岐阜【摘草料理かたつむり】~ヒトサラ編集長の編集後記 第38回
ジビエの季節になりました。山がちな日本の真ん中あたりには有名店も多くあります。柳家、徳山鮓、比良山荘……。それぞれ個性的で素晴らしい天然の食材を楽しませてくれます。そのなかでもひときわ個性的な【摘草料理かたつむり】を今回はご紹介したいと思います。
美しい里山とジビエの旅
岐阜駅から山に向かって車を走らせること40分ほど。
【摘草料理かたつむり】は長閑な里山の中にあります。民家を改造した部屋にテーブルと椅子が用意され、10人ほどが入れるようになっています。
中央に清水さん、右がシェフの岩田さん
ご主人の清水滋人さんが出迎えてくれました。清水さんはきのこ採りの名人として有名でジビエの卸もやっていた方。シェフの岩田芙美代さんとの共同作業で地元の食材をつかった料理を出してくれます。
紅葉が見事な秋のおわりのころ、ちょうど半年ぶりくらいに再訪しました。
「今日はマガモを用意しました。もちろんクマ鍋もやりますよ」
そう言って清水さんはキッチンに入って行きました。
先付
先付は茹でた菱の実、クロカワ(ろうじ)の生姜煮、それに熊肉で炊いた大根や里芋やカボチャ、そして豆柿、冬苺です。
茹でた菱の実は落花生のようで、クロカワは旨味と苦みが交錯した秋の味覚。
熊肉のエキスがしみ込んだ野菜は甘く、種なしの豆柿、酸っぱい冬苺などもこの地でしか味わえないものです。
川ガニ
次は川ガニです。
長良川に上がってくるワタリガニで、これはこの時期しかとれないものだとか。ボリュームがあり、しっかりした味わいを溜めています。
子持ち鮎
鮎が出てきました。子持ち鮎です。
「今の鮎は川底にいて動きが遅いんです。手繰網で獲るんですが、夏とは違う味わいですよ」と清水さん。
夏の香りの鮎とは一味違って、こちらはたっぷりと卵を宿した鮎で、ししゃものようなほくほくした食感が楽しめます。
われわれはワインを持ち込んで、料理に合わせていただくようにしましたが、お酒を飲まない人のために野生のベリーのジュースやリンゴのジュースなど、ノンアルコール飲料も自然のものが用意されています。
天然マガモと飛騨ネギと
万木白かぶのすり流し
お椀が出てきました。万木(ゆるぎ)白かぶのすり流しです。
万木かぶは滋賀県を代表するかぶで、柔らかすぎず堅すぎずで食べやすいものです。それをすり流しにします。中身は清水さんのお得意なコウタケです。
コウタケは、独特の山の香りがあって香茸と書きます。マツタケより香りが華やかかもしれません。
山の香りと優しい景色をそのまま頂いているようなお椀でした。
イノシシのスペアリブ
そして定番になっているイノシシのスペアリブです。
子どもから大人まで楽しめるような甘辛ソースと塩胡椒で仕げてあります。臭みはなく肉質もしっかりしていて、骨をいつまでもしゃぶっていたくなるほど後を引く美味しさです。
サラダがたっぷり出てきて小休止。
鴨肉
そうこうするうちにテーブルに鉄板がセットされ、鴨肉が出てきました。真っ赤で綺麗な鴨肉です。付け合わせの野菜は立派な飛騨ネギ、にんじん、そして小ぶりのじゃがいもインカのめざめ。
「あんまり長く焼かないでね」と言いながらご主人が焼いてくれました。
天然のマガモの、ささみ、砂肝、ロース、もも肉。
それからレバー、タン。
全部位をシンプルに焼いていただきます。もちろん味付けなどされていません。塩と胡椒でいただきます。脂がうまい 鴨の脂を吸った野菜がうまい。飛騨ネギがとくにうまい。
鴨ネギと言われることがよくわかるような瞬間です。
タンは少量で珍しいものです。少し長めに焼いてもらってしゃぶるようにいただきました。
清水さんが鴨の毛皮を持ってきて特徴を説明してくれます。嘴が緑っぽいのは若い証拠なのだとか。人間も未熟な者を嘴が青いと言ったりしますね。
アカヤマドリダケの握り
アカヤマドリダケの握りが出てきました。これも定番ですが、アカヤマドリダケをソテーしてシャリと握ったここのオリジナルです。アカヤマドリダケはカサの部分の見た目が赤い山鳥に似ていて、食感と風味がすばらしく、これのモドキがポルチーニです。
個人的にはリゾットにするのが好きなキノコですが、この握りも魅力的で、大トロの炙りのような食感があります。
山菜のお浸しが添えられました。
きのこ鍋に熊のしゃぶしゃぶ
そしてメインの鍋の登場です。
きのこや野菜がいっぱい入っていて、これだけで十分美味しそうです。
水菜、春菊、クレソン・・・天然のクレソンが近くの川辺にたくさん自生しているのだとか。
まさに摘草料理です。そしてキノコがゴロゴロ。
野生の旨味たっぷりの鍋
そこにスライスした熊の肉が現れます。
熊肉は融点が低く、鍋に入れるとすぐに縮んでしまうので、すぐに口に入れます。脂が本当に美味しく、深い味わいがあります。
それを鍋の野菜やきのこといただきます。
美しい熊肉のスライス
柚子胡椒やかんずりを適量自分の皿にとりスープをいただきます。
お腹にじわーっと染み渡るような感じです。行き返ったような気持ちになります。
自然の力といったものが実感できる瞬間です。
この瞬間を求めて多くの人がここを訪れるのかもしれません。
スープがうますぎて、全部飲み干してしまいそうですが、最後の雑炊にここは我慢して取っておきましょう。
締めの雑炊には山のエキスのすべてが詰まっていた
自然のエキスがつまった絶品の雑炊をいただき、お茶をいただいたころにはもうあたりは暗くなり始めていました。東京からの行き帰りを入れるとまるまる一日がかりの午餐です。でも満足です。一日中山の中にいたおかげて山のエキスをたっぷりいただきことができました。
小西克博/ヒトサラ編集長
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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