甘口・辛口だけじゃ伝わらない! 外国人の心をつかむ「SAKE」の出し方とは?
近年、訪日観光客をはじめとする外国人の間で、日本酒(SAKE)の人気が高まっています。滞在中に日本酒を飲む人は8割以上。海外への輸出量も右肩上がりで伸びており、日本酒は今や“世界で飲まれるお酒”へと成長を遂げています。そんな中、訪日観光客に最も日本酒を提供する機会があるのが、飲食店です。需要が高まる一方で、その提供の仕方に戸惑う店も少なくありません。外国人ゲストの心をつかむために、日本の飲食店がいま意識すべき“日本酒の出し方”とは――。
高まる、外国人の「SAKE」需要とは?
訪日観光客たちは、どのくらい日本酒に触れ、またどのような日本酒を好むのでしょうか。
需要の高まりとその人気を表す、いくつかの調査結果を基に実態をのぞいてみます。
訪日観光客のじつに8割以上が、日本滞在中に日本酒を飲む
出典:NTTコムリサーチと実践女子大学による共同調査
そもそも訪日観光客のうちのどのくらいの割合が、日本酒に興味を持っているのでしょうか。NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が2017年、最近1年以内に観光で訪日した外国人(アメリカ人・イギリス人が対象)について調査した結果によると、およそ8割以上が「日本滞在中に日本酒を飲んだ」と回答(グラフ参照)し、さらに6割については「酒蔵に行ったことがある」とも回答。
この割合が、“予想よりも多かった”と感じる方もいるのではないでしょうか。もちろんすべての海外旅行客に当てはまるわけではないですが、日本の飲食店が「より深い部分で訪日観光客が日本酒の魅力を求めている」という意識をもつに越したことはないでしょう。
日本での出荷量は減少しつつも、海外での需要は拡大傾向にあり
出典:国税庁「酒のしおり」/日本酒造組合中央会
日本酒の国内での出荷量はあまり楽観できる状況とはいえません。「特定名称酒」についてはほぼ横ばいで推移していますが、日本酒全体の出荷量については減少の一途をたどっています。その推移と反比例するように、海外への輸出量は年々増え続けており、2018年まで9年連続で増加。これらの輸出量の8割を占める輸出先がアメリカ、韓国、中国、台湾、香港。つまり、この5カ国・地域から来る旅行者は、自国でも日本酒にふれる機会が増えているといっていいでしょう。
外国人も習慣的に日本酒を飲み、好みもさまざまである
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出典:FBO研究レポート
2018.9号(NPO法人FBO) -
上の2つのアンケートは、前に述べたおもな輸出先5カ国・地域を中心に取られたもので、「自国で日本酒を飲む頻度」の調査では、なんと85%が「月に1~2回」以上は日本酒を飲むということがわかりました。一方、日本酒の味の好みの調査の回答では、好みのタイプは分散。つまり、外国人といえども日本酒を習慣的に飲む人は増えており、好みはさまざま。一概に、「ビギナー」で「大吟醸が好み」などと決めつけず、提案していくことが重要といえます。
おしえて! ジャスティンさん
ジャスティン・ポッツさん|(株)ポッツ家プロダクションズ CEO日本酒学講師・酒匠・きき酒師
――外国の方の日本酒への関心が高まっているということを、ジャスティンさん自身も感じていますか。
「日本酒のことを知りたい」と海外から僕のことを訪ねてくる方は多いです。僕の仕事の関係もありますが「麹
こうじ」や「発酵」など、ピンポイントで知識を求めている方も増えています。彼らは「本物」を求めて来るから、酒蔵の取り組みや酒造りについて紹介すると興奮しますよ。
――やはり外国の方の日本酒のリテラシーも上がっていると。
もちろん全員がそうというわけではありません。ざっくり言えば、先述の「ピンポイントで知識を求めている人」に加えて、「日本酒全般に興味がある人」「一般の旅行者」の3タイプに分かれると思います。飲食店の方であればこの3タイプを基に、日本酒のプレゼンテーションを判断してもよいかもしれません。
――では、外国人ゲストに日本酒を提供する際、飲食店の方はどんなことを心がけるとよいでしょうか。
まず、ひとくくりで〝外国人〞と捉えるのはやめましょう。多くの国があり、それぞれに食文化の背景があり、それぞれの人に好みもあります。一つのパターンでゲストを満足させるのは難しいです。そのゲストが欲しいものは何かを探ること、その作業を楽しむ姿勢が大切です。例えば、ゲストが注文する料理から、その人のお酒の嗜好を探ってみるのもいいでしょう。だって、「から揚げ」を選ぶ人と「塩辛」を選ぶ人では、好みが違うじゃないですか(笑)。
――外国の方に伝えるべき「日本酒の魅力」とはどんなものでしょうか。
日本酒のよさは、料理一皿ごとのペアリングというより、料理と人が集う空間に合う酒・酒器・温度を好みに応じて選べる多様性だと思います。その一つ一つに店がこだわれば、「ここにしかない体験」を提供できます。訪日観光客は、時間とコストに制限があるなかで、みなそうした体験を求めています。たとえ一軒の店でも、体験が素晴らしければ、「日本酒ってすごい!」という気持ちになってもらうことだってできますよ。
おしえて! レベッカさん
レベッカ・ウィルソンライさん 「新政酒造」国際事業開発ディレクター/日本酒コンサルタント
――最近、外国人の日本酒への関心が高まっていると感じますが、レベッカさんはどう感じていますか。
和食が無形文化遺産に登録され、世界的に和食ブームが続くなかで、それに合うお酒としての日本酒の存在があります。他方、「サステナブル」という考えに代表されるように、世界の食に対する考え方も変わりつつあり、より体にやさしいものが求められている。日本酒は「ナチュラルプロダクト」として、和食とのハーモニーがあり、かつ体にもやさしい。注目が集まるのもうなずけます。
――では、外国人ゲストに日本酒を提供する際、飲食店の方はどんなことを心がけるとよいでしょうか。
お酒の世界で輝くのは、それをつくる蔵元さんと飲むお客さんですが、飲食店は両者の〝アンバサダー〞として、日本酒の感動体験をつくるという重要な役割があります。1杯目はフィードバックをもらい、2杯目で調整するなど、なるべく双方向のコミュニケーションを。また、日本に来てせっかく出合った日本酒を覚えて帰ってもらうためにも、ゲストに銘柄と造られた地域を伝えてあげることも大切です。そうすることで、リピートしたり、日本酒の世界を調べるきっかけづくりができます。
――その「日本酒の魅力」をより正しく伝えていくためには、どんなことを意識すればいいのでしょうか。
私自身、最初に住んだ静岡で、歓迎会で出てきた地酒に感動し、日本酒が好きになり、その土地が好きになり、人生が変わりました。日本酒は「地域の文化を体現したもの」ですから、お酒を提供することは、日本各地の文化を伝えるきっかけにもなります。もしかすると、訪日観光客が日本で地酒を飲み、「その酒がつくられた地域に行きたい」という思いをもつかもしれない。あるいは、私のように人生を変えてしまうかもしれない。提供する方々が日本酒にまず興味をもって、心から「外国の方にこの魅力を伝えたい」と思ってお酒を出していれば、そんなことも起こるでしょう。それは、とてもすてきなことだと思います。
ジャスティンさん&レベッカさんに聞いた!
海外ゲストの心をつかむ「SAKE」の出し方 7ルール
「日本酒の魅力」を外国人ゲストに正しく伝えるためには、どんなことを意識してサービスをすればよいのだろう。ジャスティンさんとレベッカさんが考える、飲食店にできる取り組みを、七つの“ルール”として紹介します。
1.言葉は通じなくとも、気持ちを伝える心意気

ジャスティンさん
例えば、自分が海外でレストランに入ることを想像してみてください。注文した料理にどんなワインが合うのかわからない、そんなとき、ソムリエがニコッとウインクをしてワインボトルを持ってきたら、「自分のために選んでくれた」という気持ちになりませんか?
日本酒を提供するときも同じこと。言葉の壁があっても、ゲストが求めるものを探り、それに応える姿勢をもつこと。「あなたに、とっておきの日本酒があります」という気持ちで提供すれば、日本語を使っても必ず伝わりますよ。
2.「どんな日本酒が好き?」と聞かれるのは、ハードルが高い

レベッカさん
日本酒を飲む機会が少ない外国人にとって「どんなお酒が好きですか?」と聞かれると、〝辛口〞や〝大吟醸〞など、知っている少ない言葉で答えざるを得なくなってしまう場合も多いんです。
そんなときは、ちょっとした違いですが、「どんな味わいが欲しいですか?」と聞いてみてください。さらに、〝爽やか〞〝華やか〞〝穏やか〞〝リッチ〞〝フルボディ〞など味わいを連想しやすいワードを使い、気分にフィットしたイメージを引き出すように会話をしてみるといいでしょう。
3.「飲み比べセット」は、味の差を極端につけるべし

ジャスティンさん
特定の銘柄を求めるゲストならば、ある程度、日本酒の知識も豊富な場合があります。それ以外、つまり「興味はあるけど、よく知らない」ように見受けられる客であれば、「飲み比べセット」で提案するのはいかがでしょうか。
ただし、「古酒」「純米」「にごり酒」くらい極端に味の差をつけてみてください。「これも……これも、日本酒なの!?」と感じてもらうことで、日本酒の味わいの幅、多様性が伝わり、興味を抱く人も多いはずです。
4.日本酒の提供後は、しっかりとラベルを見せる

ジャスティンさん
最近でこそ、イラストやポップなデザインも増えましたが、日本酒のラベルは依然として〝漢字〞で書かれているものが多いですよね。漢字になじみのない外国人ゲストには〝漢字〞は〝絵〞、すなわちイメージやイラストとして見てしまうことも多く、銘柄とラベルが頭の中で一致していないことも多々あります。
ですから、提供したお酒のラベルは、ぜひ、しばらく机に置いておくなどして見せるようにしてください。もし、その銘柄が好きになったとき、スマホで撮影した写真が残っていれば次に日本酒を飲む機会につながります。
5.スマホアプリを会話のきっかけに使ってみるのもアリ

レベッカさん
いまや、世界中のどこでもスマホから欲しい情報にアクセスできる時代。コミュニケーションに自信がない、思うように接客に時間がかけられない、というときには、スマホのアプリに力を借りてもいいと思います。
例えば、「Sakenomy」というアプリならラベルを撮影するだけで、味わいや蔵元、レビューなどの情報が、日本語だけでなく、英語でも見られるというものです。「日本酒のことを知りたい」と思っている外国人にアプリを案内して、コミュニケーションを取るきっかけづくりをするのも、いいですよね。
6.流行りを理由に、ワイングラスを使うのはNG

ジャスティンさん
最近、ワイングラスで日本酒を提供するお店が増えてきました。ところが、海外のゲストからしてみれば「徳利やお猪ちょこ口、升などを使って日本酒を飲む」ことも、日本文化を楽しむ一つの要素に感じる方は、多いのです。一概に「使うな」という意味ではありません。ワイングラスの形状がそのお酒の魅力を引き出す、という強いこだわりがあるのならむしろ積極的に使うべきです。日本酒は、酒器や温度など、提供の仕方にも多様性がある。ぜひ、店のこだわりの提供方法を貫いていってください。
7.「スペック」ではなく味わいやつくり手のことを伝える

レベッカさん
ここでいう「スぺック」とは、“精米歩合”や“日本酒度”、“米の品種”などのこと。日本酒を語るうえではいずれも大事な要素ですが外国の方にはわかりづらくもあります。
とくに“精米歩合”を説明すると、「磨けば磨くほど、雑味が取れてよい酒」という誤解が生まれやすいようです。それよりも、そのお酒がどんな味わいで、どういう料理に合い、どんな人たちがつくっているのかを説明するほうが、そのお酒に対するイメージも湧きやすくなるのではないでしょうか。
プロフィール
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|ジャスティン・ポッツさん
(株)ポッツ家プロダクションズ CEO日本酒学講師・酒匠・きき酒師
アメリカ・シアトル生まれ。メディア・ローカリゼーション、コンテンツパブリッシング、PR、国際ビジネス展開、ブランディングなど多岐にわたる仕事に携わり、2010年より(株)umariにて地方と都会、地方と海外を繋げて食や観光を中心とした日本各地のプロジェクトデザインに関わる。2015年より木戸泉酒造の蔵人として酒造りを行うかたわら、農的な暮らしを実践する「ブラウンズフィールド」にて古民家を活かしたアグリツーリズムを実施。日本各地に数多くの「Sake Tourism」やガストロノミー・ツーリズムのプロジェクトデザイン、プログラム開発、人材育成を行っている。2017年に奥様と娘2人とともに㈱ポッツ家プロダクションズを設立。2022年にOrigami Sakeの創業や製造を携わりしに渡米し、現在は製造責任者として任務。 -
|レベッカ・ウィルソンライさん
「新政酒造」国際事業開発ディレクター/日本酒コンサルタント
ニュージーランド出身。2005年に来日し、日本酒文化の普及と酒蔵のブランド力強化などに取り組む、日本酒コンサルタント。中田英寿氏率いるJapan Craft Sake Companyで国際事業部・輸出事業部長として10年間勤務した。彼女の多様な仕事内容には、日本最大の日本酒文化イベント「CRAFT SAKE WEEK」の開催支援、酒蔵、企業、世界有数のレストランに対する日本酒コンサルティング、ブランド・商品開発、日本酒教育、「Sake Blockchain」技術で保護されたトレーサブルな-5℃の日本酒輸出システムの開発・管理などがある。現在は新政酒造の国際事業開発ディレクターをはじめ、様々な仕事に従事。ドキュメンタリー映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』の主人公の一人として出演。
※こちらの記事は、ヒトサラ加盟店様向けの会報誌に掲載された内容を再掲載しています。情報は取材当時(2021年)のものになります
この記事を作った人
撮影/原 務(レベッカさん)、佐藤顕子(ジャスティンさん) 取材・文/重松久美子、ヒトサラ編集部
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