表参道【テストキッチン エイチ】|バブル期の興奮を思い起こさせる、イタリアンの巨匠・山田宏巳シェフの新店
東京イタリアンのカリスマ・山田宏巳シェフが、2018年4月23日にセンセーショナルな新店をオープンさせました。100席近い客席、フルオープンの劇場型キッチンで何が起こるのか……。料理人人生50年の集大成となるお店の全貌に迫ります。
厨房の臨場感がそのまま客席に届く、キッチンスタジアム的なレイアウトが圧巻
青山・骨董通りの路地裏に忽然と現れる黒塗りの巨大な一軒家。まるでスタジアムのような外観に度肝を抜かれる。店内に入れば、柱一つないフルオープンキッチン。「260坪の敷地。ここでどんなことができるのか……。これ以上はないっていうようなワクワクする店にしようと構想に2年かけたんだ」と話す山田宏巳シェフ。
100席近い大箱は、様々なゲストとの会話から新しいものが生まれる可能性も。コースは5,800円〜(税・サ別)
キッチンと客席が一体になる、スタイリッシュかつ臨場感あふれる空間を手がけたのは、デザイナー塚本貞省氏。実は1985年にオープンし、初代料理長だった山田シェフが一世を風靡した伝説のイタリアン【バスタ・パスタ】も塚本氏のデザインだった。「あの頃を彷彿させるでしょう?」と笑顔の山田シェフ。
伝説の名店【バスタ・パスタ】を彷彿させる、フルオープンの劇場型キッチン
当時まだ希少だった高知産のフルーツトマトを使ったスペシャリテ、『冷たいトマトのカッペリーニ』が生まれたのもこの時期。天才的手腕を見せつけ、スター街道を歩き始めたその熱狂的な時代を少しおさらいして行くと、さらにこの店を楽しむことができるだろう。
「イタリアン隆盛期を彷彿させるような、勢いがあって、しかも艶っぽい店にしたいね」と山田シェフ
16歳から料理人の道に入り約50年。時代やその時々のインスピレーションで、正統派のリストランテや、シェフズキッチン的なこぢんまりとしたカウンターメインの店、【ヒロ】というブランドでの多店舗展開と精力的に走り続けてきた。
そのパワーを炸裂させたかのようなダイナミックなレストランを65歳で作れるのは、山田シェフならでは。「今までやってきたことの集大成でもあり、新たな可能性を探り挑戦する場でもある」と意気揚々と語る。
オープンキッチンを囲むように、4席のテーブル席やソファ席、ロングテーブルやカウンター席を配して多様なシチュエーションに対応
今までの店でもゲストとの会話を大切にしてきたオープンマインドの山田シェフにとって、「これだけのキャパシティがあれば、僕のことをあまり知らない若い人、今まで予約が取れなかった人など客層の幅も広げられる。いろんな人に会えていろんな話が聞けるのがとても楽しい。お客さんから学ぶことは本当に多いから」
本当においしい料理、できたて料理を肩肘張らず“本能”で楽しめる
有名シェフの店は、予約至難、コースのみの高級店で緊張を強いられがち。レストランは敷居が高いと思っている人にも優しいのが画期的。「当日でもふらっと来てもらえるよう席を用意していますよ。前菜だけでも、パスタだけでも歓迎。若い人にももっとレストランに来ることの楽しさ、高揚感を体験して欲しい」と山田シェフ。
格好いいけど肩肘張らない。手頃な値段で食べられるけれど、カジュアル過ぎない。ちょうどいい塩梅でリラックスして楽しめる。確かにこんな店、他にはないかもしれない。
できたてのアツアツで供される塩味のスフレ。キャビアとサワークリームを添えた前菜の一品。キャビア10g 4,000円、20g 7,000円
「テストキッチンだから、いろいろな食材、調理法、出し方を工夫したり挑戦したり。新しい料理が生まれることもあるけれど、昔からあるもの、どこにでもあるメニューをどこよりもおいしく出したいんだ」と話す山田シェフ。
自家製ハムが常時5〜6種類。日常の、どこよりもおいしい料理で感動させたい
まず目玉となるのが、手作りのハム。羊や豚のモルタデッラ、豚の耳をゼラチンで寄せたもの、豚のもも肉を塊のまま仕込む生ハム、ベーコン、ボンレスハムもすべて自家製。時に、オレンジと一緒に熟成させたりもするなど、行くたびに違う味に出合えるかもしれない。キッチンの奥に見えるガラス張りの冷蔵庫に、この自家製ハムが吊り下がっているのが見えるのでぜひ注目して欲しい。
臨場感たっぷり! 焼きたてボンレスハムは、香りもご馳走の「本能料理」
焼きたてで提供される自家製のボンレスハムは、見た目や香り、ジューシーな食感など五感で堪能できる一品。「オーブンから塊で出てきたところを見ただけで“おいしいそう!”と感じるでしょう? 言葉はいらない、動物的本能で食べて欲しいんだよね」と山田シェフ。できたて、焼きたてこそこの店の醍醐味だ。
モルタデッラや豚の耳などをゼラチンで寄せたもの、肩ロースとももの2種類の生ハム、ボンレスハムなど『自家製ハムの盛り合わせ』3,000円(2人前)
さらに、キッチンの一番奥には薪の炉窯も設置してある。「この空間だから、肉もダイナミックに焼きたいよね」。牛肉、豚肉、鴨やジビエなど、その時々のおいしい食材を炎に包んで焼き上げる。
「この、丸くキレイに成型された薪の形にも注目して」と山田シェフ。木をそのまま乾燥させたものではなく、イタリアで家具を作った時に出る端材を粉末にして圧縮させたものだとか。自然乾燥の木と違って、虫が付いたりしていないからキッチンで衛生的に管理できるのもメリット。常に新素材に目を向けるのもさすがだ。
薪の炉窯。炭火と違い、表面が一気に焼けるが、火力は柔らかく中はジューシーに仕上がるという。燻製したような香りがつくのも特徴
パスタは今やどこでも食べられる料理ながらも、山田シェフのパスタはなぜか格別。乾燥パスタも常においしいものをとアンテナを張っている。今回新しく採用したのは、パスティフィーチョ・ディ・カンピ社のもの。伝統的な方法で収穫されたイタリア産デュラムセモリナ小麦を100パーセント使い、長時間乾燥で豊かな小麦の香りとモチモチの食感に。
「喉越しを楽しむカッペリーニとは別のアプローチ。ちょっと太めでモチモチと噛み応えのある食感。こういう力強い味がこの店には合うでしょう?」。秋を代表するフィレッシュポルチーニのパスタは、あらかじめしっかり炒めた飴色の玉ねぎが隠し味に。
秋は、フレッシュポルチーニのパスタが登場。※10,000円以上のコースにて提供
「若い料理人が作るクリエイティブな料理もいいけど、50年やっているから、ひと手間ひと工夫では負けないよ。うちの店は、盛り付けにはさほど凝っていないけど、ちゃんとおいしいものを作って、ドーンと楽しんでもらいたい」。
型にはまらず、進化して行くテストキッチン。これからの展開も目が離せない
1980年代に山田シェフに魅せられた往年のファンから、デート、有名人?と思われる常連客、憧れの店にやっと来られたという若者や地方からの客、誕生会の集まりなどなど客層も来店目的も実にさまざま。今後は機能性の高い空間と集客性を活かし、チャリティイベントなども行う予定という。
スターシェフながらも各テーブルを廻り、気さくに話をする山田シェフ。「お客様の意見を聞いてよりおいしい、より楽しい店にしていきたい」と話す
“テストキッチン”と名付けただけに、いろいろなことを試してどう変化していくのか、どんな新しいことが生まれるのか……。どこよりもおいしいものを定番に、進化を続ける山田ワールドからまだまだ目が離せない。
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店内の一番奥には、8名まで利用できる個室も完備
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壁にも、キッチンの様子が映し出され、臨場感が倍増
コース:5,800円、8,000円、10,000円、12,000円(すべて税・サ別)ほかアラカルトあり
ドレスコード:スマートカジュアル
撮影/今井裕治 取材・文/藤田実子
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