何度でも通いたくなる! 地元密着型の人気フレンチレストラン|【HATO】東京・初台
初台の駅から徒歩5分。歴代のフレンチの名店が訪れる人を楽しませていた場所で、2021年7月に新たなフランス料理店が登場した。オーガニックな雰囲気が心地よい【HATO】という名前のそのレストランを営むのは人気店【LA’S】出身の野村昂史。若い人でも通ってもらえるようにと、5,000円のコース一本で勝負する。早くも地元のファンが足繁く通う人気店を取材した。
肩の力を抜いて楽しむ、ちょっとよそゆきのフランス料理
地元に根ざしたお店を目指したい。ここ数年続いた飲食バブルが、コロナ禍で足踏み状態となった昨今、こうした等身大のお店を望む若き料理人が増えている。野村昂史シェフもその1人。2021年7月、初台にオープンしたフランス料理店【HATO】のオーナーシェフだ。
野村昴史シェフ、31歳、栃木県出身。外苑前【ラス】で3年半修業後、独立。「初めてのカウンター仕事は緊張もしますが、お客様の反応をダイレクトに感じられて楽しいですね」
「若い人でも、頑張れば月に一回、いや季節ごとに一回ぐらいは、通えそうな価格帯を考えました。コースが5,000円なら、ワインを1、2杯飲んでも一万円でお釣りがくる。これくらいなら、来て貰えるかなぁと……」。飄々とした面持ちで語る野村シェフは、31歳。大学を卒業後、一旦はアパレル関係の仕事についたものの、25歳にして料理の世界に飛び込んだ努力の人だ。
オープンキッチンのカウンター6席のほか、テーブル席も4席ある。表のテラス席は、今後活用していくつもりとか。20人以下での貸切も可能。
当初、誘われるまま何の気なしに入ったのは外食チェーン系の地中海料理店。見よう見まねで厨房を手伝ううち、次第に料理の魅力に引き込まれていった。素人料理ながら、小さい頃から炒飯やパスタなどのちょっとした料理はよく作っていたとあって、もともと料理は好きな質。のめりこむうち、もっと本格的に学びたいという欲が出た。そこで、食べ歩くうち、この店だと思ったのが外苑前【ラス】。27歳にして兼子大輔シェフの門戸を叩いた。
「料理の美味しさはもちろんですが、何より、無駄な労力を省いてコストを省き、価格設定を抑えるなど、いろいろな面で現代にとてもフィットしたレストランだと思った。」からだ。活気溢れるキッチンは、やりがいもあり、入って半年後には肉部門を任されるまでになったそうだから、天性のセンスがあったのだろう。【ラス】での3年半の修業中、そのノウハウをしっかりと身につけ晴れて独立。現在は全16席をワンオペで切り盛りしている。
オープンは、2021年7月16日。狭いお店ゆえ、必ず予約して出かけたい。コースの料理内容は、月毎に変わる。
場所は、あの【アニス】の跡地といえば、あぁと頷くグルマンも多いことだろう。オープンキッチンのカウンタースタイルはそのままに、アンティークな和家具が置かれた店内は、無駄な装飾を一切省いた慎ましやかな趣。店全体に漂うどこかナチュラルな空気感に、自ずと肩の力が抜けていくよう。そこに運ばれてきたのはハーブの香りも清々しいお手拭きと白湯。駅から5分余り、寒さに身を縮めて歩いてきたところへの思いがけない心使い。野村シェフの人柄が偲ばれる。
『鳩とアニス』。アニスを敷き詰めた木のお皿に盛られて運ばれてくるプレゼンテーションもしゃれている。カリッサクッの皮とホロリと柔らかな具とのコントラストも楽しい。
料理は、アミューズからデザートまで6品で構成されたおまかせコースの一本勝負。内容は月替わりだが、今、シグネチャーメニューとして定番にしようとしているのが、ご覧の『鳩とアニス』。アニスと共に赤ワインで煮込んだ鳩の身をほぐし、春巻き風に仕上げたもので、前店の【アニス】と【HATO】をリンクさせた、野村シェフの遊び心溢れる一皿だ。スティック状に揚げた春巻きのカリリと軽やかな食感の中、アニスの風味がどことなくエキゾチックな味わいを演出、炒めた玉ねぎのあまみが鳩のコクをしっかりと支え、味に奥行きを与えている。それぞれの旨味がコンパクトにまとめられた佳品と言えよう。
『ヒラメのポワレ スープ ド ポワソンのソースとプンタレッタのサラダ』。プンタレッタとは、ローマの冬を代表する野菜の一つで、チコリの一種。
5,000円だからといって手抜きは一切ない。否、むしろ、低価格で納得のいく料理を出そうと思えば、より、食材を見る目と下拵えの丁寧さが、必要となる。取材当日コースのメインは、『ヒラメのポワレ スープ ド ポワソン』と『鴨のロースト サボイキャヘツと海苔のバターソース』の2種。カリッと香ばしく焼いたヒラメに添えられたソースは、そのヒラメのアラをベースに、甘エビの殻などを入れてとった魚のスープ。丁寧に作られた魚のスープが、ともすれば、淡白でパサつきがちなヒラメの本来の味わいを損なうことなく、品のいいレストランの味に引き立てている。
『鴨のロースト サボイキャベツと海苔のバターソース』。低温調理で柔らかく火を入れた鴨は、仕上げる際に皮目だけ焼き、香ばしさをプラスしている。
また、鴨のローストは珍しいサボイキャベツを付け合わせ、ソースにはあおさと昆布茶少々を入れて海苔風味にするなど斬新な組み合わせで新味を打ち出し、思わぬ素材同士の出会いの妙を表現している。野村シェフ曰く「5,000円以内に収めるには、食材選びも慎重になります。高い食材は使えなくても、これなら充分美味しくできる、というラインの食材を仕入れ、それをより美味しくするにはどうしたらいいか、を考えている」とのこと。
先の鴨の一品にしても、ビュルゴー産シャラン鴨のようなブランド品は使わずとも、丹念に下処理をして火入れしたフランス産バルバリー鴨は、舌を充分に楽しませてくれる。一見、突拍子もない思いつきの組み合わせと思いきや「僕、前々から鴨ってどこか海苔のような味がするって思っていたんです。」とは野村シェフ。彼の中で、鴨と海苔は必然的な要素だったというわけだ。
デザートの『HATOのアイスサンド』。テイクアウトしたくなる愛らしさと美味しさ。この前に一口、ハチミツを添えた福岡県産のマスカルポーネが出る。料理は全て5,000円のおまかせコースから。
さて、最後のデザートは、鳩サブレならぬ鳩アイス。サクサクのクッキーと甘さをやや控えたキャラメルアイスが食後の口福を締め括る。今後は、タルト・タタンなど季節の食材を使ったデザートも登場予定とか。両方食べたい!という食いしん坊は私だけだろうか?
フランスを始め、日本やドイツ、スペインなど10カ国あまりのワインを用意。グラスワインも、赤、白、オレンジと各3種類づつを日替わりで揃えている。ボトルは5,800円から。
ところで、店名の【HATO】は、離れた場所でも必ず帰ってくる鳩の帰巣本能にちなんだもの。一度来たお客様がまたいらしてくださるように、との野村シェフの思いが込められている。また、修業時代、「HATOの会」と称し、古民家でイベントを行っていたそうで、発想の大元はそこから。「覚えやすいし、どこかほっこりとする響きでしょう。」そう語る野村シェフの笑顔に、きっとまた、会いに来たくなるに違いない。
撮影/玉川 博之 取材・文/森脇 慶子
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