日本史上最も有名な刀匠「村正」の短刀を手に取る貴重な体験|三重・桑名
名古屋から車・電車ともに約30分とアクセスのよい三重県桑名市は、〝伊勢国の玄関口〟。この地で1900年もの歴史を誇り、日本史上最も有名な刀匠「村正」の太刀(三重県指定文化財)を2振所蔵する「桑名宗社」(くわなそうしゃ)では、「村正」の短刀を手に取るプレミアムな体験ができます。卓越した技術と品質で日本史上最もその名を轟かせた「村正」の中でも、「桑名宗社」が所蔵する刀が“傑作”と呼ばれる理由にも迫ります!
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繁栄の神様「桑名神社」と厄除けの神様「中臣神社」の2社から成る、珍しい神社
「村正」の中でも“傑作”とされる、三重県の指定文化財
桑名市指定無形文化財「短刀 村正」を、この手に!
繁栄の神様「桑名神社」と厄除けの神様「中臣神社」の2社から成る、珍しい神社
創建は約1900年前。平安時代の「延喜式神名帳」にも名が記された桑名最古の神社「桑名宗社」の楼門 ©︎春日神社
室町時代から守り続けられてきた名刀「村正」(三重県指定文化財)をはじめ、初代桑名藩主・本多忠勝の朱印状や、徳川家康坐像などの有形文化財を所蔵する、「桑名宗社」。地元では「春日神社」と呼び親しまれている桑名の総鎮守社(土地全体を守る神社)であり、事業の繁栄や子孫の繁栄にご利益があるとされています。
通常は木か石が使われるところ、青銅で造られた、旧東海道随一の鳥居。門前町は昔から縁起のよい場所とされ、歴史ある商店が並ぶ ©︎春日神社
入り口は、日本橋から京都までを結ぶ“日本の交通の基礎”とも言われる旧東海道に面する、青銅の鳥居。寛文7年(1667)、藩主・松平定重の命により鋳物師・辻内種次が製作した、触れることができる文化遺産です。
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参拝前に手水を行い、口元と手を浄める
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宮司・不破義人さんのお話を聞きながら、境内を散策
宮司・不破義人さんによると、手水舎の井戸自体も文化財に指定されているのだとか。
「江戸時代、飲める湧き水が少なかった桑名において、桑名宗社の井戸からはおいしいお水が出ていたそうです。神様が飲むお水とされていたので一般の方は飲めませんでしたが、明治天皇がいらっしゃった際に、井戸水の水質について称賛のお言葉をいただき、広く開放するように命じられたことで、一般の方に開放されるようになりました」
「桑名神社」、「中臣神社」の二社合社で構成される本殿
また「桑名宗社」は、約1900年前に存在したと言われる繁栄の神様を祀る「桑名神社」と、奈良「春日大社」から約700年前に招かれた厄除けの神様を祀る「中臣神社」の2社から成る、全国的にも珍しい神社です。
「お守りをたくさん持っていると神様同士が喧嘩する、と言われることもありますが、桑名宗社では二つの神社が700年間も睦まじく鎮座する姿から、神前式・結婚式を挙げるカップルがとても多いんです」と不破さん。
「村正」の中でも“傑作”とされる、三重県の指定文化財
厳かな雰囲気の神前。宮司・不破さんの御祈祷を受ける ©春日神社
神聖な「村正」を手にする前に、本殿へ。
お清めのためのお祓いを受けた後、丁寧な説明のもと、手順に沿って、榊の枝に紙垂を付けた「玉串(たまぐし)」を持ち、目を閉じてお願い事を神様へ伝えます。
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宮司の不破さん。神前に進んだら、二拝(礼)・二拍手、一拝(礼)ののち、手を合わせて日頃の感謝の気持ちを心で伝える
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葉っぱを時計回りにくるりと回し、神様に切り口を向けてお供えする
いよいよ、480年以上前に「村正」より奉納された宝刀と対時できる空間「眺憩楼(ちょうけいろう)~Muramasa Museum~」へ。第二次世界大戦の戦火をかろうじて免れた部屋を移築し、令和4年に「村正」の展示施設として生まれ変わった「眺憩楼」は、畳で座りながらじっくり刀を鑑賞できます。
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心を落ち着けて「村正」に対時できる「眺憩楼~Muramasa Museum~」
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基本は正座で刀を鑑賞するため、素足での拝観は禁止
三重県の指定文化財である「太刀 村正」2振は、伊勢国桑名(現在の三重県桑名市)で活躍した代々「村正」の名を継ぐ刀工の中でも、とくに高い評価を得ている2代目「村正」本人が、天文12年(1543)に奉納したもの。それぞれ「春日大明神」、「三﨑大明神」という号が彫られた2振のうち1振りの写しが打たれ、こちらで鑑賞できます。
手前が、「太刀 村正」の「春日大明神」(写し)。刃紋の表裏が揃っているのが、村正の特徴
通常の「村正」は侍が持つ実用的なものが一般的ですが、こちらで所蔵する「春日大明神」、「三﨑大明神」は、「単に歴史的資料価値のみならず、美術工芸品としても価値の高い、村正の傑作」と、宮司の不破さん。
「村正は、地元の総鎮守とされる当神社に作品を奉納するにあたり、注文を受けて打つ場合と違い、材料や技術に上限を一切設けず、自身の最高の刀を作って奉納したのです。そのことは、刻まれた銘からも見て取れます。通常、村正の銘は『村正』の2文字だけが刻まれますが、当神社の太刀村正には『勢州桑名郡益田庄藤原朝臣村正作』(せいしゅうくわなぐんますだのしょうふじわらあそんむらまささく)の15文字が彫られており、村正の住所や役職などが刻まれています。この銘は村正史上、最長とされています」と不破さん。
「春日大明神」の号が刻まれた太刀「村正」
その鋭くも流麗なフォルムに、プレミアムツアー参加メンバーたちも前のめりになり、「華やかさは他の村正とどう違うんですか?」と、不破さんに質問。
「まず長さだけとっても刃の長さが75・9cmあって、これほど長く華やかな村正は他にないんです。また、表裏揃いの刃紋がとても華やかで、持ち手が魚のお腹の形をしたタナゴ腹であることも、村正の芸術的な特徴とされます」と不破さん。
桑名市指定無形文化財「短刀 村正」を、この手に!
由来は不明ながら400年前から伝わる短刀「村正」
「桑名宗社」には太刀2振を含めて「村正」を5振所蔵。今回のツアーでは、このうち「短刀 村正」1振を手にする体験ができます。別室の客間に案内され、特別に手にすることができる、桑名市指定無形文化財「短刀 村正」が登場。短刀も刃紋の表裏揃いが、「村正」らしい作品です。
古くは武家で子女が生まれた際に、魔除けや邪気払いなどから身を守るための「守り刀」として与えられていた短刀
不破さんによる丁寧な解説で、見どころや鑑賞の仕方を教わります。
「鉄の部分は触らず、持ち上げてみてください。光にあててみて『村正』ならではの刃紋やカーブの美しさ、実際の重さなどを体感してみてください」
「短刀 村正」を手にする、貴重な体験
短刀とはいえ、参加メンバーは「本物の刀なので、手にするとドキドキしました」「想像よりもずっしりと重く、歴史を感じた」と、それぞれ緊張気味。
刀は空気に触れると劣化する危険があり、「桑名宗社」でも管理には細心の注意を払っていると言います。
「刀は錆びてしまったら研がなくてはならず、研ぐとどうしても少しずつ形が無くなってしまうため、どうやってサビができないように管理していくかが重要です」
加えて指定文化財である「村正」は、展示できる期間も限られているため、今回の“短刀 村正を手にできる”のは、稀に見る機会。名刀ゆかりの地で、長い歴史を紡いできた「桑名宗社」ならではの貴重な体験になることは間違いありません。
撮影/板橋史裕 取材・文・構成/藤井存希
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