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更新日:2020.10.02食トレンド

フォーシーズンズホテル東京大手町のレストラン【est】で、フランス人シェフが日本の食材で作る革新的なフレンチを

2020年は新しいラグジュアリーホテルのオープンラッシュ。なかでも9月にオープンしたフォーシーズンズホテル東京大手町は、食を目的に訪れたいホテル。皇居の森が広がる壮大な景色を背景に、個性的なキャラクターを持つ4つのレストランとバーがあるのだ。なかでも、注目はフランス人の元二つ星レストランシェフ&ペストリーシェフが就任したフレンチダイニング【est】。日本を愛し、日本の食材を愛する二人のシェフが作る軽やかなコンテンポラリーフレンチはここでしか味わえない世界だ。

カボチャ キャビア

日本の旬とフランスの技術が調和する、美しい世界

 マリオットホテル系列のラグジュアリーホテル「東京エディション虎ノ門」や洗練された都会派の「AOYAMA GRAND HOTEL」等々、2020年の東京はホテルラッシュ。

高級ホテルも華を添える中、“食”のジャンルで頭一つ抜きん出ているのが、この9月1日に開業した「フォーシーズンズホテル東京大手町」。いくつかあるレストランのなかでも、最上階のフレンチレストラン【est】に、今、グルマン達の熱い視線が注がれている。

    ホテル最上階から臨む景観もご馳走のうち。スカイツリーも見える。店内中央のテーブルからはキッチンの様子も伺うことかできる

    ホテル最上階から臨む景観もご馳走のうち。スカイツリーも見える。店内中央のテーブルからはキッチンの様子も伺うことかできる

 入り口から続くアプローチに期待を膨らませつつ、店内に足を踏み入れれば、そこは淡いベージュとシャンパンゴールドの輝きに包まれた瀟洒な空間。さりげなく和の趣を加味した照明やオブジェがシックな雰囲気を醸し出す。

そんな内装とシンクロするかの如く、ここ【est】が目指すのは、日本のテロワールに根差したフランス料理。そして、それを編み出すのは、【アルページュ】や【ランブロワジー】など名ただたる名店で腕を磨いてきたギヨーム・ブラカヴァルシェフだ。

    ギヨーム・ブラカヴァルシェフ、39歳。【アルページュ】や【オテル・ド・クリヨン】等パリで11年研鑚を積んだ後、2012年に来日。【キュイジーヌ・〔s〕ミッシェル・トロワグロ】のエグゼグティブシェフを経て【est 】のシェフに

    ギヨーム・ブラカヴァルシェフ、39歳。【アルページュ】や【オテル・ド・クリヨン】等パリで11年研鑚を積んだ後、2012年に来日。【キュイジーヌ・〔s〕ミッシェル・トロワグロ】のエグゼグティブシェフを経て【est 】のシェフに

「【est】のeはエモーション、sはシーズン、tはテロワールを意味しています。ですから、ここで扱う食材の、およそ85%は日本の食材。フランスから取り寄せているのは、キャビアやトリュフなど一部の食材だけです。」とは、ギヨームシェフ。

来日して8年、全国各地の生産者のもとを訪れ、それぞれの食材が育まれてきた環境にまで目を向けてきただけに、日本の食材への造詣も深く、味噌、醤油、もろみと言った極めて日本的な調味料も違和感なく取り入れ、軽やかで革新的なフランス料理を表現している。

    きのこ形のパンは【シニフィアン シニフイエ】の特注品。上の部分はカリカリ、中はしっとりと柔らかい。上にはきなこを振りかけている。左が大豆のフムス

    きのこ形のパンは【シニフィアン シニフイエ】の特注品。上の部分はカリカリ、中はしっとりと柔らかい。上にはきなこを振りかけている。左が大豆のフムス

 例えば、特注のパンに添えたバターならぬ大豆のペースト。いわば大豆版フムスのような味わいなのだが、そこに、振りかけているのが、なんと粉末にしたもろみ。このもろみが、オリーブ油や塩だけではまかないきれぬ香ばしさと旨味をプラス。バターに負けぬ存在感を示しているのだ。

 食べ疲れない料理を心がけているというその一皿一皿は、バターやクリームも従来のフレンチに比べ、出来るだけ減らされているのだろう。いずれも、素材本来の味を持ち味が前面に引き出された食後感の軽さが印象的だ。

    『カボチャ キャビア』。カボチャのピューレは、栗のようなホクホクした甘みが特徴の“恋するマロンカボチャ”と濃厚な旨みの“ブラックジョーカボチャ”の2種類をブレンドしている

    『カボチャ キャビア』。カボチャのピューレは、栗のようなホクホクした甘みが特徴の“恋するマロンカボチャ”と濃厚な旨みの“ブラックジョーカボチャ”の2種類をブレンドしている

 2種類のカボチャで作ったピューレをパスタ生地ではなくスライスした大根で包んだ野菜のラビオリ“カボチャ キャビア”にしても、2種類のカボチャを混ぜたカボチャのピューレを包むのは、パスタ生地代わりのスライスした大根。キャビアが入ったソースにしても、生クリームと思いきやリコッタチーズを牛乳で伸ばしたソースといった具合だ。たっぷりのキャビアがを加えることでラグジュアリー感と共に塩味をカバー。カボチャのあまみを際立たせるといった仕掛けも心憎いばかりだ。

    能登の「高農園」から取り寄せている野菜の数々。有機農法で栽培された野菜は、能登島の赤土に育まれ、ミネラルいっぱいに育つ。生き生きとした味わいだ

    能登の「高農園」から取り寄せている野菜の数々。有機農法で栽培された野菜は、能登島の赤土に育まれ、ミネラルいっぱいに育つ。生き生きとした味わいだ

 料理への思いを熱心に語るギヨームシェフだが、その根底にはフランスの小さな村で、菜園や畑に囲まれて育ってきた幼い日々の経験が息づいている。作物が育ち、収穫され、料理として卓に並ぶ。今でいうファーム・トゥー・テーブルの食生活が当たり前だった日常の食卓。だからこそ、味の良し悪しはもちろん、その食材がいかにナチュラルな環境の中で作られているかに重きを置く。そう、食材が育つ環境にまでその目は向けられ、エコロジカルな食材のみを、ここ【est】では扱っている。

    『マナガツオ 牡蠣』。香川県の漁師さんから届くマナガツオには牡蠣のソースが添えてある。周りを取り囲む高農園の野菜は、ホイルで包み焼きにしたビーツやさっとボイルした加賀太胡瓜などいずれも一手間がかけられている。

    『マナガツオ 牡蠣』。香川県の漁師さんから届くマナガツオには牡蠣のソースが添えてある。周りを取り囲む高農園の野菜は、ホイルで包み焼きにしたビーツやさっとボイルした加賀太胡瓜などいずれも一手間がかけられている。

 能登「高農園」や千葉「武井ファーム」の野菜、北海道函館や香川の漁師から届く旬の魚etc.、皿を飾る素材は、いずれもギヨームシェフが自ら産地を訪れて納得したものばかり。それらを、シンプルかつエレガントに仕あげるセンスはさすが。そこには、料理自体もナチュラルに、と考える彼の意向が垣間見える。

 そのためには、ヒラメを昆布締めにしてみたり、鰆を軽く味噌漬けにしてみたりと和のテクニックを用いることも厭わない。日本の食材と手法にリスペクトしつつも、フレンチのエスプリが凜然として香りたつ新感覚のフランス料理から目が離せない。 

    『カモミール 蜂蜜』。デザートは、イタリア人のペストリーシェフ、ミケーレ・アッバテマルコ氏によるもの。レモン風味のチュイールでできた花びらに、エルダーフラワーのパルフェや蕎麦風味のアングレーズなどで構成されている

    『カモミール 蜂蜜』。デザートは、イタリア人のペストリーシェフ、ミケーレ・アッバテマルコ氏によるもの。レモン風味のチュイールでできた花びらに、エルダーフラワーのパルフェや蕎麦風味のアングレーズなどで構成されている

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子 取材・文/森脇慶子

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