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更新日:2019.11.01グルメラボ

【日本橋蠣殻町すぎた】杉田孝明氏インタビュー ~料理人も認める予約困難な鮨店~

”今、もっとも予約が取れない鮨屋”とささやかれてる、【日本橋蛎殻町すぎた】。その人気の理由は、つまみや鮨のおいしさもさることながら、舞台のようなカウンター内で一貫一貫想いを込めて握る杉田さんの美しい所作、そしてゲストがいつの間にかリラックスしてしまう空気感にもある。世界中にファンを持つ鮨職人は何を思って鮨を握るのか。その秘密に迫った。

【日本橋蠣殻町すぎた】杉田孝明氏インタビュー ~料理人も認める予約困難な鮨店~

テレビドラマと、鮨を食べる子供の笑顔で決めた自分の進路

――鮨職人になろうと心に決めたのはいつ頃でしょう? きっかけは何ですか?

 きっかけは、ちょっとミーハーなんですが、テレビドラマです。私が中学一年生の頃、NHKで放映されていた「いきのいい奴」。確か「神田鶴八」のご主人師岡幸夫さんがモデルだったと思うのですが、小林薫さん演ずる鮨屋の主人の、鮨を握る時の手の動きや所作に惚れ惚れして。それと、曲がったことは大嫌いな一本気な生き様、そこにもぐっときました。

 決定的なきっかけは高校生の時。友人の代打で鮨屋のアルバイトを任されるはめになったんです。千葉の駅前ビルにある大衆的な鮨屋でしたが、面接の帰りにカウンターで握りたての鮨を食べた時は、感動しましたね。

 またある日鮨を食べている子供がとっても幸せそうな顔してるのを見たときに“ああ、鮨職人は人を幸せにできる職業なんだ”と思い、鮨職人になろうと、はっきりと決めたんです。性格的にも人を楽しませることが好きなところがあるので、鮨職人にはきっと向いていたんだと思います。

    青魚の扱いにかけては定評のある杉田さんの十八番の一つ『小肌』。大きさや皮の薄さによって切り方をかえている。酢と塩加減の調節も絶妙だ

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――修行先を【都寿司】にした理由は大変だったことはなんでしょうか?

 鮨を学ぶなら、やはり東京がいいとは思っていましたが、特に目当ての店はなくて、高校の求人広告を見て決めました。でも、実際にお会いしてみると【都寿司】の親方の人柄が素晴らしくて。信念があり、堂々としていて温かみがある。私が、今、こうしていられるのも、全て親方を手本としてきたから。本当に感謝しています。

 でも、先輩の板前に1人とても厳しい方がいましてね。昔の職人でしたから、結構理不尽なことで怒られる。正直、しんどかったですよ。とはいえ、腕は良かったし、技術的なことを教えてくれるのはその人だったので頑張りました。どうすれば怒られずにすむか考えながら仕事をするようになりましたね。おかげで、忍耐力、先読みをする知恵、段取りの仕方などかなり鍛えられました。【都寿司】で12年間お世話になったうちの5年はその先輩の下で働いていました。今から思えばその経験が店作りに役立っていますね。

    鮨ネタの中で杉田さんが最も愛着を持っているのが『鯵』。旬の夏はもちろん、年間を通してベストな産地のものを選んでいる

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不器用だからこそ気づけた、いい組織作りの大切さ

――店全体のチーム力がいいというゲストの声がありましたが、このチーム力というのはどのようにして養われましたか?

 そう皆さんに思って頂けて、本当にありがたいですね。私自身、不器用でしたから、一人では何もできないということを昔から身にしみていました。

 現在、うちでは若い子が四人働いていますが、彼らを一人前に育てるには、やはりそれなりの厳しさが必要です。もちろん、昔のように手は出しませんよ。正直、出来る子もいれば、上達の遅い子もいる。でも、大切なのは人を喜ばせたいと思う気持ち。それさえ、心の軸として持っていれば、技術的なことは後からついてくる。私がお客様に幸せになって帰ってもらいたいと思う気持ちを彼らも持てるように話をします。それさえ理解できれば、自分達が今何をやるべきか自発的に考えるようになっていくと思います。それが自然と店の一体感になっているのでしょうか。

    薄くスライスしたしめさばを、大葉とアサツキ、ガリで海苔巻きにした人気の定番おつまみ『さばの海苔巻き』

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――海外の方々にも広く知られているすぎたさんですが、今後の展望は?

 海外のお客様が増えてはいますが、特別なことをしているわけではないので、なぜうちにいらっしゃるかは正直わかりません。先日もスペインに招致されて現地の魚も交えて鮨を握ってとてもいい経験をしました。けれど、今後も積極的に海外に目を向けるか、というと、“自分でなければならない”理由がない限り意識はしませんね。

 むしろ、今よりもっと説得力のある鮨を握りたい。それには自分の中で掘り下げていかなくてはいけない点もまだまだあると感じています。米や魚の採れる場所や性質についてなど、素材についてより深く知る努力をしたいと思っています。流行りではなく普遍的な価値があり、そして多くの人が店を後にしたときに幸せな気持ちになる。そんな店になれれば、本望です。

この記事を作った人

撮影/今清水隆宏 取材・文/森脇慶子

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