トップメゾンの最上階で味わう、美しく繊細なイタリアン【アルマーニ / リストランテ】
2020年10月、銀座【アルマーニ / リストランテ】に世界中のアルマーニが運営するレストランで最年少のカルミネ・アマランテ氏が就任し、注目を集めている。カルミネ氏は若いながらも、惜しまれつつクローズした大手町【ハインツ・ベック】のシェフ時に一つ星をもたらした実力の持ち主。繊細な感性から的確に食材の魅力を引き出す料理の数々は、ハイブランドの上顧客たちの舌を今日も唸らせている。
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【アルマーニ / リストランテ】のエグゼクティブ・シェフが新しく就任!
火入れの温度と時間にこだわった繊細な料理
伝統的な故郷の味も現代的に軽やかに
【アルマーニ / リストランテ】のエグゼクティブ・シェフが新しく就任!
ファッションブランドが手掛けるレストランの魅力といえば、内装や料理、ホスピタリティを通じて、お洒落な世界観を満喫できるところだ。特にトップメゾンは、店内に足を踏み入れた瞬間からゲストの時間軸をずらし、非日常へといざなってくれるものである。
世界的デザイナー、ジョルジオ・アルマーニがプロデュースする東京・銀座の【アルマーニ / リストランテ】がまさにそうだ。
晴海通りに面したアルマーニ / 銀座タワーの1階からエレベーターに乗り込んで10階で降りると、目の前にはゴールドを基調とした幻想的な空間が出現。奥のダイニングフロアでは、落ち着きのあるネイビーブルーのレザーチェアや、シンプルにしてエレガントなペンダントライトが洗練された雰囲気を醸し出している。
2019年3月のリニューアルによって、より解放感あふれる空間を得たダイニングフロア。
言うまでもなく、真のブランドには確かな実力をもった作り手の存在が必要不可欠だが、この点においても【アルマーニ / リストランテ】は申し分ない。厨房を取り仕切るカルミネ・アマランテ氏はナポリの料理学校を卒業後、イタリア・イスキアのミシュラン二つ星レストラン【Nino di Costanzo】や、スペイン・サンセバスチャンの三つ星レストラン【Martin Berasategui】などでシェフの経験を積み、2018年に来日すると東京・大手町にあった【HEINZ BECK TOKYO】のエグゼクティブシェフに就任。わずか1年で同店に一つ星をもたらした。
2020年8月より【アルマーニ / リストランテ】のエグゼクティブシェフを務めるカルミネ・アマランテ氏。
生まれは1990年。世界中の【アルマーニ / リストランテ】の中で最も若いエグゼクティブシェフだが、その技術とセンス、真面目でチャーミングな人柄が相まって、すでに多くの顧客の心を掴んでいる。
火入れの温度と時間にこだわった繊細な料理
現在、提供されているのは“冬のメニュー”。ランチタイムには5皿のコース(4,500円)と6皿(1万円)の2種類が用意されている。
イタリアの伝統的な料理に日本ならではのアレンジを加えていると案内されて、実際にいくつかの料理を味わったところ、その繊細な仕事ぶりにはっとさせられた。
例えば前菜として登場した『ホタテのカルパッチョ ビーツとスモークしたポテト』。冷製かと思いきや、ホタテはほのかに温かく、口に運ぶとその旨みと甘みが舌の上でしっかりと際立っていたのだ。
6皿のランチコースに含まれる『ホタテのカルパッチョ ビーツとスモークしたポテト』
聞けば、65度で1分ほど火を入れたという。「食材に備わるおいしさを最大限に引き出すにはどのように調理したらよいかを常に考えて料理しています。ホタテに対しては何種類かの調理法を施し、その温度と時間がベストであるという結論に辿り着きました」(カルミネ氏)。
白いポテトのクリームは燻製に、アマランサスはトーストにしてあるため、口に含めば香ばしい匂いが鼻に抜ける。有田焼の白いプレートに盛られた料理はけして派手ではないが、シンプルかつエレガントで、そしてその味わいには確かな主張が感じられる。
どうやら、アマランテ氏は日本の食文化にも興味があるようだ。特に出汁に影響を受けて、雑味のないやわらかい味を抽出することにこだわっているらしい。そうした意識が働いているからだろう。彼の料理は優しく、日本人の味覚に寄り添う。
伝統的な故郷の味も現代的に軽やかに
カルミネ氏が率いる新生【アルマーニ / リストランテ】の面白さは、他にもある。カルミネ氏の生まれ故郷、ナポリの伝統的な家庭料理を、洗練された仕立てで味わえるのもそうだ。
特に新鮮だったのがパスタ料理『トルテッロ ジェノヴェーゼ』。
ジェノヴェーゼというとバジルを使った緑色のソースを連想しがちだが、ナポリではタマネギと牛の筋肉を炊いてつくる茶色いソースを指す。現地ではそれを熱々のパスタに絡め、たっぷりと削り出したパルミジャーノ・レッジャーノと共にいただくが、カルミネ氏は【アルマーニ / リストランテ】でそのトラディショナルなスタイルを分解して再構築。女性でもひと口で食べられる、ファインダイニングにおける一皿に昇華させているのだ。
カルミネ氏のスペシャリテ『トルテッロ ジェノヴェーゼ』。厚めにスライスされた黒トリュフがふくよかな風味を添える。
余計な水分を加えず、色の濃い卵黄を使った鮮やかなパスタの生地の中には、アマランテ氏が「肉の旨みと、脂の甘みのバランスが丁度良く、味わいが繊細」と評価する飛騨和牛のほほ肉を使った詰め物がぎっしり。そのほどけるような食感と、オニオン&フォンドヴォーのとろりとしたソースの相性はすこぶるよろしく、口の中に溢れんばかりの旨みに思わず目尻が下がる。
『トルテッロ ジェノヴェーゼ』の口当たりは実にやさしい。8時間かけて煮込んだ飛騨和牛のほほ肉に、生クリーム、鶏胸肉のムースを合わせるというアレンジを施しているそうだ。
また、ナポリの伝統菓子をベースにした『ババ ナポレターノ』も印象的だった。一般的なババはあらかじめシロップにたっぷり浸された状態で提供されるが、カルミネ氏は、リモンチェッロとラム酒の2種類からゲストに選んでもらって仕上げる、というスタイルを採用している。
「女性のお客様の中にはアルコールが苦手な方もいらっしゃるはず。自分の好みを押し付けるのではなく、お客様に味を決めてもらおうと考えた」とはカルミネ氏の弁。じつは筆者はコースの〆に出てくるババを食べきれないという経験を重ねてきたのだが、カルミネ氏のババは軽やかにして味わい深く、すとんと胃袋に収まって感激した。
ベルガモットのシャーベットが添えられた『ババ ナポレターノ』。レモングラスやアニスなどの爽やかな風味も魅力。
全体を通してみると、どの料理もけして色数が多いわけではない。だが、確かに華やかで心に残る。その感想を素直にぶつけてみると、カルミネ氏はこう言った。
「美しさの表現についてはいろいろな発想があると思いますが、私は装飾のために何かを足すのではなく、その料理に必要な要素でまかないたい。デリケートで洗練されていて、シンプルに見えながらもしっかり仕事された料理を提供し、お客様に喜んでいただきたいのです。」
詰まるところ、本質から生まれる美を追求する、ということだ。まさに、ピュアなエレガンスさとシンプルさを追求するアルマーニの世界観に通じている。
ラグジュアリーとは豪華とか華美とか目先のことではなく、本質的な贅沢である。そのこ
とを【アルマーニ / リストランテ】は思い出させてくれるに違いない。
撮影/玉川 博之 取材・文/甘利美緒
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