パリで今一番行きたい店【MAISON】。渥美創太シェフの新しい一軒家レストランに行ってきた!
フランスのレストランガイド「ル・フーディング」で最優秀ビストロ賞をとるなど、新進気鋭のシェフとして注目をされてきた、渥美創太シェフ。2017年末から準備を重ねてきたレストラン【メゾン】が、この9月にオープンして話題になっている。メゾン=家という名前に相応しい、パリ11区の路地にある隠れ家、一軒家というステージだ。パリにありながら、大地に根ざした志のある料理を、温かでかつエネルギーあふれる空間で展開する。
フランスの芳醇な大地の食材が、日本人、渥美創太シェフの感性によって呼び覚まされる
亡きジョエル・ロブション氏を感動させ、かつての吉野建氏によるレストラン「ステラ・マリス」でも働いていた渥美創太シェフ。フランスのクラシック料理をしっかりと習得した彼が世界的に注目されるようになったのは、【クラウン・バー】のシェフに就任してからだ。その料理は、フレッシュな食材を、研ぎすまされた五感で重ね合わせる、既存のフレンチにはない驚きあふれる料理だった。ワインバーに併設された小さな厨房でつくられる、その驚きに満ちあふれた料理は、料理業界だけでなく、さまざまな業界のクリエーターたちの心もつかみ、就任した翌年の2015年には、新進気鋭の若手シェフたちを輩出するレストランガイド「ル・フーディング」で最優秀ビストロ賞を受賞。渥美シェフは、パリのグルマンたちが注目するシェフとなったのだ。
オープンするまでの1年半は、世界中でイベントを仕掛け、感性をさらに磨いた。キッチンのスタッフは、皆、渥美シェフに同行して働き、その時を分かち合ったからこそ、スクラムが感じられる
その彼が、新しいスタイルのレストランを開く――。2017年末、渥美創太シェフが【クラウン・バー】を辞め、自身の店をオープンすることに決めたという話題は、パリ中を席巻した。
この、人生の挑戦に導かれたのきっかけは、2017年10月、約300㎡ある一軒家の現場所にシェフが出合ったこと。この一目惚れした一軒家を、渥美シェフは、親交のあった国際的な気鋭の建築家としてパリを拠点に活躍する田根剛氏の力を借りて、もともとあった空間を大改装することにした。
通りに大きく開いた窓、メザニン、上階に導かれる階段など、すべてシェフのイメージ通りに実現している。【クラウン・バー】の小さなキッチンから解き放たれた大舞台となったのだ。
2階がダイニングルームになっており、1階は食前食後にくつろげるサロンに。全体がテラコッタタイルに覆われている
特に印象的なのは、空間全体を覆うテラコッタタイルだろう。「素材の力をそのままに皿に乗せる」料理に取り組む姿に呼応する空間の素材として、田根剛氏が選んだのはテラコッタだった。テラコッタは、イタリア語で、焼いた(Cotta)土(Terra)に由来する言葉。四角形の角を落として六角形とする手作りのテラコッタタイルは、産業革命以降の時代に失われつつあったが、女性労働者たちが守り抜いたという、手のぬくもりの象徴でもある。アンティークのテラコッタタイルをフランス中から2万枚以上も集めて、全体を覆い尽くした空間は、「竃がイメージです」という渥美シェフの思いを、見事表現している。
フランス伝統料理を極めた上で、斬新な"今"の料理を生み出していく
斬新に組み合わせた、旬の素材の味わいや食感を楽しめる3種類のタルトレット
フランスという大地と、それを守る生産者から生まれる食材の豊かさを、お客さまにそのまま届けたい、楽しんでもらいたいというのが、渥美シェフの思い。すべての料理は、色彩をのせるキャンバスのように、真っ白の皿に供されて、そうした渥美シェフの思いを引き立てるようだ。
アミューズ1皿目は、3種類のタルトレットだった。ローストした甘い赤いタマネギとエシャロットのクリームの上に、ヘーゼルナッツと薫製したリコッタを細かく削って乗せた、軽やかなうまみの塊のような一品。アンチョビ風味のマヨネーズで和え、胡麻を散らした、食感の良いミニトウモロコシ。潮味もあるワタリガニのソースを吸ったふくよかな白インゲン豆。旬の素材の新しい顔を、さまざまな食感や香りで発見させてくれる楽しさを、ミニサイズでありながらダイナミックに展開する。その感性は健在だ。
トマト水でセビーチェ風に仕立てた、大西洋産のマグロ
アミューズの2皿目は、トマト水で仕立てたマグロのセビーチェ風。ミニライムとエストラゴン、ケッパーをちりばめ香り高さをプラスしながら、ジュニパーベリーをきかせたフレッシュクリームソースも添えている。赤みのしっかりとしたマグロに、さまざまな酸味や苦味がうまみとともにからみあい、食欲をかき立てられるよう。アミューズとして申し分のないこの2皿でコースが始まった。
料理人から信頼の厚いランジス市場の魚屋と懇意に。一本釣りの、大ぶりのヒメジが手に入った
大ぶりのヒメジは見た目も立派だ。魚屋との信頼関係が育っていないと、なかなか手に入る素材ではないし、そのしまった肉質をそのままに表現し、甲殻類のような肉厚な味わいを引き出す、絶妙な火入れにも感服してしまう。芋セロリのピュレ、フダンソウを添え、魚の皮と骨からとった出汁のバスク地方由来のピルピルソースですべてを絡めた、王道の一皿である。
鴨肉とフォアグラのパイ包み『ピチヴィエ』は、渥美シェフの昔からのスペシャリテ
メインの締めは、渥美シェフが昔からスペシャリテとして必ず供してきた、鴨肉とフォアグラのパイ包み『ピチヴィエ』だ。鴨料理で知られる、フランス料理店の殿堂【トゥール・ダルジャン】でも昔から扱うマダム・ビュルゴーの鴨を、渥美シェフも使う。口当たりのきめ細やかさ、芳醇な油の香りは他と一線を画している。その味わいをフォアグラとともにパイの中に閉じ込めて、料理の締めくくりに相応しい。渥美シェフが、フランス伝統料理をも極めた上で、斬新な今の料理を生み出していることを語るメッセージにも思えてくる。
バジリコのアイスクリームやオイルが、洋梨を視覚、味覚で鮮やかに引き立ててくれる
旬の素材を生かしきるという哲学は、シェフ・パティシエの小林里佳子さんがてがけるデザートにまで流れている。ヴェルヴェーヌでポシェした洋梨を主役に。洋梨の中には、アニス風味のクリームを隠し入れており、バジリコのアイスクリームとその風味のオイルがフレッシュさを演出。まるで緑あふれる庭の一角のような佇まいだ。
こうした料理群は、是非おすすめのワインとともに味わってほしい。渥美シェフとソムリエたちが、地に根ざしてワイン造りをしている醸造家から仕入れたワインだけを扱い、またペアリングも、毎日の仕入れによって異なる、渥美シェフの作る料理に合わせてセレクト。たとえグラスワインであっても、お客の好みの要望に合わせても選んでくれる。スタッフたちの隅々まで行き届いたサービスも、くつろげる時間を約束してくれる。また、すべての皿に添えられるパンもバターも、スタッフが作る自家製だったということにも感動が。店は始まったばかり、渥美シェフの思いとスタッフによって、大きく育まれていくだろう。
MAISON
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住所: 3 rue Saint-Hubert 75011 Paris
電話番号: 01.43.38.61.95
営業時間:12:30~14:00、19:30~21:30
定休日:月・火曜休み
撮影/吉田タイスケ 取材・文/伊藤文
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