梅雨明けにお勧め。旬の雲丹や鮑を盛った、車浮代の「江戸の変わり飯」レシピ三品
時代小説家で江戸料理・文化研究家の車浮代さんに、現代人が忘れてしまった江戸の素朴で豊かな食事情を教えていただく第二弾。梅雨明けのこの時期にお勧めしたい、旬の食材を使ったご飯物のレシピ三品をご紹介します。ごゆるりとお愉しみくださいませ。
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風味豊かな「塩雲丹」でいただく『雲丹(うに)粥』
鮑の肝の味噌和えが珍しい『鮑(あわび)飯』
明の高僧・隠元禅師の名を冠したいんげんが爽やかな『ぎばめし』
文月のこの季節にお勧めの「変わり飯」三品をご紹介
七月に入り、お中元のシーズンを迎えました。
お中元や土用見舞い(暑中見舞い)が大衆化したのは、江戸時代からです。
人気が高かったのは、背開きにした塩漬けの鯖「刺鯖(さしさば)」、新里芋、素麺、葛、干菓子、氷菓子(氷砂糖)、水菓子(果物)など。
お中元で今も人気の素麺ですが、当時の素麺は長寿祈願のために、油を塗って伸ばした後、切らずにくるくると丸めて乾燥したものが売られていました。
現在は、富山県砺波(となみ)市の「大門素麺(おおかどそうめん)」に、当時の名残を見ることができます。
さて今回も、文月のこの季節にお勧めの「変わり飯」三品をご紹介致します。
梅雨明けに、旬の雲丹(うに)や鮑(あわび)を使ったご馳走ごはんで、気分を盛り上げてみませんか?
『雲丹粥(うにがゆ)』
生の雲丹を塩漬けにしたものが「塩雲丹」です。雑炊にはこの「塩雲丹」がうってつけ。生でいただくより風味が増しますし、保存が効くので便利です。
生雲丹、出汁昆布、九条葱、揉み海苔
■材料(二人前)
生雲丹…1箱(100g程度)
塩…大さじ2/3
米…1合
水…1L
出汁昆布…15㎠程度
塩…少々
九条葱…少々
揉み海苔…少々
■作り方
1)土鍋に水と出汁昆布を入れてふやけさせておく。米は洗ってざるに上げ、水気を切っておく。
2)バットにペーパータオルを敷き、雲丹をスプーンでそっとすくい、間隔を空けて並べる。
3)30cmぐらいの高さから、2)に、まんべんなく塩を振り、水気が出るまで10分ほど置いてから、ラップをして冷蔵庫に入れ、15分以上置く。
※「塩雲丹」を長期間保存する場合は、ペーパータオルを時々入れ替えながら3時間程度冷蔵庫に入れ、煮沸して乾かしておいたビンに詰めておくと、冷蔵庫で1週間程度保存可能です。
4)土鍋から出汁昆布を取り出して洗米を入れ、少しずらして蓋をし、強火にかける。沸騰したら弱火にして30分ほど炊き、塩少々を加える。
※ふやけた出汁昆布は一口サイズに切り、酢に漬ければ酢昆布としていただけます。
5)炊きあがったお粥に3)の塩雲丹を乗せ、揉み海苔をかける。
『雲丹粥』
縄文時代から食べられていたとされる雲丹は、昔から「海栗」「海胆」「宇仁」など、さまざまな漢字が当てられていました。
「雲丹」の字が使われるようになったのは江戸時代からで、精巣と卵巣を取り出し、塩漬けにした状態を見て、「雲のようにモヤモヤした、丹色(にいろ)のもの」という見かけから、「雲丹」という漢字が当てられたようです。
ちなみに現在では、内臓がついて生きている状態のものを「海胆」、生であろうが火が通っていようが、加工されたものを「雲丹」と書き分けています。
塩漬けの「雲丹」は当時から高級食材で、地方から藩へ、藩から幕府への献上品としても珍重されていました。明治に入ると、アルコール漬けの雲丹が作られるようになり、瓶詰め商品として流通し始めました。
現在、瓶詰めで販売されている雲丹の多くは、純度の高いエチルアルコールで鮮度を保ち、明礬(みょうばん)で型くずれを防いでいます。
できれば自家製塩雲丹のシンプルな味わいを試していただきたいですが、面倒な場合は、瓶詰めの雲丹でもお作りいただけます。瓶詰めの雲丹はアルコール臭が苦手で……という方も、粥の熱でアルコール分が飛ぶので、あまり気にならなくなります。
『鮑飯(あわびめし)』
『料理物語』の「鮑腸和え(あわびわたあえ)」をアレンジ。鮑の肝の味噌和えを使った、珍しい変わり飯です。熱い出汁をかけることで、味噌が溶け、鮑が適度に柔らかくなります。
鮑、味噌、鰹出汁
■材料(二人前)
・鮑…中1個
・味噌…大さじ2
・温かいご飯…2杯分
・鰹出汁…300ml
・塩…少々
・醤油…小さじ1
・山椒の水煮…適量
※江戸甘味噌を使うと、より江戸の味に近づきます
■作り方
1)木しゃもじに味噌を塗り、火であぶって焼き味噌を作る。
2)鮑は塩(分量外)で磨いて殻から外し、口を切り落として、身と内臓を分ける。
身は薄切りにし、肝とヒモはぶつ切りにして1と練り合わせる。
3)ご飯の上に薄切りにした鮑を並べ、2を乗せ、温めた鰹出汁を回しかけて味噌を溶かす。実山椒をまぶしていただく。
『鮑飯』
昔から鮑は貝の王様で、縁起が良いものとされていました。
他の貝に比べて調理法も多く、江戸初期に書かれた『料理物語』には、「かひやき にがひ すがひ さしみ かまぼこ なまび ふくら煎 まぶすま なます たたき鮑 わさびあへ」と多彩です。
また、「ながれこ。なしものに。ふくため共。とこふしともいふ」と、鮑の別称についても書かれており、当時の人々も鮑とトコブシ(ながれこ)を混同していたことがわかります。
トコブシは成長しても十二cm程度ですが、現在でも小さい鮑とトコブシを見分けるのは難しく、陸揚げされてしまえば、素人目にはほとんど区別がつきません。
最も顕著なのは貝殻に空いた孔の数で、鮑が四〜五個なのに比べ(ただし国産種のみ)、トコブシは六〜九個あります。
これは成長度の違いで、孔の数は年輪のようなものなので、まだまだ大きくなる鮑は、孔の間隔が広いというわけです。
また『料理物語』には「くし鮑(干し鮑)」の調理法も掲載されており、「汁 煮物 けづり物 色々に吉」とある上、「のし たんざく もみのし 結びのし」といった加工品にも、鮑が使われていたことがわかります。
現在熨斗に使われている、半透明で細長く黄色い紙は、かつては鮑の身を細く切り、打ちのばして乾燥させた「打ち鮑」が使われていたのです。
戦国時代、「打ち鮑」と「搗ち栗(=勝ち栗)」と「昆布」は、戦の前の出陣式と、戦勝を祝う凱旋式には欠かせない食べ物でした。
「敵に打ち、勝ち、喜ぶ」という語呂合わせです。
その後も鮑は、鯛や伊勢海老と並んで祝い事には欠かせない食材だったため、いつでも用意できるよう、幕府が管理していた日本橋の「活鯛(いきだい)屋敷」という巨大な生け簀で、
常に飼われていました。
『ぎばめし』
~「料理早指南」より~ 茹でたさやいんげんを切り、塩をまぶして混ぜただけのシンプルな一品。春菊やアスパラガスなど、いろいろな青物で代用できます。
さやいんげん、塩
■材料(二人前)
さやいんげん… 6本
温かいご飯…2杯分
塩…少々
■作り方
1)さやいんげんは両端を切り、塩(分量外)を入れたお湯で1分半茹で、小口切りにして塩を振って揉む。
2)1を温かいご飯と混ぜて、茶碗に盛る。
『ぎばめし』
明の高僧・隠元禅師の名を冠した隠元豆は、承応三年(一六五四年)に渡来した際、煎茶・西瓜・蓮根などと一緒に持参した、とされています。
隠元禅師は、京都の宇治に黄檗山(おうばくさん)万福寺を開いたことで有名で、四代将軍・徳川家綱の信頼も厚く、当時の日本に、最先端の明国の文明をもたらした功績は計り知れません。
享保十九年(一七四三年)に書かれた『本朝世事談綺』の「隠元」の項に、「隠元禅師大明より持ち来ると言ふ」とあります。
渡来した当初、隠元は中の豆を成長させて食べておりましたが、正徳二年(一七一二年)に刊行された『和漢三才図会』の「隠元」の項に、「(豆が)若い時に煮て食べる。柔らかく甘美である」と書かれていることから、江戸中期以降にはさやごと食べられていたことが分かります。
取材・文/車浮代
時代小説家/江戸料理・文化研究家。著書に『江戸の食卓に学ぶ』『江戸おかず12ヵ月のレシピ』、ベストセラーとなった『春画入門』『蔦重の教え』、新刊に『春画で学ぶ江戸かな入門』など多数。TV・ラジオ、講演等で活躍中。国際浮世絵学会会員。http://kurumaukiyo.com
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