ミラノで24年。本場で磨き上げたセンスで魅せる大人のネオ・オステリア |【Le Api Osteria】
通なレストランやバーが集まる外苑西通りの裏道にまた1軒、モノトーンのスタイリッシュな外観からして心惹かれるイタリアンが2022年10月にオープンしています。オーナーシェフの松本良英氏は、ミラノで24年を過ごした人物です。「気軽に足を運んで欲しいので、リストランテではなく、オステリア。でもちょっと非日常を楽しめるようなおもてなしでお待ちしています」と話す松本シェフ。ミラノの洗練を感じる“ネオ・オステリア”を体験してきました。
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ミラノの話題店を東京で再開
親しみある料理を驚きのある一皿に
今飲むべきイタリアワインが豊富に揃う
ミラノで人気を博したネオ・オステリアを東京で再開
オーナーシェフの松本良英氏が海外へ渡ったのは約30年前、1994年のこと。高校卒業後、東京のホテルでフレンチを学び、アラン・デュカスのレストランで働くことを目標にマルセイユ、リヨン、パリなどで修業を続けていました。しかし、旅行でイタリア・ミラノを訪れた折に「気軽でおいしい食事」に強く心を惹かれ、イタリア料理もやってみたいと老舗の星付きリストランテ【ジャンニーノ】に入りました。
オーナーシェフの松本良英氏
そこで運命的に出会ったのが、その後14年間一緒に働くことになるダヴィデ・オルダーニ氏です。オルダーニ氏は、ヌオーヴァ・クッチーナ・イタリアーナ(現代イタリア料理)の創始者であり、’86年にイタリア史上初のミシュラン三つ星を獲得したグアルティエロ・マルケージの門下生。しかもイタリア料理のみならず、現代フレンチの巨匠、アラン・デュカス、ピエール・エルメの元でも経験を積んだ見識と実力の高さから、招聘された【ジャンニーノ】に一つ星をもたらした人物です。
人生の半分以上をイタリアで過ごした松本氏。料理だけでなく、立ち居振る舞いにもミラノの洗練を感じる
人間関係を大切にしながら、経営も料理の発想も極めて斬新なアイデアを推進し革命を起こしていくオルダーニ氏。松本氏はその哲学、価値観に共感することが多く、最強のパートナーとしての信頼関係を築いていました。「いつかはフランス料理に戻りたい」とデュカスの店で働く確約ももらっていた松本氏でしたが、オルダーニ氏が独立する際に「僕を助けてくれないか?」とエグゼクティブシェフになることを頼まれたその一言で「このまま期限なしの修行を続け、イタリア料理人としての道を進もう」とフランス料理への思いを断ち切る決心をしたそうです。
アラン・デュカス氏(写真左)に憧れながらもオルダーニ氏と「クッチーナ・ポップ」を共に追求することを決意した松本氏
2003年にミラノの郊外でオルダーニ氏と松本氏が2人ではじめた【D’O】は、「おいしいものは、みんなのためにあるべき」という「クッチーナ・ポップ」がコンセプト。低価格&高品質を両立する革新的な店作りであっという間に人気店となり、1年足らずでミシュランの星を獲得。現在も数年先まで予約が取れないレストランとして知られています。松本氏がここで仕事をした10年の間に、オルダーニ氏のみならず右腕として数々の雑誌や新聞で紹介されました。
グルメ雑誌だけでなくファッションやアート雑誌、新聞、経済誌などまで多岐ジャンルに渡る
2016年、独立を果たしミラノで【Le Api Osteria】を開いた松本氏。そのコンセプトはやはりクッチーナ・ポップ。「リストランテではなく日常的に気楽に楽しめる、でも非日常が楽しめるようなネオ・オステリアを目指し、ミラノっ子に定番の郷土料理、サフランのリゾットやオッソブーコ(骨髄の煮込み)、カツレツなど親しみのあるメニューを味わいはもちろん見た目にもモダンに仕立てて提供していました」
厨房入口に掛かるミラノ時代の思い出深い一枚には、松本シェフとマルケージ氏の姿も
すぐさまミラノの人気店となった【Le Api Osteria】ですが、4年後、コロナの影響でロックダウン。松本氏はここでまた大きな決断を即座に下し、ミラノのお店は一旦売り払い、家族を置いて日本へ。飲食コンサルタントの仕事をする傍ら、一度生まれ育った東京で店をやってみようと、2022年10月に西麻布で【Le Api Osteria】を再開させたのです。
「API」はイタリア語でミツバチの意味。「働き続けること、問題が起こっても悩まず動き続ければ問題は必ず解決する、という思いを店名に込めています」と松本氏
厳選食材と丁寧な仕事で親しみのある料理を驚きの一皿に
東京で再開した【LE API OSTERIA】もミラノと同じコンセプト。モノトーンで統一されたスタイリッシュな雰囲気に敷居を高く感じる人もいるかもしれませんが、メニューを開けば安心。前菜・パスタ・メイン・デザートを選べる5皿のプリフィクスコースで10,000円。一度経験すれば、食材や技術など料理のクオリティに対するコストパフォーマンスの高さに驚くこと間違いなしです。
『ミラノっ子定番サフランリゾットと分解された仔牛の脛肉の煮込み グレモラータソースと一緒に』
例えば、シェフのスペシャリテの一品、サフランのリゾットとオッソブーコの料理。リゾットを口に入れた途端に広がる爽やかなレモンの風味に驚かされます。そしてお米にはオッソブーコを作るときに仔牛の骨から取ったフォンに旨みが染み込み旨味も香りも豊か。リゾットにかかったオッソブーコのトロッとした旨みや食感は濃厚な印象もありながらも胃の中にスッキリ収まるエレガントな味わい。食材を厳選しているのはもちろん、下ごしらえの丁寧さ、鍋から目を離さず入念に作られているからこそ。一流料理人のなせる技です。
『皮目をパリッと焼いたヨーロッパ産乳飲み仔豚のロースト 甘さと軽い苦味のヴェルモットロッソのソースと合わせて』
スペイン産の仔豚を一頭買いにして作るスペシャリテも、イタリアの郷土料理、豚の丸焼き「ポルケッタ」をエレガントに仕立てた一皿です。皮目はパリパリ、身はしっとり、皮の下のコラーゲンはとろり。ソースは季節により変えるそうです。
『宮崎県産放し飼い黒岩赤土どり胸肉のタルタル仕立て イタリア産のキャビアとライ麦パンのクロッカンテ添え』
おいしい驚きはデザートまで続きます。ガラスのクロッシェをかぶせ、まるで宝石箱のような演出でモンブランやパイが目の前に! 「イタリア語でデザートのことを“ドルチェ”といいますが、宝石箱という意味ですから」と誰もが歓声を上げる演出に。
『日本とイタリアの2種類の栗のペーストのモンテビアンコ(モンブラン) サクサクのメレンゲとマスカルポーネのムース マロングラッセとカダイフのアクセントとアングレーズのソース』
そして、食べてもびっくり。風味濃厚、食感のアクセントも色々と考え抜かれています。しかも食後間は軽やか。実は松本氏のお父さんはパティシェで、3歳で既にアトリエに入り、ケーキ作りの手伝いを楽しんでいたと聞いてあまりの完成度の高さにも納得です。
『ふくらませてキャラメリゼしたパイ生地、ホワイトチョコレートのムースを詰めて、いちごのタルタルとそのクーリーソース、いちごのソルベットと共に』
ベテランソムリエ厳選、今飲むべきイタリアワインが豊富に揃う
【Le Api Osteria】にはお楽しみがまだまだあります。マネージャー兼ソムリエを務める藤本智氏は、広尾【インカント】、代々木上原【イル・プレージョ】、池の上【ぺぺロッソ】など東京のイタリアンの中でもワイン評判も高い名店で経験を重ね、イタリアワイン好きにはかなり名の知れたベテランです。
知識が豊かなだけでなく、ゲストの好みや予算なども考慮したワイン選びを安心して任せることができるので、どんな味わいのものを飲みたいのか気軽に相談できます。
「1990年台〜2000年台前半の純粋に飲んでおいしい飲み頃のワインを揃えています」と話す藤本氏のセレクトが楽しみ
また、グラスワインも10種類以上あり、料理に合わせて様々なイタリアワインに触れられる楽しみもあります。カウンター席もあるので、2軒目で前菜やパスタをつまみにワインを、あるいはワインだけをゆっくり味わうというバー使いもお薦めです。
ウィットに富んだアート作品や、ミラノで松本氏が撮影したモノクロームの写真が店内をスタイリッシュに演出
店名ミツバチ(Le Api)のように常に羽を広げて働き続け、技術と人間性を磨いてきた松本氏。何よりも大切にしているのは「出会った人とのつながりを大切にすること。裏切らないこと」と話します。ミラノの店でもそうだったように、「若手のスタッフを家族のように大切にし、お互いに共感し合いながら明確な目標を持てるよう育てていくことがこれからの自分の責務であり楽しみです」と、松本氏が歩んできた経験を基に料理技術以上に必要なことを伝え、働く人も食事に行く人も幸せになれる店作りをしています。
若手スタッフと共に。中央、松本氏の右がイタリア愛に溢れるソムリエ・藤本智氏
イタリアのレストランで食事をすると、料理愛、イタリア愛、レストラン愛、家族や人類愛……など多くの“アモーレ(愛)”で、おいしさ以上の豊かさに満たされ、「なんだか幸せ」と感じることが多いのですが、【Le Api Osteria】ではまさにそんな気分に。松本氏が東京に戻ったのは、改めてそういった食の本質を日本でもっと広めるためなのかもしれません。
撮影/今井 裕治 取材・文/藤田 実子
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