【鳥しき】の系譜に新風が! 和のハーブが香る、焼鳥をおまかせコースで|牛込神楽坂【鳥光】
焼鳥の名店として真っ先に名が挙がる、東京・目黒【鳥しき】出身ならば、焼きの技術は確かなもの。その期待に十二分に応えつつ、日本在来種の野菜やハーブに着目して新たな味わいを生み出した山田拓平さん。2022年11月に山田さんが構えた【鳥光】では鳥しき仕込みの焼鳥に和ハーブが香る、唯一無二のメニューが楽しめます。
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名店仕込みの焼鳥に、和ハーブを効かせた新しい味わい
日本酒ツウも心惹かれる銘柄酒を時季ごとに厳選
日本の焼鳥を世界へ! そこから生まれる食体験を楽しんで
名店仕込みの焼鳥に、和ハーブを効かせた新しい味わい
牛込神楽坂駅から徒歩5分ほど、通りに面したガラス戸からは店内が見通すことができ、ふと足を止めたくなる佇まい。まず炭火の焼き台が目に留まる厨房で、迎えてくれるのは店主の山田拓平さん。言わずと知れた名店【鳥しき】で修業し、その系列【鳥さき】【鳥かぜ】でも腕をふるった経歴の持ち主です。
厨房を囲む全8席のL字カウンター。炭火の焼き台は通りからもよく見える
満を持して独立し、2022年11月にオープンした自身の店【鳥光】では、【鳥しき】仕込みの“近火の強火”で焼き上げる焼鳥はもちろんのこと、自然栽培や無農薬、そして在来種の野菜やハーブをふんだんに取り入れた、これまでにない味わいを楽しむことができます。
炭火にぶどうの枝を加えてほんのりと香りづける
香りよく焼き上げた『かしわ』は、噛むごとにコクと旨みが広がる
まず焼鳥として王道の1本『かしわ』。炭火の加減を見ながら手を動かし続けて焼く【鳥しき】仕込みの技だけでなく、無農薬ぶどうの枝を焼き台に加えるのが【鳥光】独自の手法。焼き上がりはふっくらジューシー、ほのかな薫香をまとっています。
山田さんが「クセがない香りで素材を活かせる」と言うぶどうの枝は、本来ならばワイナリーで廃棄されてしまうものを分けてもらったそうです。見過ごされてきた素材にスポットを当てて、おいしい“+α”に昇華させるアイデアに感嘆!
希少部位の一つ『食道』は、フレッシュなビャクシンでインパクトある味わいに
プリッコリッと弾力がある『食道』には、潰した「ビャクシン」の実を添えて。ビャクシンは、ジンの香りづけに使われるジュニパーベリーの近縁種とのこと。個性ある食道の味わいに、鮮烈な香りが心地よいアクセントになっています。数ある銘柄の中から山田さんが選んだ鶏肉は、岐阜県産「奥美濃古地鶏」。歯応えが程よく、旨みがしっかり強いのが特徴です。
山田さん曰く、「ラオスをリスペクトして」と仕上げにライムを添えるのはアレンジなしの本場スタイル。『鳥そぼろ ラープスタイル』
他の焼鳥店では登場することがない、ユニークな一品は『鳥そぼろ ラープスタイル』。ラープとはひき肉とハーブ類を和えた、ラオスの代表的なメニュー。つくねを焼き上げてひき肉状にして、ナンプラーなどを使ったドレッシングを加え、ハーブをたっぷり……ですが、「あじめこしょう」「もみの新芽」「杉の新芽」「和ハッカ」といった和の食材を使うのが山田さん流。
右から時計回りに、「あじめこしょう」「もみの新芽」「杉の新芽」
あじめこしょうは岐阜の伝統野菜で、普通の唐辛子より辛味成分が強いのにフルーツトマト並みの糖度があるそうです。そのためか、一口目はしっかり辛いのにヒリヒリと後に残らず、もみや杉の爽やかな風味、西洋ミントと比べてメントールが3倍近くあると言う和ハッカの清涼感で軽やかに味わうことができます。
「小ぶりな国産うずらは焼くより蒸すほうがおいしく仕上がる」と山田さん
しっとり蒸し上げた身は、旨みがぎゅっと凝縮している。『うずらの月桃蒸し』
串ものとして卵が登場するのは珍しくないうずらですが、こちらでは一羽をしっとり柔らかく蒸し上げます。蒸籠から漂ういい香りは、うずらを包んだ「月桃」から。沖縄地方で古くから薬草として親しまれているハーブで、月桃の葉で餅を包んだ縁起菓子「ムーチー」がこのメニューのヒントになったそうです。
卵を産まなくなったうずらの流通は確立されておらず、生産者たちの悩みの種。そのうずらを無駄にすることなく、創意工夫を凝らしておいしい一皿にしています。
すっきりとクセのない卵を、長野県産の無農薬コシヒカリとともに。『卵かけご飯』
〆におすすめの一品は『卵かけご飯』です。レモン色の黄身に驚かされる卵は、千葉県旭市「大松農場」のもの。このレモンイエローは、鶏の健康を第一に、余計なものを与えていない証です。味わいも自然そのまま、あっさりとして食べ飽きません。にら醬油が添えてあるので、パンチある味変で楽しんでもOK!
紹介した料理はすべて、焼鳥と一品料理、〆までしっかり楽しめるコース、おまかせ一通り(10,000円)より。「今日は焼鳥をとことん堪能したい!」というときは、おまかせ串のみ(6,800円)があります。
日本酒ツウも心惹かれる銘柄酒を時季ごとに厳選
料理を引き立てるお酒として、まず、おすすめなのは日本酒。「新政 陽乃鳥 直汲み」「仙禽 かぶとむし」「たかちよ とこなつむすめ」「栄光冨士 サンクチュアリ」など幅広いセレクトで、通ならずとも杯を傾けたくなる銘柄ばかりです。
暑い日に嬉しい夏酒など、時季によって変わるラインナップも楽しい。一合1,000円~
他にもフランス産を中心に揃えたワインはグラス1,000円、ボトル8,000円から、ビール、焼酎などがあるので、料理や気分に合わせてお好きなものをどうぞ。
奈良の大和蒸留所が手がける「橘花ジン」は好きな飲み方で。グラス900円
和ハーブが香る料理と同様に、ボタニカルなフレーバーを楽しみたいなら「橘花ジン」を。「風の森」で知られる油長酒造が立ち上げた、大和蒸留所によるクラフトジンは日本固有の柑橘「大和橘」とセリ科の植物「大和当帰」を使った華やかな香りが広がります。
日本の焼鳥を世界へ! そこから生まれる食体験を楽しんで
【鳥光】では一品ごとに、「おいしい!」とともに新しい発見ができます。日本にいながら知らなかった日本古来の食材。素材が持つ、自然本来の味わい。日本各地・世界各国の食文化。
例えば、焼鳥屋さんでは欠かせない七味と山椒。【鳥光】では「クロモジ」「ヤブニッケイ」「タチバナ」などなど、多種多様な和ハーブ9種類を素材にした手作りです。枝葉を広げるために力を蓄えた杉の新芽には、その力強い味わいに驚かされます。うずら肉を噛み締めれば、これからの食資源のあり方について思いを巡らすことも。
和ハーブの乾煎り、挽き、ブレンドまで店内で行う自家製の七味と山椒
聞けば山田さんは、若い頃にバックパッカーとして世界を廻り、時には奄美大島で農業に携わり、時には香港で商社勤めだったこともあるそうです。そんな海外生活を経て、「日本が誇る焼鳥文化を世界に発信したい」と【鳥しき】の門を叩いたとのこと。視野はグローバルに広く、土台は日本の食文化にどっしりと根差しています。
多彩な経験を経て焼鳥の道へ。名店で培った技を駆使して焼き台に対峙する山田拓平さん
料理だけではなく空間にも、その志向は表れているようです。日本の食文化を象徴するカウンターは、焼鳥の醍醐味である炭火の焼きを目の当たりにできつつ、寛げるようなゆったりとしたつくりに。さらに、気兼ねなく食事が楽しめるテーブル席と広々とした個室まで設けているので、いつ誰と訪れても心地よく過ごせます。
カウンターは一人一人のスペースをゆったりと取っている
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オフィシャルなシーンにも安心な8人用の個室
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個室に飾られているのは、イタリアの古い本に載っていた日本地図
名店で研鑽を重ねた串、無農薬や自然栽培にこだわった野菜、昔から日本の暮らしに息づいていた和ハーブ。そんな“美味しい”要素を駆使して、未知の味わいをつくり出す【鳥光】。誰もが慣れ親しんだ焼き鳥を通して、食の楽しみをぐっと深めてくれる一軒です。
撮影/佐藤顕子 取材・文/首藤奈穂(フリーライター)
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