著名人が愛した名店「銀座キャンドル」の味を受け継ぐ洋食店。“大人の洋食店”が楽しめる麻布十番【TARO Azabujuban】
1950年創業の名店【銀座キャンドル】の後継店として、銀座キャンドル三代目の岩本 忠シェフが手掛ける洋食店が新たに誕生した。三島由紀夫さんや川端康成さんにも愛され、美輪明宏さんには「宇宙一美味しい」とまで言わしめたという『元祖! 世の中で一番美味しいと言われるチキンバスケット』をはじめ、名店の味を受け継いだ洋食を、大人のお子さまランチのコース仕立てとして提供。さっそくお店に伺ってみた。
かつて、俳優であり歌手である美輪明宏さんをして「宇宙一おいしい」と言わしめ、作家の川端康成や三島由紀夫を足しげく通わせたチキンバスケットがある。今や伝説にもなっている洋食店【銀座キャンドル】のものだ。2014年、惜しまれつつも64年の歴史に幕を下ろしてしまったが、創業者の孫であり3代目の岩本 忠さんがその味を引き継ぎ、現在【TARO Azabujuban】で堪能することができる。
カウンター席をメインにした、コンクリートが基調のスタイリッシュな空間。奥には遊び心あふれる個室も用意されている
「時代に合わせて少し変わったところはあります。でも、基本的なところは変えていません」というチキンバスケット……銘柄を問わず肉質、旨みにこだわり、現在は鹿児島県産の若鳥を使用。その厳選された胸肉に軽く塩を振り微細なパン粉をふんわりとまとわせ、低温の油でじっくりと揚げている。シンプルな調理だが、歯触りがサクサクで軽快な衣の下には、ジューシーでふんわりとした弾力のある胸肉。塩で引き立てられた鶏の旨みや香りが、噛むほどに口の中に広がっていくのだ。
少しレモンを搾っても美味。シンプル イズ ベスト。“宇宙一”の言葉どおりの味わいだ。よく冷えたビールを合わせれば、食べて飲んで食べて飲ん……しばし無言になること間違いなし。
『元祖! 世の中で一番美味しいと言われるチキンバスケット』(2ピース) 3.520円。頬張るとわかる、美輪明宏さんのコピー能力。サクサクの衣とジューシーでふっくらした胸肉の異なる食感の絶妙さ、うまさに唸る。アラカルトでは1個100gだが、コース時は50gにカットして提供
岩本さんが手がける『エビマカロニグラタン』や『アップルパイ』もかつての味だ。前者のグラタンにはエビがゴロゴロと入り、柔らかめに茹でられたマカロニとともにベシャメルにしっかりと絡めて頬張れば……ハフハフ、焼きたてで熱いぞ。火傷しないようにフゥフゥと少し冷ましあらためて頬張る。
「しっかりと水分を抜くように丁寧に行なっています」と下処理されたエビは噛めばパツンと弾けるかのようにプリプリで甘く、対してマカロニはもっちりという異なる食感が楽しい。それらにしっかり絡んだベシャメルはとろりと濃厚で、その心地よい塩加減がエビの甘みをさらに引き出している。シンプルな構成ながら、やさしくリッチな味わいなのだ。パンにつけてもおいしそう。冷えた白ワインを合わせればもっとおいしそうだ。
『1950年の海老マカロニグラタン エシレバターver』3,520円。エビの旨み、エシレバターの芳醇な香りが溶け込んだベシャメルは濃厚で、このソースのみでも十分にお酒が進むおいしさ。プリプリ(エビ)、もっちり(マカロニ)、とろん(ベシャメル)の見事な融合にうっとり。食べてにっこり
1950年、【銀座キャンドル】創業時のメニューに載っていた『パイ・ア・ラ・モード』。それをシンプルにパイ&バニラアイストッピングのみにして提供しているのが『アップルパイ』だ。香ばしくカリッと焼かれた生地の中にはほんのり甘いリンゴがたっぷり。リンゴは時期により色々使っているそうだが、香ばしさと酸味、リンゴとバニラの異なる甘み。さらにカリッとした生地、柔らかなリンゴ、パイの熱で溶けていくバニラの様々な食感。いくつもの主張が口の中でひとつになり、「あぁおいしい」という言葉を導き出す。
戦後すぐの創業ながら、なんて完成度の高い味。「3代目という意識はそんなにないんですよ」と言いつつも、それらを受け継ぎ、進化させた岩本さんの熱意と技術、アイデアに脱帽である。
『伝統のアップルパイアラモード』2,420円。香ばしく焼かれたパイ生地の中に、ほのかにシャクッとした歯応えを残すリンゴが鎮座。パイ生地の熱で溶けたバニラアイスを絡めながらいただけば、甘み、苦味、酸味が口の中で一つになる。素朴ながら優雅な味わい
ところで、ここ【TARO Azabujyuban】はかつての味だけの店ではない。料理人・岩本さんの哲学が凝縮された店でもあるのだ。ヒントは店名にある。TAROはタロウであり、漢字では太郎だ。
「僕が手がける料理は日本の洋食をベースにしたもの。じゃあ、その日本の洋食とは何かというと、ご飯に馴染む味わいのものだと思うんです。なのでフレンチやイタリアンなら赤ワインを使うところを日本酒にしたり、ご飯に合わせにくいハーブやスパイスを使わないで仕上げているんです」。
日本=ご飯を意識した洋食的な料理が多いが、お酒は日本酒、ワイン、ビールと幅広く揃えている。少量ずつ提供される料理に合わせてお酒を変えながら楽しんでみたい。日本酒(グラス・1000円〜)、ワイン(グラス1300円〜、ボトル7500円〜)、ビール(瓶・900円)など
小さなバインミーから始まるこの日のコースには『北海道産帆立と蟹味噌のグラタン』『豆乳と野菜だしのエスプレッソ』『黒毛和牛の柔らか煮 日本酒とココアのソース』などが並ぶ。どれも日本酒を合わせてみたくなる。骨太な味わいの燗酒もいけそうだ。そればかりか、これらの料理にご飯を合わせたくなったら臆することなく「ご飯ください!」と頼むべし。笑顔でご飯の提供もしてくれるのだ。とはいえ、ご飯の食べ過ぎには注意。コースには『ドウシンニカエル』なる一品も。これは子供の頃の心をときめかせた、卵でデミグラスソース味のライスを包んだオムライスなのだ。
店の奥には5名くらいまで入れる個室。とあるメーカーのライトのカバーや、とあるものを加工した入り口のドアなどに岩本さんのアイデアが活かされている。ぜひ一度足を運んで確かめてみて
その日のおすすめが書かれた黒板メニューにも、『紋甲イカのレアフリット』や『北海道産白子カリトロエシレバターと煮切醤油』なんて、ご飯に馴染むこと請け合い、お酒を呼ぶこと必至な料理。更に〆にはランチタイムに供している『麻布昊』のラーメンもズラリと揃っている。
創業以来の味と日本の洋食をブラッシュアップさせた逸品たちを堪能させてくれる店。麻布十番の路地裏に佇む【TARO Azabujyuban】にぜひ出かけてみてほしい。
1975年、東京都出身。【銀座キャンドル】三代目当主、【TARO Azabujuban】店主。幼い頃から料理に親しみ、焼肉店での修業からプロの道へ。一時期、建築デザインや飲食店運営に携ったのち、実家の店で研鑽を積む。その後、豊富な経験をもとに海外で飲食店を立ち上げ、活躍。帰国後、閉店した実家の洋食店を麻布十番のバーで間借り営業し、評判を呼ぶ。それをさらに進化させた今の店を2023年秋に創業。新趣向の洋食を探求する日々。
【TARO Azabujuban】
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電話:03-6447-0298
住所:港区元麻布3-10-6 ラウレア元麻布 1F
店舗詳細はこちら >
この記事を作った人
取材・文/武内 しんじ(フリーライター)
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