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更新日:2024.05.03デート・会食

薪焼き和食のパイオニアが、よりブラッシュアップしてリスタート【鈴田式】|麻布十番

令和元年のオープン以来、薪焼き和食の先駆けとして根強い人気を博してきた【鈴田式】。麻布十番の外れで多くフーデイらを虜にしてきたこの話題店が、地域の再開発のため、惜しまれつつ店を閉じたのは2023年6月のこと。それから半年間の充電期間を経て、2024年の1月9日、西麻布の地で新たな一歩を踏み出した。

黒毛和牛ヒレ肉飯蒸し

「麻布時代に比べて店は倍以上の広さになり、席数も2つ増えて8席とお客様にゆったり過ごして頂ける空間になりました。でも、コースの内容自体は、あえてあまり変えてはいないんですよ。」

炉窯に薪を焚べながら、こう語るのは田代秀人料理長、37歳。その言葉通り、先附からデザートまで全13品ほどが登場するお任せコースには、『椎茸薪焼き』や『黒毛和牛ヒレ肉飯蒸し』など同店ならではのシグネチャーメニューも健在だ。それも「これが食べたかったんだよね。」と頬を緩ませるお客様が多いゆえ。旬の食材を積極的に取り入れるコース内容は月々で変わるものの、この2品だけは永久不滅。【鈴田式】の顔とも言える自信作だ。

    【鈴田式】内観

    炉窯でゆらめく薪火の見える、カウンター席

とりわけ、『椎茸の薪焼き』は【鈴田式】の料理のコンセプトを象徴する逸品といってもいいだろう。同店の薪焼きの大きな特徴の一つは、熾火ではなく炎に翳して焼くところにある。それというのも「薪の香りをいかにして素材に纏わせるか」に注力してのことだ。そう、【鈴田式】の薪火料理は、全てそこから始まっている。

    『椎茸の薪焼き』。傘に詰めているのは、椎茸と塩のみを真空にして1週間ほど寝かし、発酵させたもの

    『椎茸の薪焼き』。傘に詰めているのは、椎茸と塩のみを真空にして1週間ほど寝かし、発酵させたもの

それゆえ、香りが纏わりやすい食材を選び抜き、時には油脂を塗ることで纏わりやすくするなど様々な試行錯誤の上に完成させたものばかりだ。

例えば、先の椎茸にしても各地方の原木椎茸で試作を重ね、その上で最も香りの乗った岩手県の“ふくよ香”を使用。更にはそのまま焼くだけなく、より薫香を纏わせ旨みも凝縮するよう一工夫。椎茸の旨みを抽出した米油を塗って焼いているのだ。ステーキドームを被せて煙を滞留させるのもそのため。“香り”がこの料理の要となっている。が、新店ではそれをよりバージョンアップ! 発酵させた椎茸をペースト状にして傘の内側に詰め、蘇を削りかけて提供している。この“蘇”とは、古代日本で作られていた乳製品の一つ。牛乳を煮詰めて固めたものだ。

    ご主人の田代秀人さん。充電期間中はイギリスなどヨーロッパに赴き知見を高めてきたとか

    ご主人の田代秀人さん。充電期間中はイギリスなどヨーロッパに赴き知見を高めてきたとか

なるほど、メニューの構成自体はほぼ以前と変わりはないが、実は田代料理長、細かなところで少しずつブラッシュアップさせていた。それは『黒毛和牛ヒレ肉飯蒸し』も然り。A4ランクの雌牛を基準にサシのなるべく少ない赤身寄りのヒレ肉を選ぶ方向性は以前と変わりはないが、味付けに一捻り。従来の割り醤油に、ひしおと玉ねぎを合わせて作った発酵玉ねぎを加えてコクを深めているのだ。

    これを目当てに訪れる常連客も多い『黒毛和牛ヒレ肉の飯蒸し』。下に敷いた餅米には山菜を混ぜている

    これを目当てに訪れる常連客も多い『黒毛和牛ヒレ肉の飯蒸し』。下に敷いた餅米には山菜を混ぜている

「炉窯も一台増えて2台になり、その分、火の調整がしやすくなりました。」とは田代料理長。現在は、野菜と肉とにそれぞれ使い分けているが、今後は炭も取り入れて、片や炭火用、もう一方を薪焼き用と分けて使うことも視野に入れているという。

また、この3月からは、ヒレ肉を焼く時のみ、希少なリンゴの木を焚べているそうで、このリンゴの木、火力の持続力が強くフルーティーな香りが特徴だとか。肉の焼き方にも年季が入った。

    味付けを更に一工夫した、シルキーな口当たりのシグネチャーメニュー『黒毛和牛ヒレ肉の飯蒸し』

    味付けを更に一工夫した、シルキーな口当たりのシグネチャーメニュー『黒毛和牛ヒレ肉の飯蒸し』

薪火と付き合って6年、炎の調節も以前に増して自在になった。最初は直火の強火で肉の中心温度をあげ、次に近火にして表面に焼き目をつける。こうして外側を焼き固めたら、少し休ませ、裏目を遠火の強火で焼きあげると共に、高さも変えつつ中心までじんわりと火を入れている。狐色の焼き色も香ばしく、口にすればしっとりとシルキーな舌触りの中、じわりと滲み出る肉汁がしみじみと旨い。餅米に混ぜた山菜の春の香りがよく似合う。

    大きなザルで豪快に炙り焼くほぐした蟹の身とモリーユ茸。田代さん曰く、ヨーロッパの茸はとりわけ薫香を纏いやすいそう

    大きなザルで豪快に炙り焼くほぐした蟹の身とモリーユ茸。田代さん曰く、ヨーロッパの茸はとりわけ薫香を纏いやすいそう

この後、蛤と芹、筍のお椀や真鯛のお造りなど季節の味が続いた後、いよいよクライマックス。〆の土鍋ご飯のお目見えとなる。

取材日は、『蟹とモリーユ茸の薪焼きご飯』。田代料理長によれば、甲殻類や茸類は薪との相性がいいそうで、今回はまさにベストカップル。甲殻類の殻を煮出したオイルを塗った蟹身とホタルイカを炙る度、豪快に炎があがり香りが立ちこめる。その臨場感も美味しさの一つだ。米は秋田の“さきほこれ”。粒感のあるふっくらとした食感と噛みしめるほどに広がる深い甘みが持ち味の米は、薫香溢れる具とのバランスも上々。まずはそのまま一杯。二杯目は、卵かけご飯にしてどうぞ。

    薪を入れて、出汁で炊いた米にも香り付け。土鍋ご飯は毎月かわる

    薪を入れて、出汁で炊いた米にも香り付け。土鍋ご飯は毎月かわる

デザートの燻製アイスや焼きたての台湾カステラが登場する頃には、心もお腹も満たされているに違いない。ちなみにワインセラーにはクリュツグを始め銘醸ワインも揃っている。

この記事を作った人

撮影/中込涼 取材・文/森脇 慶子

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