京都から銀座へ進出し2年、名店の和食料理人が思う今とは|東京・銀座【銀座ふじやま】
京都の【高台寺和久傳】で総料理長を務めた藤山貴朗さんが、自身の店を京都ではなく、東京にオープンして2年が経つ。京都の名料亭の料理長を長くつとめた藤山さんが、東京で日本料理を作り続けて今、何を思うのだろうか。去年ミシュラン一つ星にも輝いた料理人に、今の心境を聞いた。
京都という枠を外したことで自由になった世界
銀座3丁目のビルの7階、エントランスを入ると、京都そのままの空気が流れる瀟洒な数寄屋造りの空間が広がる。先付が供され、一口、口にする頃には、誰しも京都にいるような気にさえなってくる。
京都下鴨で生まれ育った藤山氏は、料理人を目指して、京都の割烹に入店。その後縁あって、【和久傳】の門をくぐり、【室町和久傳】、【高台寺和久傳】、などの料理長を務めたのち、総料理長として、和久傳を約20年まとめてきた。
それだけ京都一筋で料理の道を歩んできた藤山氏が東京の銀座に店を出すと聞いて、驚かなかった人はいないだろう。しかしながら、ここ東京の店で食事を始めれば、京都で食事をしていたときと、何一つ変わらない、しっとりとした空気感が醸し出される。そんな雰囲気をお客さんはもとより、藤山氏もとても喜んでいる。
店主の藤山貴朗さん
ではなぜ、敢えて、東京で独立したのか、と言う原点ともいえる質問を改めてぶつけてみると、「せっかく独立するなら、心機一転、自分の知らない土地で挑戦して揉まれてみたいと思うようになったんですね」と言う答えが返ってきた。
京都を離れ、東京で店をやっていても、京都にいるときとほぼ同じ、距離感、時間の感覚で、必要な素材が使えるのは、ストレスがなくてすごくありがたいと話す。「蟹はもちろん、今日お出しするあわびもほぼいつも丹後ですね。水は丹後の蔵元から、仕込み水を送ってもらって、それでだしをとっています。だしだけはどうしても、東京の水ではうまいこと調整できなくて」と藤山さん。
京都から数寄屋作りの職人を読んで仕立てた店内
一方、東京にきて、素材の京都しばりがなくなり、面白くなったともいう。新しい生産者の出会いもあり、いろいろな食材をためしてもきたそうだ。独立する前1年は日本中を巡り、さまざまな生産者を紹介してもらったり、海外でイベントにトライもしたそうだ。そんなことも、考え方や視野の広がりの後押しになったのだろう。
例えば、料理に添えられているキャビア。岐阜県中津川でチョウザメを育てている、大山晋也さんから仕入れたものを自分で加工して使用している。
「これまでもキャビアは使ってきましたが、なるべく海外の食材は使いたくないという考えもあって、もう一つしっくりしていなかったのですが、日本のチョウザメであれば、堂々と使えます。それも、自分で処理したものならなおさらです。きっかけは、お客さんでいらした大山さんに勧められて、自分で塩をあててみたら、いい塩梅に仕上がったので、これはいいと強く思いました。柔らかな塩味と、味の透明感が市販品とは全然違います。」
『あわびとホワイトアスパラガスのキャビア卵黄クリームがけ』。コースの中では、焼きものの一つとして供される。
今日も、届いたばかりのチョウザメが、でんとまな板の上にのっている。聞けば、身は、味噌漬けにして使うという。適度に脂ものって、充分に美味しい身なので、味噌漬けにはもってこいだという。興味を持ってくださるお客様には、締めのご飯のときに焼いてお出しするという。こうした使い方にも、素材への愛が感じられるではないか。
自家製のキャビアは、炭火で焼いた旬の佐賀のホワイトアスパラガスと、丹後の蒸し鮑を合わせ、炭火卵黄、だし、塩、酒を湯煎にかけてふっくら泡立てたソースの上にったっぷりかけて登場する。なんとも贅沢な逸品だ
『夏みかんの貝寄せ』
この日撮影した2品目は、丹後から送ってもらった夏みかんを使った『夏みかんの貝寄せ』。夏みかんを綺麗にくり抜き、中には、まさに今が旬の貝類を入れて、夏みかんの果肉を散らし、土佐酢と冷水のジュレをかけた品だ。
貝は見事な赤貝と、本ミル貝は生で、蛤はごくレアに酒煎りして、それぞれ食べよく包丁をいれている。夏みかんの酸味と貝の旨みやミネラル感がなんとも相性がよく、見た目にも美しい春の味だ。こちらは、先付けとして供される。
開店以来の人気メニュー、『焼きフカヒレのあんかけ』
そして、今や【銀座ふじやま】のスペシャリテになりつつある、『焼きフカヒレのあんかけ』は必食の一品。
気仙沼から仕入れた極上のフカヒレを充分に戻してから、だしをたっぷり含ませながら煮て、にこごりにする。その際のだしは、かつおと昆布をメインに、干し貝柱、干し海老、干し椎茸なども、程よく合わせる。フカヒレにさっと焼き目をつけてから、あんを加減をみながらだしでのばしてとろりとかけて出来上がりだ。
複雑な味わいのあんと、旨みをぎりぎりいっぱいまで含ませたフカヒレの滋味豊かなこと。コースの最後に出して、炊き立てのご飯を一口よそってもらい、一緒に食せばもうたまらない。これは、銀座店を開いてから新しく始めた料理だそうだが、その心は、今まで扱ったことのない食材で新しい一品を作りたかったということ。その際にも、京都にしばられる必要がないので、自由に考えられたそうだ。
藤山さんの美意識を感じる店内
キャビアにしても、フカヒレにしても、今の銀座ふじやまを代表する素材といえそうだ。これまでの京都と寸分変わらぬ雰囲気の中に、少しずつではあっても確実に吹き込まれている新風。これが、銀座ふじやまを確実により魅力的に変化させている。
東京にいながらにして、季節感を味わってほしいと、素材から器、店の設えまで、藤山氏の美意識がすみずみにまで感じられる店内で、先付、中皿、椀、向付、焼きもの、しのぎ、鍋などの主菜、ご飯、甘味、主菓子、抹茶と続くコースを味わえば、まさに満ち足りたという言葉にふさわしい、感動が味わえることは間違いない。
この記事を作った人
撮影/岡本裕介 取材/小松宏子
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