流行る居酒屋のカウンターの高さと、心地よい音域について
いまや日本を訪れる外国人観光客にとってはずせないアイコンとなりつつある「IZAKAYA」。和食と酒と日本文化が凝縮された世界に類を見ない日本が誇るおもてなしを味わえる飲食店のルーツを探りつつ、果たして流行る居酒屋とそうでない居酒屋の理由を筆者が大胆にも考察する。
日本が世界に誇る「居酒屋」の登場!
居酒屋が初めて我が国に登場したのは、あの『暴れん坊将軍』(※1)で有名な徳川吉宗の時代である元文年間(1736年~40年)頃とされている。
場所は江戸B級グルメの聖地、神田鎌倉河岸にあった『豊島屋』という酒屋で、酒と共に焼いた自家製豆腐に味噌をつけた味噌田楽を客に店内で飲み食いさせたのが始まりとされている。
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江戸の昔から、さしみと天ぷらと酒は庶民の人気メニュー
当時は酒を量り売りする店はあったが、料理をつくって食べさせる飲食店がほとんど無かったことと、大きめな田楽が1本2文(50円ぐらい)と格安でコスパが良かったこともあってこの店は大人気となった。特に馬方や駕籠かきに船頭といった当時のガッツリ頂くガテン系の男達に大いに支持され、『馬方田楽』などと呼ばれるようになり、やがて一般の町人や武士までもが列をなして求めたという。この当時から日本人はおいしいモノを食べるためなら並ぶことは厭わなかったわけである。
『煮売居酒屋』の時代から酒に合う肴に違いは無い
この「居ながら飲める酒屋」はその後、江戸中に広がっていき、江戸の後期である文化文政の時代に入ると「煮売居酒屋」といったより手の込んだつまみを出す店が出店し始め、やがて呼び名も「煮売」が取れてあのお馴染みの「居酒屋」となっていったのである。
今やこの「居酒屋」も、「IZAKAYA」と日本文化の神髄とばかりに外国人観光客にも親しまれるようになり、国際化を迎え江戸時代以来の第2の発展期を迎えようとしているわけである。
「居酒屋」取材をして気づいた”流行る店”の秘密
いまや居酒屋の人気メニュー「焼き鳥」は明治になってから登場する
そんなご時世だからか、ここのところ私も仕事で居酒屋を取材をする機会に恵まれている。原稿の締め切りの合間に時間を見つけては、自衛隊の空挺隊よろしく夜の闇に紛れて作戦地区と決めた盛り場に一人落下傘で舞い降り、ほふく前進の気分で看板をよけながらネオン街を彷徨い良さげな赤提灯を見つけては暖簾に突撃している。
ある時はサラリーマンの集う立ち飲み屋。またある時は職人さんと地元のご隠居さんが一緒になって、競馬中継に突っ込みを入れて盛り上がる下町の焼きトン屋など、様々なムードの居酒屋異空間に入り込みロケハン&アポ取りをしている。
時に常連客に囲まれた新参者の私が、まったく迷彩が利かずカウンターの端で浮きまくっては居心地の悪い時もあったりする。それでもそんな空気を打ち破りやおら店のご主人に取材のロケハンであることをおずおずとカミングアウトするのである。
最近そんな居酒屋を何軒も訪れてはおずおずしているうちに、流行る居酒屋とそうでない居酒屋のある違いに気がついたのである。
そのポイントとは「高さ」と「音」である。「あれ!? そこに”味”が無い。やっぱり料理の旨さは大切なんじゃない」と思いの方もいるであろう。しかし現実は旨くても流行らない店があるかと思えば、それほど旨くも無いのにいつも客で賑わっている店もあるものである。そんな不条理への答えがこの「高さ」と「音」にあると勝手に睨んだわけである。
そう、これはあくまでも仮説である。
アノ「高さ」がポイントだった?
カウンターの高さが居心地の良さに影響するはず
まず「高さ」だ。これは値段のことでは無くカウンターやテーブルの高さなのだ。椅子とテーブルとの相対的な高さもあるが、特に立ち飲みにおけるそれは重要と考える。カウンターに体を上手く預けた場合、体重の6割ほども預けているというから、椅りかかり方によっては長時間の場合だと疲れ方も変わってくるというもの。それはそのまま客の店内の滞留時間に関わってくるわけで、売り上げにも比例していく。
カウンターは高すぎても低すぎてもいけないのだ。ではちょうどよい高さとはどのぐらいなのか。それはその人の肘の高さと同じぐらいがいいのではないかと考える。実際に椅りかかると一番楽である事が判る。過度に首と背中が俯くこともなく疲れ難い。すごく単純なことだが客の居心地を左右する大きなファクターと言えないだろうか。
音域と客層との相関関係
その街の喧噪にも音域があるはず
次に「音」。小唄や都々逸など邦楽を演奏する場合の楽器の音や声の調子を表す表現に「乙」というのがあるが、それは低音で落ち着いた渋い音を表し、その反対に女子や若い人の声に多い高い音を表すのが「甲」である。
人の声の音域は2オクターブと言われているが、各店において店内を支配する基準の音域に違いがあるのではないだろうか。よく店内がうるさい店がある。でも自分以外の客は平気で飲み食いしているように見える。同じ音域に集まっている人は煩さを感じないのかもしれない。いやもしろ心地よいのだ。常連客は自分達の音程を知らず知らずに選び集まっているのかもしれない。
「乙」な声のマスターやBGMには「乙」な客が集まるというわけである。低音域の常連客に混じって甲高い往年の大屋政子(※2)さんみたいな声の客がいたら煩いと感じるはずだ。そして逆もしかり。
自分にあった音域を頼りに、飲食店を探すのもまた「乙」なやり方かもしれないのである。
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江戸グルメの舞台となった神田「鎌倉橋河岸」に立ち、往時を忍ぶ
現在は遊歩道として整備されている「鎌倉橋川岸」
※1『暴れん坊将軍』は、1978年(昭和53年)から2002年(平成14年)にかけてテレビ朝日系列でレギュラー放映されたテレビ朝日、東映制作の時代劇シリーズである。主演は松平健。
※2大屋政子: (1920~1999)高い声や派手な衣装で一世を風靡した歌手・セレブタレント実業家・作家。元帝人社長である大屋晋三の妻で実父は元衆議院議員の森田政義。
この記事を作った人
撮影・文/薬師寺十瑛
オヤジ系週刊誌と月刊誌を中心に請われるまま居酒屋、散歩坂、インスタント袋麺、介護福祉、住宅、パワースポット・グラビア編集・芸能そしてちょっと霞ヶ関と節操無く取材・編集・インタビューに携わる日々を送る。現在、脳が多幸を感じる食事や言葉に注目中。
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