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更新日:2020.10.17グルメラボ

寿司に蕎麦、洋食と・・・男が集いし場所「銀座」の100年を超える名店

銀座の大通りは再開発がすすみ、大型の商業施設やブランドショップが立ち並び、どこか煌びやかな印象があるが、一歩路地を入ると昭和の香りが残る。そこには歴史や伝統により熟された上質な粋がある。どこからともなくこの街に引き寄せられた歴史に名を残した文豪たちが集った街「銀座」だからこそ、男が行くべき場所だ。

【煉瓦亭】の『元祖ポークカツレツ』

【銀座 寿司幸本店】/鮨

江戸前の伝統を守りながら、銀座の地で常に革新の味を追求

    【銀座 寿司幸本店】のにぎり鮨

    江戸前を代表する『にぎり4種』。右から中トロ、コハダ、ハマグリ、玉子焼。四代目当主・杉山衞さんがブレンドしたジェイコブス・クリークの白ワイン「わ」とともに

名店ひしめく銀座にあって、正統江戸前寿司の老舗中の老舗として知られるのがこちら。店を取り仕切る四代目・杉山衞さんは、「伝統の江戸前とひと口に言っても、今は本当の意味での江戸前の魚は数少なくなりました。しかし、時代とともに変化するのは食材だけではありません。ここに通ってくださる客人の有様も変わっていくわけです。吞む酒も変化する。あらゆる時代の変化に柔軟に対応するからこそ、老舗は今もあり続けるのだと思います」と銀座の老舗という存在について語る。

そこには、扱うネタがかつての江戸前ばかりではなくとも、食材を見ぬく眼、それを的確な腕と丁寧な仕事ぶりで仕込み客に供するという心意気は、いささかも変わりないという矜持が見て取れる。繊細にして味わい深い「にぎり」を口に運べば、この店が130年以上に亘り、食通たちの舌を唸らせてきた理由が実感できるだろう。

【銀座 よし田】/蕎麦

時代の空気を感じさせるハイカラな味わいの滋味深い蕎麦

    銀座 よし田のコロッケそば

    名物の『コロッケそば』1,050円。玉子焼き、板わさは言うに及ばず、刺身や酢の物、揚げ物など蕎麦前が充実しているので、吉田健一が敬愛した「菊正宗」で一杯やりながら、締めに各種蕎麦を楽しむのがこの店の流儀

銀座に集った文士の中で、ひときわダンディな出で立ちで知られるのが作家・吉田健一である。酒食を織り交ぜた著述の多い吉田作品の中でも、酒好きならだれもが膝を叩いて共感するであろう名著「酒宴」は、この【よし田】で灘の酒蔵の技師と出会う場面から物語が展開する。そう、ここは、昭和のダンディ・吉田健一がこよなく愛した名店として知られる老舗蕎麦屋なのである。

吉田健一が通った時分は銀座7丁目に店を構えたが、その後6丁目に移転。しかし、昔と変わらぬ「つまみ」の多さで、昼から一杯やる左党が引きも切らない様は、吉田が愛した往時を彷彿させる。

この店の名物は、何といってもコロッケそばだ。洋食が流行した当時、蕎麦屋でも何かハイカラな一品をと、初代が鶏のつくねを揚げて温かい蕎麦に浮かべ、『コロッケそば』と命名したのがはじまり。型にはまらず肩肘張らず、しかし粋な感性で街の空気を取り込み生み出した、まさに銀座の流儀が味となった蕎麦である。品数豊かなつまみと「菊正宗」で一杯やった締めに、絶対にお奨めしたい逸品である。

【煉瓦亭】/洋食

池波正太郎が愛した洋食の草分け! 変わらぬ味に秘められた老舗の矜持

    【煉瓦亭】の『元祖ポークカツレツ』

    『元祖ポークカツレツ』1,700円。熱々の状態で供されるカツレツにナイフを入れた瞬間、何とも言えない芳香が立ち上り食欲をそそる。健気なまでに実直な姿のカツレツは、いつ何時味わっても常に新鮮な味がする

創業100年を超える店が珍しくない銀座。扱う品物やメニューに元祖を謳う店も少なくないが、【煉瓦亭】には正真正銘の元祖が3つもある。それが、この店のポークカツレツ、オムライス、ハヤシライスだ。中でも、洋食屋だけでなく、日常の食卓における定番メニューともなったカツレツは、キャベツのせん切りを添えることにおいてもこの店が発祥である。店主の木田浩一朗さんは言う。

「手前どもは伝統を守りながら、常に日本人の味覚に合う親しみ易い日本の洋食を提供し続けてきました。伝統というと、とかく昔のまま何も変わらないというイメージがあるかもしれませんが、カツレツにしてもオムライスの食材にしても、明治の創業時からすれば、質も違えば状態も違う。時代ごとに、レシピは守っても料理自体は変わり続けていくのです」

単に歴史を重ねただけでは生き残れない。時代とともに変化し続けながら守る味がある。そこに銀座の老舗の凄みもあるのだ。

【資生堂パーラー サロン・ド・カフェ】/カフェ

古きよき伝統と時代の先端が融合。花の都・銀座のシンボル的存在

    【資生堂パーラー サロン・ド・カフェ】のジャマイカ産のラム酒を用いたゼリーとバニラアイスクリーム

    ジャマイカ産のラム酒を用いたゼリーとバニラアイスクリーム、さらにはストロベリーなどのフルーツを盛りつけた『ジャマイカ風サンデー』1,440円

明治35年(1902年)資生堂は銀座の薬局内に日本初のソーダ水と、当時は珍しかったアイスクリームの製造・販売を行う「ソーダファウンテン」を開設する。これが現在の【資生堂パーラー】の前身である。

昭和3年(1928年)には【資生堂アイスクリームパーラー】へと改称するとともに、本格的な西洋料理レストランを創業。文化を担う文人墨客が集うサロンとして、また時代の先端をゆく銀座のシンボルとして人々に親しまれる存在となった。先の【煉瓦亭】とともにこの店を愛してやまなかった池波正太郎は「戦後の三十年間、すべてが目まぐるしく変ったのに、ここの味だけが変らぬ。変らぬままに、戦前の繁栄をも持続している。これは、まさに、『持続の美徳』というものであるまいか」(『散歩のとき何か食べたくなって』新潮文庫)と記している。

    【資生堂パーラー サロン・ド・カフェ】のアイスクリームソーダレモン味

    創業時からある『アイスクリームソーダ』1,130円。写真はレモン。ほかにオレンジなど

そのひとつの象徴が、【サロン・ド・カフェ】に創業時からある『アイスクリームソーダ』。ソーダ水に自家製バニラアイスクリームを浮かべたこの一品こそが、この老舗名店の原点なのだ。花の都に集いしかつての紳士淑女に思いを馳せながら、オーダーしたい逸品だ。

【はち巻 岡田】/和食

磨き抜かれた白木のカウンターと料理の数々に江戸の粋を感じる

    はち巻 岡田の内観

    店名にある「はち巻」は、初代・岡田庄次がいつも豆絞りの手ぬぐいを巻いていたことに由来する

銀座の路地裏で創業して100年余。この店の江戸料理を愛した文士・粋人は枚挙にいとまがない。吉田健一、石川淳、河上徹太郎に久保田万太郎……。彼らが愛したのは、職人としての腕と心を常に磨きながら、謙虚に潔く料理と向き合ってきた初代、さらには二代目主人が繰り出す東京の味、そして江戸の心意気だった。

その味を的確に受け継ぎ、守り続けているのが、三代目の岡田幸造さんである。岡田さんは、店の看板料理のひとつ、鶏のスープにたっぷりの葱と生姜が効いた『岡田茶わん』をはじめ、初代から続く江戸料理の伝統を、今に伝える立役者である。

「時を超えてご贔屓いただいている看板の献立はもちろん、旬の野菜や魚介など、季節の食材を取り入れながら、日々新たな気持ちで料理に向き合いたいと考えています。歴史と伝統に甘えず、独自の味を追求していきたい」と語る。 今も酒は菊正宗の薦被のみ。その潔さは料理の味にも通ずる。

【銀座 ルパン】/バー

永井荷風、太宰治、藤田嗣治などの文壇・画壇の名士が集いし伝説の酒場

    【銀座 ルパン】のオールド・イングランド

    ウォッカとドライシェリーのみを用いた『オールド・イングランド』1,300円。創業から7年後に現在のカウンター・バーのスタイルになったという店内。戦後改築したが、バーカウンターも椅子も調度も、すべて当時のものを使用している

みゆき通り沿いの細い路地を入ると、印象的な赤い看板がすぐに目に入る。モーリス・ルブランの推理小説でお馴染み、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの肖像をかたどった看板である。重厚な鉄の扉を開け、階段を降りるとそこに広がるのは、タイムカプセルにでも詰め込まれていたかのような、大いなる時の流れを感じさせる文化財級の空間。

数ある銀座のバーの中でも、その名を知らぬ者がいないほど有名なここ【ルパン】は、数多の文士が酒を酌み交わした文壇バーであり、昭和のダンディたちがこよなく愛した深奥なる酒の聖地である。

この店で酒を吞むなら、ウイスキーのストレートかクラシックなショート・カクテル。装いもカジュアルな出で立ちでは歯が立たない。この店ほど「ドレスコードはスーツ」と心得ねばならぬ空間もほかにないだろう。

心地よい時代の空気を感じ、昭和のダンディたちに思いを馳せるべき酒場があることに、深謝。

【天一 銀座本店】/天ぷら

江戸の伝統料理に新風を吹き込んだ銀座屈指の名店

    【天一 銀座本店】の天ぷら

    メニューは、昼と夜で異なるがコース中心。天婦羅の王様・才巻海老はどのコースでも堪能可

銀座といえば、鮨と並んで天婦羅の名店が多いことで知られる。中でも、国内外のセレブリティに愛され続ける屈指の存在が【天一 銀座本店】である。創業は昭和5年(1930年)、初代・矢や吹ぶき勇いさ雄おが日本橋人形町に暖簾を掲げたことに端を発する。

2年後、現在店を構える銀座に移転すると、既存の天婦羅屋にはなかった様々な新機軸を打ち出し、大いに好評を博するようになった。そのひとつが、ごま油のみだった揚げ油に、初めてコーン油をブレンドしたこと。これにより、軽くさっくりとした食感の新たな天婦羅が誕生し、その伝統は今も受け継がれている。

銀座本店の店長・野村隆博さん曰く「揚げ油の革新とともに、魚介があたりまえだった天婦羅の世界に野菜を取り入れたこと、また、天つゆだけではなく、カレー塩で食すことを考案したのも、手前どもが元祖です」。ちなみに、天婦羅のことを「天一」では「天冨良」と称す。美味なる料理が、さらに有難い存在のように感じられる。

天一 銀座本店

電話:03-3571-1949
住所:東京都中央区銀座6-6-5
営業時間:11:30~22:00

この記事を作った人

TEXT:MEN'S Precious編集部
BY :MEN'S Precious2018年春号より
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MEN'S Precious編集部

名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。

記事元:MEN'S Precious

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