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更新日:2019.02.28食トレンド

<※閉店>記憶に残るペアリング体験を提供【GEM by moto】|日本酒界のカリスマ・千葉麻里絵さん

愛飲家からラブコールを送られる日本酒界のカリスマがいる。恵比寿にある【ジェムバイモト】の店主、千葉麻里絵さんだ。他のお店とは一線を画す日本酒のラインナップや提供方法が話題を呼び、予約が取りにくいほどの人気店に。そんな【ジェムバイモト】の魅力に迫る。


※このお店は閉店しました。

ジェムバイモトのハムカツ

酒を飲む――この“飲む”という行為が“記憶に残る体験”にかわる不思議なお店がある。

東京・恵比寿駅から10分ほど歩いた住宅街に店を構える日本酒バー【ジェムバイモト】。ここにいるのは日本酒愛飲家のみならず、料理人からも一目置かれる女性、店主の千葉麻里絵さんだ。

客との会話の中で好みをピタリと当て、ただおいしいだけではない様々な飲み方を提案してくれるのだ。その“提案力”ときたら、驚きの連続である。

    千葉さんを囲むように設置されたコの字型のカウンターは全11席

    千葉さんを囲むように設置されたコの字型のカウンターは全11席

鮮烈な記憶として残る、ペアリング体験

一般的に“ペアリング”といえばお酒と料理のマッチングのことを指すが、千葉さんにとってペアリングとは、ただ料理にお酒を合わせるという概念だけではなさそうだ。

ハムカツにはソースではなく、“○○”を合わせる

例えば、店の人気商品『ブルーチーズハムカツ』。ハムカツにはソースをかけるのが一般的だが、ここでは違う。ソースの代わりにどぶろくを合わせるのだ。

    左から『ブルーチーズハムカツ』、『とおののどぶろく(水もと)』

    左から『ブルーチーズハムカツ』、『とおののどぶろく(水もと)』

ソースのかかっていないハムカツを一口頬張り、すかさずどぶろくを飲むと、まるでソースをかけたかのような味わいに変わるのだ。なんとも不思議である。

「ブルーチーズの酸味とハムの塩気を、岩手・民宿とおのの『とおののどぶろく(水もと)』がもつ米粒由来のミルキーな甘みとガスでキャッチする。油ものを流し込むのではなく、味をかぶせることでブルーチーズハムカツの味を完成させます」

なるほど、どぶろくの甘さがソースのもつまろやかな甘みの役目を果たしているということか。料理と一緒に楽しむだけでなく、酒を合わせることで料理を完成させる。従来のペアリングとは異なる概念にハッとさせられる。

生胡椒×スパークリング日本酒で“○○”を演出

また、とても印象的だったのが夏に訪れた際に供されたこのペアリング。目の前に出されたのは、発泡日本酒と生胡椒。お酒に胡椒を溶かすのかと思いきや、「胡椒を1粒食べたら、日本酒をぐいっと飲んでください」と千葉さん。

    左は発泡日本酒、瓶に入っているのは生胡椒。夏にオススメのペアリング

    左は発泡日本酒、瓶に入っているのは生胡椒。夏にオススメのペアリング

最初に胡椒をかみ砕いたら、口の中が辛さで麻痺してしまうのでは……?と不安に思ったが、言われるがままに生胡椒をかみ砕く。

ぱっと口中に辛みが広がったところで、間髪入れずに発泡日本酒を口に含む。すると、不思議なことに一瞬にして胡椒の辛みは姿を消し、残ったのは日本酒の甘みだった。


「スパイスは瞬間的に口に広がりますが後は引かないので、日本酒の繊細さを損なわない。この“花火”のような一瞬の驚きを体験してほしかったのです」

まさに、打ち上げ花火、といったところか。

    カウンターのほかにもソファー席の個室もあり

    カウンターのほかにもソファー席の個室もあり

このように、千葉さんの手にかかれば“酒を飲む”という行為が感動の体験になり、鮮明な記憶として残る。それは飲むという行為を超えたもので、お店に行って体験してもらうしかなさそうだ。

千葉麻里絵さんの人物像、そして日本酒への熱き想い

大学生のときにアルバイトをしていた居酒屋で接客の魅力にはまった。将来はその道に進みたいと思っていたが、まずは3年間別の業種で働いてみて、それでも飲食業に進みたいと思いが消えなかったら戻ろうと思っていた。大学卒業後、SEの道に進むが3年経っても思いが消えず、飲食業の道へ。

    店主の千葉麻里絵さん

    店主の千葉麻里絵さん

飲食業界の中で、なぜ日本酒の道を極めたのか。

「アルバイト先がたまたま日本酒店で、実家が米農家だった。米に馴染みがあり、その米から(熟成酒をのぞいて)見た目が透明な液体でいろんな味わいの酒ができることに感動を覚えた。それからはどんな人がつくっているのが気になり、蔵元へ足を運ぶようになった。つくり手の想いを感じ、これをお客様に伝えるのが自分の使命だと感じた」

そんな使命を抱き、日本酒をよりおいしく飲んでもらうために千葉さんは新たな挑戦をはじめた。

氷温庫を特注し、店内に設置

マイナス5℃の氷温庫で日本酒を熟成させる、1坪大のウォークイン氷温庫を店内に設置した。「飲食店ではうちが初めて。つくるのは大変でした」

    マイナス5℃とは酵素の働きが止まる温度。酸化を防ぎながら日本酒をゆっくりと熟成させられるのだ

    マイナス5℃とは酵素の働きが止まる温度。酸化を防ぎながら日本酒をゆっくりと熟成させられるのだ

大きな設備投資の上、蔵とは違い店全体を冷やすわけにはいかない。そのため結露が絶えず、思うような氷温庫がなかなかできなかった。

「それでも、氷温熟成庫があれば店で日本酒を熟成させられる。自分の思い描く日本酒がつくれるし、日本酒の可能性をより広げたかった」

一升瓶ではなく四合瓶で提供

飲食店では一般的に一升瓶で取り扱われる日本酒だが、【ジェムバイモト】では四合瓶で提供している。

「一升瓶に比べて四合瓶のほうが栓を開けてから劣化するまでのリスクが低いから。繊細な飲み物なのでいつ開けてどのくらいのタイミングで飲むかで味が変わる。日本酒はそれくらいデリケートな飲み物」

    「若い女性なら一升瓶よりも四合瓶でスマートに飲んでいる方が絵になるし、店に入りやすい」。そんな視覚的な仕掛けにもなるという<br />

    「若い女性なら一升瓶よりも四合瓶でスマートに飲んでいる方が絵になるし、店に入りやすい」。そんな視覚的な仕掛けにもなるという

「日本酒をどこで飲んだかによって人生観が変わる。一升瓶で残ってしまうよりも、飲みきりサイズの四合瓶で出した方がお酒も飲む人も幸せだから」

一升瓶の生産が多い日本酒。今後、四合瓶の生産が増えれば海外の展開も広がり、日本酒の展開も広がりをみせる。

「世界基準で考えれば四合瓶はワインと同じサイズ。海外展開を考えるなら、四合瓶が増えるほうが今後の日本にとっても望ましいこと」と千葉さんは語る。

    京都にある器専門店「今宵堂」にオーダーしたオリジナル酒器

    京都にある器専門店「今宵堂」にオーダーしたオリジナル酒器

ひとつひとつの日本酒に真摯に向き合い、もっともおいしい状態で提供する。

その姿に愛飲家のみならず、同じ料理人からも一目置かれ、(良い意味で)“日本酒の変態”とも称される千葉麻里絵さん。彼女の魔法のペアリングにぜひ一度、かかってみてほしい。

【GEM by moto】
住所:東京都渋谷区恵比寿1-30-9

※このお店は閉店しました。

この記事を作った人

撮影/中込 涼 取材・文/嶋亜希子(ヒトサラ編集部)

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