は一人前5個。豚肉にタマネギと長ネギのシンプルな具が、薄い皮にぎっしり。噛むと旨味がじわっ
ポンセとパチョレック的な『竹ノ子ソバ』と『五目焼ソバ』
さて、麺類に進みたいと思うのだが、甲乙つけがたいほどおいしいのが、『竹ノ子ソバ』と『五目焼ソバ』。
80年代のホエールズの助っ人でたとえるなら、ポンセとパチョレックどっちがいい?みたいな感じかな(古くてスミマセン)。
この2品はそのくらいどちらも秀逸なのである。
2㎝角はあろうかという極太のメンマがゴロリと8本入っている『竹ノ子ソバ』700円(税込)
「『竹ノ子ソバ』はテレビに出てから大人気でして。でもね、ウチのメンマは作るのに10日もかかるんです。3mm厚の乾燥メンマを4日間毎日煮込んだら、今度は6日間、水を毎日3回取り替えて2㎝厚くらいまでゆっくり戻していくんです。定休日でも水は取り替えないといけない。時間と労力を考えると本当に大変ですけど、ほかにはないウチだけのメンマになるんです」と3代目の黄 国栄さん。
乾燥メンマを時間をかけて戻していく。右は4日目、左がほぼ完成した状態
確かに【奇珍楼】のメンマはほかとは繊維がまるで異なっていて、絶妙な噛み応えのある見事な食感。口にしたら、今まで食べていたメンマはなんだったんだろうと疑問を感じるはずだ。
豚骨ベースで、こぶ、しいたけ、野菜もろもろ、その他企業秘密のほんのり甘味を感じるあっさり系の清湯スープが極細麺と非常によく合う。
やばい! あまりのおいしさにメンマがポンセのバットに見えてきた!
取材で来ているってのに、“バモス・ポンセ~ バモス・ポンセ~ 打って場外へ~ バモス・ポンセ~ バモス・ポンセ~ 打って場外へ~”と思わず口ずさんでしまったではないか。
錦糸玉子に海老、人参、いか、豚肉、キャベツ、ナルト、きくらげ、タマネギ、タケノコ、さやいんげんと、具だくさんな『五目焼ソバ』900円(税込)
奇珍楼は焼そば類も相当秀逸だ。『五目焼ソバ』もかなりのこだわりが詰まっていて、極細の麺をまず2時間蒸す。それを2日かけて乾燥させたら熱湯で戻し、それを油で揚げているという、かなりの手間のかけようだ。
口にすると、その軽やかさ、香ばしさに感動するはずだ。
餡には独特の甘みがあり、香ばしい麺との相性は抜群。3~4人で行けば、かなりいい感じのおつまみになる。
絶対的ストッパーの斎藤明夫的チャーハン
チャーシューの赤みがごはんに浸透し、ややピンクがかった美しいビジュアル
締めの逸品は、86年の最優秀救援投手だった“ヒゲの斉藤”こと斉藤明夫級にすばらしい『チャーハン』800円(税込)をおいてほかにない。そういえば当時のホエールズでは、屋敷もポンセも口ヒゲを蓄えていて、相当濃いキャラ揃いだったなぁ(どうでもいいですね)。でもね、丼に盛られたこちらも負けず劣らずの濃いキャラです。
“行くぞ斉藤~ 使命をうけて~ 我が大洋の~ 勝利をつ~か~む~”と、ヒゲの斉藤の応援歌を思い出しながら僕はパーフェクトリレーを目指した。
パラパラとしっとり系の中間で、たっぷりのチャーシューに、玉子とグリンピース、長ネギ、ナルト、海老が入っている。チャーシューの赤みと甘みがごはんにしみでていて大変香ばしいが、砂糖は決して使っていないという。これも病みつきになる一品だ。
甘~い味こそが【奇珍楼】の醍醐味
「中華街の友人から、『オマエの店の味は甘いのでは?』とよく言われていたんです。それで一度味を変えたら、常連さんに、『【奇珍楼】にしかない味があるからわざわざ食べに来ているのになんで味を変えたんだ』って、怒られちゃってね。以来、その言葉を肝に銘じて先代からの味を守り続けています。ウチの料理をひと言で表すとするなら、“甘い”ですかね」
家族4代にわたって通われているお客さんもいるそうで、可能な限り当時の味を守っているというが、だからなのか、確かにここの味は独特だ。町中華の味ってある程度想像ができるものだが、黄さんが言うように【奇珍楼】の料理は甘い味付けで、どの料理も驚きをもたらしてくれる。
左から、3代目の黄 国栄さん、お姉さんの黄 秀光さん、奥様である石井知子さん、長姉の黄 秀晃さん。
余談だが、【奇珍楼】のスタッフの平均年齢は大変お高い。上の写真では奥様が断トツに若く平均年齢を大幅に下げているが、それでも4名の平均は74歳。いちばん上は84歳(厨房でバリバリ現役です!)。この店、もう最高! 僕が横浜市長だったら今すぐにでも名誉中華店賞ってのを新設してすぐにでも贈ってただろうな!
が、僕は市長ではないので、【奇珍楼】の皆様にはホエールズのチーム応援歌“栄えあ~る歴史~ 大洋ホエールズ~”(マニアックですみません)をアレンジして、“栄えあ~る歴史~ き~ちん~ろう~”と歌って帰ってきました。
今回もスーパーおいしい料理をごちそうさまでした!
【奇珍楼(きちんろう)】
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電話:045-641-4994
住所:神奈川県横浜市中区麦田町2-44
アクセス:東急東横線「元町・中華街」駅、JR「石川町」駅、「山手」駅より、それぞれ徒歩約10分
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営業時間:11:30~15:00 17:00~21:00
定休日:木曜(木曜が祝日の場合、前日休み) -
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この記事を作った人
藤田 雄宏(THE RAKE JAPAN)
1975年、東京都中野区生まれ。ラグジュアリーメンズ誌『THE RAKE日本版』副編集長。ナポリの仕立て服を愛するあまり、2015年はナポリに駐在。毎日パスタを食べていた反動からか、帰国後、無類の町中華好きに。「独自の進化を遂げた町中華は日本の伝統食文化だ」が口癖。
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