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更新日:2024.02.02食トレンド

<※移転>弱冠31歳。薪と炭の両刀使いで勝負する日本料理の新鋭|【麻布室井】麻布十番

2022年7月、麻布十番の裏手にオープンしたのが、ここ【麻布室井】。薪と炭の両刀使いで勝負する日本料理の新鋭だ。

※この店舗は閉店し、銀座に移転しています。

麻布室井の土鍋ご飯

    室井大輔さん

    「子供の頃から食べることが大好きでした。」と語るのは、大将の室井大輔さん

早くから料理人になることを夢見ていたという室井さん。中学を卒業後は料理の道をまっしぐら。高校も調理科のある学校を選び、卒業後は神楽坂【石かわ】に弟子入りし、ここで9年間みっちりと修業。その後、更なるスキルアップを目指し、【石かわ】とはまた料理の仕様が異なる神楽坂【紀茂登】で3年間研鑽を積む。

    麻布室井の内観

    白木の清々しいカウンター席は8席。薪火の臨場感あふれる店内は、シンプルながら高級感漂う

室井さん曰く【石かわ】の大将にはホスピタリティの大切さと食材の組み合わせの妙を、【紀茂登】では、素材の持つポテンシャルをかいかにして最大限に引き出すかを学びましたとのこと。だからなのだろう。コースの一皿一皿は、一見、極めて簡潔ながら味わいは深い。

    麻布室井の外観

    麻布十番の住宅街の一角。路地裏に瀟洒な佇まいを見せている

例えば、写真の『白海老煎餅』。なんとご覧の一枚に30gもの白エビを用いているのだとか。ちなみに、白エビは、日本沿岸の深海にのみ棲息する固有種で、大量に漁れる富山湾だけが唯一の漁場となっている。

傷みやすいため、昔は漁場周辺でしか消費されていなかったものが、最近では、冷凍技術や流通網の発達で東京でも食べられるようになったのは喜ばしい限り。高級素材ゆえ、刺身や昆布締めにしたり、揚げるにしても掻き揚げや唐揚げにするのが常套だが「サクッとつまみ感覚で召し上がって頂きたくて、煎餅状に揚げてみました。」とは室井さん。

    麻布室井の『白海老煎餅』

    「富山湾の宝石」とまで称される白エビをふんだんに用いた一品、『白海老煎餅』

揚げたてに歯を立てれば、軽快な歯触りと共に海老本来の香ばしい風味が口中で炸裂、鼻腔に抜けていく。掻き揚げを凌駕するその豊かな香りと凝縮した甘みは、コースの流れの中で、ちょっとしたアクセントとなっている。

    室井大輔さん

    料理長の室井大輔さん。料理へのしなやかな感性が光る

「基本的には、皮目をパリッと焼きたい魚は火力がストレートな炭火で。野菜などのジューシーに焼きたい素材には水分を含んだ薪の火でと使い分けていますが、牛ヒレ肉のように炭火でじっくり火を入れた後、薫香を纏わせたくて薪火でさっと炙ることもありますね。」そう語りながら、白甘鯛の切身を炭火に翳す室井さん。

    麻布室井の焼き物

    上品な脂を身に潜ませた白甘鯛は“シラカワ”とも呼ばれ、大阪の老舗割烹では、昔から好んで使われてきた高級品

築地のクリトモ商店から仕入れたもので、取材日のそれはなんと2.5kgの大物! 室井さん自身も好きな魚の一つだそうで、「白甘鯛自体が本当においしい魚なので、余計なことはせず、シンプルに焼きあげているだけ。」だそうだが、その“ただ焼くだけ”が実は難しい。

    麻布室井の焼き物

    味付けは塩のみ?と思いきや、仕上げに山椒醤油をわずかに合わせ、炒めた黄韮と共に提供する『白甘鯛の焼物』

そう、炭火は手強い。ちょっと目を離せば、脂ののった魚はすぐに黒焦げになってしまうし、遠火で恐る恐る焼いたのでは身がパサパサになる。火の当たり加減を見計らい、火に近づけたり遠ざけたりしつつつきっきりで焼き上げた白甘鯛は、焼き目も香ばしく旨みの躍動感に満ちている。

    麻布室井の焼き物

    炎に怯むことなく炙られたのどぐろは、滴り落ちる自らの脂で立ち上る煙に燻され芳ばしさもひとしお

また同じ魚でも、締めの土鍋ご飯と合わせるのどぐろは、炭ではなく薪の火。その理由を尋ねると「のどぐろの脂には薪の香りがあうから。」との返事が返ってきた。焼き方も大胆だ。その薫香豊かなのどぐろの旨みをしっかり受け止めるのが、鳥取生まれの新品種“星空舞”だ。コシヒカリの流れを汲む米で、星空の名の通り、艶々と美しい炊き上がりと透き通るような甘みが特徴。

    麻布室井のご飯

    「“星空舞”は粒感があり、跳ね返るような食感と冷めてもおいしいところも気に入っています。」とは室井さん

炊き上がったご飯にもより薪の香りが移るよう、蒸らす際に薪を入れるパフォーマンスには、思わず目を見張るに違いない。のどぐろの脂に米一粒一粒がコーティングされたのどぐろご飯は、薪の風味とも相まってインパクトのある味わいを舌に残す。

    麻布室井のお椀

    松茸をふんだんに散らした蟹真薯(しんじょ)のお椀。真薯自体も、つなぎはほとんどなく蟹身のみの贅沢さだ

オープンしてまだ半年足らずながら、既に安定感のある味わいと落ち着きを見せる室井さんは、弱冠31歳。「今後は、ふぐの白子や白トリュフなど、これまで扱ったことのなかった食材にチャレンジしていきたいですね。」と抱負を語る。日本料理のセオリーは決して崩すことなく、薪と炭を自在に扱い創りあげる室井料理に注目したい。

この記事を作った人

取材・文/森脇慶子 撮影/上田佳代子

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