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更新日:2021.04.02食トレンド

世界に誇る"ニッポンフレンチ”を届けるグランメゾン|東京・銀座【ラルジャン】

銀座4丁目の一等地に、日本から世界へ“日本のフランス料理”を発信するレストランが誕生した。銀座ランドマークの和光の時計台を目の前に見ながらのダイニング・エクスペリエンスは、これぞ東京の記念日レストラン。世界中を食べ歩いたことのあるフーディたちもきっと満足する、注目の一軒だ。

ラルジャン

日本発、世界に誇れるフランス料理を銀座から届けたい

憧れのレストランは、いつの時代にも銀座にある。

かつて、数寄屋橋交差点のソニービルに【マキシム・ド・バリ】という名店があった。パリのベル・エポックの雰囲気そのままの店がオープンしたのは1966年のこと。手に入らないフランス産の食材を使い、ミシュラン星付きのフランス人シェフが料理をつくり、パリのエッセンスそのものが味わえるレストランは、「大人の社交場」として名士やセレブリティたちの間で瞬く間に評判になった。

その名店は、2015年に惜しまれながら閉店をし、その長い歴史に幕を閉じた。かの名店がオープンした当時から、実に55年の時が流れ、時代は変化し、ずいぶんとレストランを取り巻く環境も、人々の好みも、レストランを楽しむ人々の風景も変わったように思う。

    レストランからは銀座のランドマーク、和光の時計台を間近に眺められる

    レストランからは銀座のランドマーク、和光の時計台を間近に眺められる

流通が発達し、人々が国境を気軽に跨げるようになった今(コロナ禍で今は海外へはいけないけれど)、海の向こうの食材も簡単に手に入るようになり、海外で修行する日本人の料理人も珍しくなくなった。

日本の美食を楽しみに海外の人々が頻繁に訪れるようになり、本場そのものの味を食べたいならば、飛行機に乗って気軽に食べに行ける時代になったのだ。

2020年12月にオープンした【ラルジャン】はそんな時代の変化を映し、新たに登場した現代のグランメゾンの一つだろう。

“海外の本場のスタイルで、本場そのものの味が食べられる”という特別な体験は、徐々に“日本の食材や食文化を踏襲し、日本でしか表現できない料理を楽しんでもらう”というその国の食文化や食材を表現した新しい料理にシフトしてきている。そんな高級レストランの大きな変化がここ銀座でも起きている。

それは、世界を舞台に活躍する日本人シェフが増え、世界を見てきたからこそ、“日本”という国の素晴らしさに気づいた証。そんな魅力を日本人のみならず世界の人にも知ってほしいという彼らの自信の表れでもあるに違いない。【ラルジャン】のシェフ、加藤順一氏もまさにそんな一人だ。

    座席には、その日に決まったメニューが添えられている 

    座席には、その日に決まったメニューが添えられている 

「日本から生まれるフランス料理を、この店から世界に発信したいのです」と語る加藤順一シェフは、【タテル・ヨシノ】の吉野建シェフの薫陶を受け、その後パリの三つ星【アストランス】、デンマークの二つ星【AOC】など世界で働いたのち、帰国後【スブリム】のシェフに就任。ミシュラン一つ星を同店にもたらした人物だ。

古典的なフランス料理基礎を用いつつも、北欧らしい軽やかなプレゼンテーションやテクニックでつくる、現代的で軽やかな料理が加藤シェフの持ち味。世界に一度出たからこそ、日本の食材の魅力に目覚め、そしてそれを使いながら日本でしかできないフランス料理をつくり、銀座という世界の人々が集まる街で勝負したいと思ったという。

    『発酵マッシュルームのスープ』 合わせるのは、赤ワイン「Chateau Haut-Marbuzet 2007」。きのこの腐葉土のような香りと、熟成した香りが良く合う

    『発酵マッシュルームのスープ』 合わせるのは、赤ワイン「Chateau Haut-Marbuzet 2007」。きのこの腐葉土のような香りと、熟成した香りが良く合う

『発酵マッシュルームのスープ』は、そんな加藤シェフが感動した日本の食材の一つ、マッシュルームが主役の一皿。【スブリム】時代からのスペシャリテで、その頃からの常連さんが、この料理を楽しみに訪れるという名刺代わりの一品だ。

「この料理は、僕が少しだけ働いていた【BIOS】(現在は閉店)という富士宮にあるレストランで出合ったとれたてのマッシュルームのおいしさを、料理にしたいと考えたものなんです。新鮮なマッシュルームってピンク色で歯触りが全然違うって感動したんですね。だから、この料理は生のマッシュルームが主役なんです」。

器の中には、富士宮の農家さんから取り寄せているという小ぶりの温卵、それに、発酵させたマッシュルームのエキスを使ったスープが注がれ、ソテーしたマッシュルーム、その上には生のマッシュルームがたっぷりとのせられている。発酵させたスープの複雑で濃厚な味わいが、さくっとした歯触りのクリアなマッシュルームをより引き立てて、多重奏のような味の波、そして食感が口に広がる。

    加藤順一シェフ38歳

    加藤順一シェフ38歳

スープ前までの前菜は、北欧スタイルらしい美しく小さなお料理が並ぶが、メインは、フランス料理らしい、クラシカルな側面を感じるボリュームあるものが登場する。

この日、メインとして登場したのは、美しい羊の一皿。なにげなく見える料理だが、ここにはシェフが「うちはグランメゾン」と胸を張る、技術と手間がかけられている。

主となる羊は、北海道の「羊丸ごと研究所」という牧場の羊。頭数が少なく、生産量の5%しか北海道の外には出ない希少なサフォーク種だ。そのセルダニョ(腰に近いロース)を、掃除してロース肉の部分だけにし、羊の脂でソテーしたほうれん草とギョウジャニンニクを巻く。さらに、バラ肉を薄く伸ばしたもので外側を巻いて、凧糸で縛ってフライパンで焼き目をつけてオーブンに。タラの芽のフリット、ごぼうの木の芽あえ、クレソンやナスタチウムなどで作ったハーブのブーケと、ジャガイモとチーズをあわせたテリーヌ“ポム・アンナ”を添えて。

ソースは、フランス料理王道の羊の骨からとったソースと、美しい緑色が印象的な北欧風のハーブのソース2種がかけられている。

春の羊は繊細で柔らかな優しい味わい。それを、山菜のほろにがい香りがミルキーな羊を包み、ソースと合わせて食べれば、まさにこれは、日本の春を感じるフランス料理だと感じる。

    『酒井さんの羊、山菜』 日本の食材、フランス料理の技法、北欧のテクニックが融合した加藤シェフならではの一皿

    『酒井さんの羊、山菜』 日本の食材、フランス料理の技法、北欧のテクニックが融合した加藤シェフならではの一皿

続くデザートも、日本の魅力的な食材を、フランス料理に昇華させて登場。

よもぎの蒸しパンのクランブル、バターミルクとキャラメル状にしたヨーグルトのパウダーで、早春の雪が残る苔むした日本庭園のように仕立てられたデザートの正体は、よもぎとヨーグルトのシャーベット。日向夏のジュースとクリームがアクセントだ。

さっぱりとしながらも、よもぎの香りが鼻腔をくすぐり、ここでも日本の春を感じることができる。

コースの料理は、食べた印象はフランス料理、だけれど、どこか日本的な香りが印象に残る。そんな加藤さんの料理は、ただ単純に日本の食材を使って、そのままフランス料理に仕立てたものとは一線を画す調和がある。

その秘密を聞くと、「日本の食材は繊細。下ごしらえも、処理もフランス料理の技法ではその良さを殺してしまうこともある。だから、和食の料理人の方に教えてもらった技法を使ったり、自分なりに工夫したりして、より魅力的に仕立てることを意識しています」と答えてくれた。

    この日のデザート『よもぎ、ミルク』

    この日のデザート『よもぎ、ミルク』

これらの魅力的なコースは、「ぜひワインとともに楽しんでほしい」と加藤シェフ。こちらのワインは、絶妙なセレクトにファンが多い【Crony】小澤一貴さんが監修。軽やかでありながらも、フランス料理の骨格はしっかりとある料理に合わせるのは、フランスを中心としたワインだ。それを、お客様の要望を聞きながら小倉希望ソムリエがゲストにあわせておすすめをしてくれる。

「僕がアストランスで働いていた時、ソムリエがお客様の食べている様子や、彼らからのリクエストを聞き、厨房に逐一報告すると、それに合わせてシェフが料理のソースをどんどん変えていく。そんなことがあたりまえでした。これが、フランスの三つ星、グランメゾンなんだと感動したんです。ここは、日本のグランメゾン。そんなきめ細やかな対応もしていきたいですね」と意欲を覗かせる。

とはいえ、特別な気分が味わえるのに、肩肘張らずにリラックスして楽しめるのも令和時代らしい、このレストランの魅力だ。

ちょっと特別な日。”日本から発信するフランス料理”を体験できる、銀座の新しいグランメゾンへ、ぜひドレスアップして、訪れてみてはいかがだろうか。

この記事を作った人

撮影/玉川博之 

取材・文/山路美佐
大学卒業後、丸の内の総合商社に入社するも食への探究心を抑えきれずイタリアに料理研修の旅へ。その後「家庭画報」ほかの雑誌で食・旅の編集を担当。ヒトサラ副編集長を経て、現在はフリーの食と旅の編集者に。美味探求の旅は30カ国以上にのぼる。

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