まるで、パリのビストロ! 食いしん坊が通うレストラン【エタップ】東京・東駒形|ニュースな新店
2021年3月、浅草の対岸・東駒形に、パリで8年の経験をつんだシェフがオープンしたフレンチが注目を集めている。食べられるのは、たっぷりの有機野菜のサラダや、人気の「サカエヤ」の近江牛のローストなど、全国から集めた国産の食材を、パリ仕込みのビストロ料理。「地元の人に愛していただけたら」と良心的な価格でおなかいっぱい食べられるとあって、遠方からのゲストも絶えない人気店になっている。
毎日でも通いたくなる、駒形にできたフレンチ・ビストロ
数多の料理人から熱い視線が注がれる滋賀の精肉店「サカエヤ」。その肉に特化した肉ビストロとして肉ラバーのハートをガッチリ掴んでいた池尻大橋の【オーオン・ブーシュ】。ここで、腕を振るっていた肉焼きスト、河村神賜シェフが浅草で独立したらしい!そんな風の噂を耳にしたのは、3月始めのこと。聞けば、3月6日のランチから早くもスタートとのこと。早速、足を運んでみた。
3月6日にオープン。白壁に【ETAPE】と印されたシルバー色(orステンレス)の看板がおしゃれ。店内はカウンター6席に4人がけのテーブルが一卓。
場所は浅草。とは言っても、昨今のビストロスポット“観音裏界隈”ではなく、隅田川を渡った東駒形。エッフェル塔ならぬスカイツリーを見あげつつ吾妻橋を渡れば、飲食店もまばら。どこか下町的長閑さが漂う中、ポツンと佇むシンプルモダンな一軒。ここが、目指すビストロ【エタップ】だ。
河村シェフのこだわりの一つが、この“オピネル”のナイフ。奥様の故郷サヴォア地方から取り寄せたものだ。
こじんまりとした店内には、無駄な装飾がなく周囲の光景に溶け込むかのようにシンプル。だが、アンティークな趣の波打つガラスを配した扉に温もりのあるウッディなカウンター、座り心地の良い皮張りのカウンターチェアとさりげなく粋。
そして、カウンターに置かれた小さな黒板に目をやれば、『エビとブッラータ』や『生姜のスープ』、『特製ブイヤベース』、『滋賀近江牛ランプ』等々手書きのメニューがずらり。コースも5,000円から用意されてはいるものの、ここではアラカルトで楽しむのが得策だ。その日の気分、お腹の調子に合わせて自分の好きなものを好きなようにオーダーする。それでこそ、食いしん坊の本懐と言うものだ。
カウンター上に置かれた小さな手書きの黒板メニューが可愛い。ランチタイムには、3,000円のコースのほか手軽なワンプレートランチもある。
品数こそそれほど多くはないものの、そこは少数精鋭。魅力的な皿が並ぶ中、今回は、のっけから気になっていた『ウニのパンペルデュ』、新作の『サラダコンポゼ』に河村シェフの自信作『特製ブイヤベース』。そして、やっぱり肉でしょ、ということで、「サカエヤ」の肉匠新保吉申さんが選んだ『滋賀近江牛ランプ』の4品を選んでみることにした。
店主の河村神賜シェフは、大阪出身の35歳。父親がパティシェだったことから、自然と料理の世界に。大阪のリーガロイヤルで修業後、パリへ。
まずは、グラスのスパークリングで乾杯。早速運ばれてきたのは『ウニのパンペルデュ』だ。本来、スイーツになるはずのパンは牛乳と卵を混ぜた中に、砂糖ならぬ塩とうにを溶かしこんだアパレイユを浸してある。それを、バターとオリーブオイルでこんがりと焼き上げ、ほうれん草やマスカルポーネをのせているのだが、更にウニもトッピング。かなり贅沢な大人のフレンチトーストに仕上がっている。
アツアツを口に入れるや、もちっとしたパンの食感と共に口に広がる濃厚なウニの甘み。そして仄かに漂う磯の香りや僅かに感じるほうれん草のほろ苦さが全体の味を引き締めている。河村シェフによれば、「修業先のパリの一つ星レストラン【キ・プリュン.ラ・リュンヌ】で出していたウニのアイスクリームをアレンジしてみた。」のだとか。
そう、河村シェフは、若干35歳ながらパリで8年間みっちりと研鑚を積んだ実績の持ち主。その時に知りあったのが、今、お店でサービスを担当するフランス・サボア生まれの奥様。だからなのだろうか、どことなく、パリのネオビストロのような趣も感じさせる。
『サラダコンポゼ』1,800円、料理はいずれも一皿2人前で写真は半量の950円。「これからは野菜にも力を入れていきたい。」と語る河村シェフの思いを反映した一皿。兵庫のよつばfarmから取り寄せている野菜が満載。白ワインビネガーとオリーブオイルのシンプルなドレッシングで。
お次の新作『サラダコンポゼ』は、平たく言えばミックスサラダ。しかし、ただの生野菜を混ぜただけでは決してない。焼いたりゆでたり、種類によって調理法を変えた野菜が皿にどっさり。野菜の種類は、その時々で変わるそうだが、常時10種類以上は入る華やかさ。訪れた日は、ロッサトレビス、のらぼう菜に紫ラディッシュetc.。人参だけでも、紫に黄色など3種類も入る、まさに野菜が主役の一皿だ。
『特製ブイヤベース』2,000円。写真は半量の1人前で1,000円。撮影当日の魚は、真鯛。魚はヒラメなど白身魚をメインに日々変わる。ブイヤベースにも野菜がたっぷり。
肉ビストロ出身のイメージが先行し、つい、ステーキに目が行きがちだが、実は、この『特製ブイヤベース』こそが河村シェフの隠れたスペシャリテ。海老や貝など複数の具材が入る通常のそれとは違い、具はその日に仕入れた単一の魚のみ。ベースとなるスープ・ド・ポワソンも然りで、この日は真鯛。
それも、身の部分だけでなく、アラなども余すところなく使い切って作る贅沢さが味の秘訣だ。だからなのだろう。スープ・ド・ポワソンならではの海の芳香と深い旨味を感じさせつつも、後味のキレがいい。洗練させすぎず、ほどよく郷土的色合いを残したその程合いの良さはさすが。上に乗せたチョリソがアクセントとなっている。
綺麗な焦げ目がつくように、フライパンの中で油をかけ回しながら、周りをカリッと焼き上げていく。これが、フレンチのアロゼの手法。
さて、オーラスは、件の『滋賀近江牛のランプ』。飼育期間2年半の処女牛だ。もちろん「サカエヤ」の新保さんが手当した肉だ。河村シェフは、その200gの塊を、まずはフライパンでこんがりと綺麗な焦げ色が付くまでアロゼ。その後、200℃オープンで2分。次にオーブンから取り出し休ませるせことまた2分。これを3回繰り返し、見事なロゼ色に焼き上げたステーキは、霜降りのいわゆるとろけるような肉とは一味違う噛み締めるおいしさが、何と言っても持ち味。味わうほどに肉汁が舌に広がり、肉本来の濃い旨味が後を引く。ソースはフォン・ド・ボー、付け合わせはドフィノワ(じゃがいものグラタン)とクラシックな一皿にまとめている。ちなみにワインは、フランスを中心にグラスも赤白3種類ほどが用意されている。
アロゼしたのち、オーブンで休ませながら焼き上げた『滋賀近江牛のランプ』4,000円。写真は半分の1人前で2,000円。付け合わせのドフィノワ(じゃがいものクリームグラタン)も優しい味で美味しい。
「下町ののんびりした雰囲気が好きで、この街を選びました。地元人に愛される店にしたいですね。」との河村シェフの言葉を反映する様に、オープンして1ヶ月足らずのうちに3回も足を運んだゲストもいるとか。飲んで食べても、諭吉さん一枚でお釣りがくる値頃さを考えれば、それも納得。価格以上の満足度を与えてくれる、“カリテプリ”な一軒だ。
兵庫県四葉ファームの元気な野菜たち。無農薬無化学肥料で育てた野菜は、みずみずしく味が濃い。小さなビーツや、ロッソトレビスなど珍しい野菜も。採れる野菜も豊富だ。
※緊急事態宣言中の場合、営業時間が変更されている可能性があります。最新の営業時間はお店に直接お問い合わせください
撮影/佐藤顕子 取材・文/森脇慶子
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