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更新日:2017.05.27旅グルメ 連載

アジア・フーディーズ紀行 vol.4:タイ・バンコク【Issaya Siamese Club】

上海、シンガポール、ソウル、台北、香港……アジアの混沌は、ガストロノミーにおいてもモダンを超越するのか? そんな直感を確かめるべく、アジアの美食を巡った第4回。今回もタイ料理を進化させてきた立役者の一つ、バンコク【イッサヤ・サイアミーズ・クラブ】です。

アジア・フーディーズ紀行 vol.4:タイ・バンコク【Issaya Siamese Club】

創作タイ料理の名店【イッサヤ・サイアミーズ・クラブ】

 タイ料理のカテゴリーで、【ナーム】とともに、アジア50ベストレストランにノミネートされているのが、この【イッサヤ・サイアミーズ・クラブ】(以下、【イッサヤ】に)。2013年のランク外から、'14年のNo.31、'15年のNo.39、'16年のNo.19と着々と評価を上げているレストランです。
 前回紹介したように、【ナーム】が外国人シェフがタイ料理を次のフェーズに押し上げたのであるならば、この【イッサヤ】は、タイ人のシェフが、インターナショナルな経験を原動力に、自国の料理を新しい境地に導いたとも言えます。
 どちらも「モダン・タイ・キュイジーヌ」と呼べそうですが、キャリアのプロセスがまったく逆。出てくる料理もそのバックボーンを反映した違いが楽しめそうです。

タイ版「料理の鉄人」の人気シェフ、イアン・キットチャイ氏が手がける【イッサヤ・サイアミーズ・クラブ】

    築100年の一軒家を改装した【イサーヤ・サイアミーズ・クラブ】の外観

    築100年の一軒家を改装した【イサーヤ・サイアミーズ・クラブ】の外観

 オーナーシェフのイアン・キットチャイ氏(Ian Kittchai)は、現地では、タイ版「料理の鉄人」(Iron Chef Thailand)で知られる人気シェフ。
 もともとシドニーのフレンチで頭角を現し、タイに帰国してからはフォーシーズンズホテルでエグゼクティブシェフに。2004年にはアメリカ・ニューヨークに拠点を移し手がけたレストランも成功を収めています。
 2010年からはタイでも精力的に活動し始めた彼がプロデュースしたタイレストランが、この【イッサヤ】です。バンコクで展開する初のタイ料理レストランということで「HOME」と呼ばれることが多いそう。その後、キットチャイ氏は、バンコクでガストロバー【HYDE&SEEK】やダイニングバー【SMITH】の経営に携わっています。

    内観。ハワイのB&Bなどにありそうなカラフルなリゾートスタイル

    内観。ハワイのB&Bなどにありそうなカラフルなリゾートスタイル

 【イッサヤ】は、メトロ(MRT)の「Khlong Toei Station」から徒歩10分弱のところに位置しますが、ややわかりづらいところにありますし、スクムビットの中心部からでも、道が空いていれば15分ぐらいで到着するので、タクシー利用が便利でしょう。
 高速の下の「Chuea Phloeng Road」から「Soi Sri Aksorn」に入って少し行くと見えてくる一軒家がレストランです。

メニューは伝統的、料理は革新的

 ランチでもコースはありますが、この日はアラカルトで。「3皿くらいかな?」と伝えると、流暢な英語を話すマネージャー女史が相談に乗ってくれます。
 ちなみに、コースは1500バーツ(約4,500円)と2500バーツ(約7,500円)の2種類で、2名から。

 私が選んだのは、1皿目が『コームーヤーン』。日本語に訳すと『豚喉肉の焼きもの』で、屋台でもよく見られる料理です。

  • テーブル脇で調理してくれるメニューもあります

    テーブル脇で調理してくれるメニューもあります

  • チャーミングなマネージャー女史

    チャーミングなマネージャー女史

    『KOR MOO YANG(肩喉肉のグリルにパクチーファランと唐辛子を添えて。トーストしたジャスミンライスのドレッシングで)』

    『KOR MOO YANG(肩喉肉のグリルにパクチーファランと唐辛子を添えて。トーストしたジャスミンライスのドレッシングで)』

 ところが。
 一般的に、日本で言えば牛タン焼きのようにシンプルなグリルとして出てくることが多いこの『コームーヤーン』ですが、ここではまったく趣が違いました。
 豚喉肉のグリルというより、サラダのような佇まい。酸味の利いたドレッシングと青唐辛子の辛みが味の決め手となり、火を入れたジャスミンライスのパリッとした食感に、パクチーファランのシャキシャキ感が加わります。
「あれ、普通のタイ料理と違うなぁ」と思いながらも、これはこれで絶妙な味。

『コームーヤーン』の摩訶不思議な美味しさに、飲まないと決めていたのですが、やはりアルコールが欲しくなってしまいます。
 自家栽培のマルベリーのシャーベットとスパークリングのロゼワインをミックスしたシグネチャー『Le Issaya Cocktail』を。夏らしい爽やかなカクテルです。

  • 上:『ISSAYA COCKTAIL』。料理の美味しさについアルコールを…シグネチャーカクテルですし
    左:『PAD KANA(空芯菜の炒め物)』

 そして、野菜が欲しかったので、2皿目は『パッド・カヤ』。空芯菜炒めですね。これはどこで食べても不味かった試しはないのですが、ここの特徴は食材でしょうか。広い庭で葉物野菜やハーブは自家栽培しているそうで、シャキッとした新鮮さが楽しめます。味付けはシンプル。

    『MUSSAMUN GAE(子羊のスネ肉のマッサマン・カレー)』

    『MUSSAMUN GAE(子羊のスネ肉のマッサマン・カレー)』

 メインの3皿目は『子羊のマッサマン・カレー』。そもそもはタイ南部のムスリム(イスラム教徒)が食べていたカレーです。辛みが前面に出た一般的なタイ・カレーとは違い、豊饒な甘みが特徴のカレーですが、ここで出されたものは、以前タイ南部で食べたものとは異なった趣の旨みが出ているような気がします。
 ベースとなる出汁の取り方がまったく違うのでしょうか。裏ごししたコンソメを使ったような、透き通ったテイストに近いものを感じます。

世界的にも珍しい「美味しい創作料理」

 こういった従来の料理からズラしたいくつかの皿を味わうと、キットチャイ氏が手がけるのは、やはり「創作タイ料理」ということになるのでしょうか。
 タイ人のシェフではありますが、本来専門はタイ料理ではない方です。既に親しまれている自国の料理の伝統的なレシピをいったん白紙にして、「自分だったらこうつくる」とそれぞれ提案をしているようにも思えます。

  • 写真上:取り皿にとると、いかにもタイ風ですが、味は「いかにも」を超えています
    写真左:「デザートなしで」と伝えたら、お土産をくれました

 そもそもこれまでの人生の中で「創作~」という料理で、「そこそこ」こそあれど、「本当に」美味しい料理に出会ったことはないのですが、この【イッサヤ】のものは、いちいち美味しかったことが不思議です。それだけで、世界的にも希少なレストランだと言い切ってもいいでしょう。
 それは、キットチャイ氏の腕がなせる技なのか、ほかの理由があるのか、今の私にはまだわかりません。その「謎」を求めて、バンコクに来たら、通い続けることになりそうな気がしています。

Issaya Siamese Club

営業時間:ランチ 11:30~14:30 ディナー 18:00~22:30
定休日:無休
電話番号:+65 2 672 9040
email:contact@issaya.com

予約の仕方

 予約は電話かメールで。今のところ、HPの予約フォームや即時予約サービスは確認できませんでした。
 今回は、ランチ利用だったのですが、少し中心地から離れた場所だったこともあり、確実に席をキープしたかったので、3日ほど前にメール(英文)で予約を入れましたが、やり取りなどもまったく問題ありませんでした。タイ語も、もちろん大丈夫です。
 平日のランチなどは比較的空いていることも多いようですが、週末やハイ・シーズンには、ディナー・ランチとも予約を入れたほうがよさそうです。

ドレスコードと店の雰囲気

 ドレスコードはありません。実際、開放感に溢れたお店なので、あまりビジネスマンっぽすぎるフォーマルは浮いてしまうような気がします。
 女性のパーティ・フォーマルはしっくりきますが、いわゆる「スマートカジュアル」が無難でしょう。

 食事の間も含めて、コミュニケーションは英語かタイ語が話せる方なら、まったく問題ないでしょう。
 日本人客も多いので、ある程度スタッフも慣れているようですが、日本語での細かな対応は難しそうです。

次週は、いったんシンガポールに飛びます。アジア経済の中心地に輝くイノベーティブの新鋭をレポート

この記事を作った人

撮影・取材・文/杉浦 裕

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