札幌【ベイジャフロール】~ヒトサラ編集長の編集後記 第37回
イノベーティブというジャンルのレストランが増えました。シェフたちの個性やセンスがはっきり出るので好き嫌いは出ますが、毎回いろいろ新しい発見もあります。今回は札幌の代表格のひとつ【ベイジャフロール(beija Flor)】を紹介します。
札幌のイノベーティブ
たとえば、9月のメニューはこんな感じでした。
1、エゾ鹿、体液
2、アサリ、山ワサビ、根セロリ
3、海老リコッタ
4、鰊
5、エゾ鹿、パプリカ、トマト
6、鯛、おかわかめ、胡麻
7、花咲ガニ、ボリボリ、春菊
8、フォアグラ、コーヒー、治療
9、ホッキ、白カビ
10、ブドウ、ビーツ
11、サメガレイ、ナンプラー
12、安曇野放牧豚、キムチ、ムール
13、ハマナス、オートミール、ヒバ
14、豆
メニューに食材名だけを乗せ、食べる側のイメージを膨らませるといったレストランは増えましたが、「体液」や「治療」といった言葉は、あまり見かけないですね。
でもここ札幌のベイジャフロールでは、それがとても大切な調理法なのです。
1年前にオープンしたばかりの新しいお店ですが、シェフの佐藤幸大さんは、長谷川稔シェフのもとで働いた後イタリアで修業した人。サービスとソムリエを兼ねる久野寛司さんは、アメリカでスポーツトレーナーをしていた人で、なかなか異色のコンビ。
お酒のペアリングもユニークで、その組み合わせでも料理の変化はいくようにも楽しめそうです。
体液を絞り出す
『エゾ鹿、体液』
最初に出された『エゾ鹿、体液』とはエゾ鹿の濃厚なコンソメで、通常の2倍の量の鹿肉を長時間丁寧に煮込んでつくるそうです。時間をかけて食材の「体液」を絞り出すイメージで、他の食材にもこれは適応されます。そうすることで後から塩をあてたりする必要がなく、食材そのものの味をしっかり味わえるのだそうです。
香りも味も濃厚な華やかさがあって、1皿めからやられた感じがしました。
『海老リコッタ』
2皿目以降も、こちらが食材名からイメージするものを気持ちよく裏切ってくれます。
海老のリコッタでは、地元の北海エビの殻の風味をミルクにうつし、そのミルクでつくったチーズが出されます。食感はパンナコッタですが、発酵トマトのピューレが入っていて、エビ風味が爽やかに引き立っています。
「シェフがエビでチーズをつくるって言い出したときは何をする気なのかハラハラしました」と久野さんは笑います。「でもこれ、結構好評なんです」。
基本、地元食材を中心に、シェフの佐藤さんが学んだイタリア料理や日本料理の技法を活かした皿が続くのですが、食材からイメージを馳せて出来上がてくるものも多いとか。
「なので、農家さんなどには面白い食材があったらまずは持ってきてくださいと頼むようにしています」。
『鰊』
代表的な北海道の食材である鰊(にしん)はテリーヌになっていて、右から食べていくと味が変わる工夫がされています。エゾ鹿は人口4人の村から取り寄せているそうで、なんと人工物にほとんど触れていないのだそう。「食材にはとことんこだわりたい。こだわることで新しい発見がある」と佐藤シェフは言います。
『花咲ガニ、ボリボリ、春菊』
分からなかったのは花咲ガニに添えられた「ボリボリ」で、これはナラタケのことでした。ナラタケは初秋の北海道を代表するきのこです。あえて地元の呼び名を使うのは、地元愛の表れで、外国の人などにはとくに地元の名前で食材を覚えてほしいのだとか。
完璧な治療
そして「治療」された皿が出てきました。フォアグラですね。
高級なフォアグラも、やはり時間がたつと味が落ちてきます。それを「治療」するということです。
『フォアグラ、コーヒー、治療』
まず酸化し始めたフォアグラをコーヒー豆の水溶液に入れます。そして49度で4時間、加圧減圧を重ねます。そうすることでフォアグラの毛細血管にコーヒーのアルカリ水溶液が入って酸化が中和されていくのだとか。確かに治療っぽいですね。
キャラメリゼしたカシューナッツやカカオニブが振りかけられ、バルサミコ酢が添えられます。口に含むと実になめらかで、生チョコを食べているような感覚になります。
バルサミコ酢をつけることで甘みと酸味が心地よく口の中に広がり、合わせてもらったカリン・セラーズ(カリフォルニア)のシャルドネとの3重奏が本当に素晴らしい。メインとデセールのいいとこ取りのような感じもします。
「修業中にフランスで食べたフォアグラがあまりに美味しくて、それが鮮度にあると気づきました。日本でもなんとかその味に近づけたいと思って」と佐藤シェフが説明してくれました。
ソルベで火照った口の中をととのえて、メインは2種。サメガレイと放牧豚です。
『サメガレイ、ナンプラー』
『安曇野放牧豚、キムチ、ムール』
サメガレイも放牧豚も、エスニックな味付けです。サメガレイの皮にはにはオキアミを張り付けて焼いてあり、ナンプラーとハーブのソース、乳酸発酵させた大根。放牧豚にはオリジナルのキムチソースがかけられています。
酸味と華やかな香り、しっかりとした食感が印象的なメインですが、メインにくる肉や魚があまり重くならないよう、配慮されているようでした。
『ハマナス、オートミール、ヒバ』
【ベイジャフロール】。ちょうど1年前のオープンの日にも来ていたのですが、こだわりや調理法が深化していて、余裕があれば季節ごとに変化を見てみたい気になりました。
佐藤シェフは求道者のように料理に集中し、サービスの久野さんが丁寧にワインや料理の説明をしてくれる。この2人のバランスもいい感じです。
この記事を作った人
小西克博/ヒトサラ編集長
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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