テクノロジーが拓く食の未来/~食の明日のために~vol.7
8月8・9日の両日、東京・日比谷で開催された「スマートキッチンサミット・ジャパン2018」のレポートです。昨年に続き2回目にあたる今回のイベントでは、食に関わる様々なテクノロジーが飛躍的な進歩を遂げていることを体感しました。テクノロジーはこの先、世界が抱える食の社会課題にも変革を起こせるかもしれません。
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「スマートキッチンサミット」とは
食を起点にひろがる様々なテクノロジー
食の社会課題に向き合うために
「スマートキッチンサミット」とは
午後1時、東京ミッドタウン日比谷のイベントホール。開始時間に少し遅れて会場に飛び込むと、そこはすでに熱気に包まれていました。壇上では、主催者である株式会社シグマクシスの田中宏隆さんがオープニングトーク中。
「食と料理で今、何が起きているのか」というテーマがスクリーンに掲げられています。その日の夜は台風直撃の可能性大という報にもかかわらず、広いホールはほぼ満席で、堅いスーツ姿の壮年グループからクリエイター風の若い男女まで、参加者の層はさまざま。ここで2日間にわたり、42ものセッションが予定されているのです。
登壇者のバックグラウンドは多岐にわたる。国籍もさまざまで、全セッションが日英のバイリンガルで行われる。
スマートキッチンサミットは、アメリカ・シアトル発のフードテックイベント。最先端の厨房用ガジェットやフードテクロジーの紹介を中心に、未来の食ビジネスの可能性を探るウェブサイト“The Spoon”の運営をはじめ、多くの企業アドバイザリーを務める米・マイケル・ウルフ氏を創設者として、2015年にスタートしました。
最新のテクノロジーが今後料理や食事の風景を変え、ひいては生活自体を変えていくという確信のもと、食にかかわる多様な主体――生産、加工、流通業者はもちろん、料理人、デジタル起業家、家電メーカー、投資家、行政、メディア、研究者など――を巻き込み、様々な角度からともに食の未来を考える、という新しい切り口が注目を集め、昨年は600名を超える参加者を数えています。東京版は昨年、2017年に前述の株式会社シグマクシスを共催のパートナーとしてスタートし、2回目の今年を迎えました。
セッション間の休憩時間には、ホール前で行われる各種展示やデモンストレーションに人だかりができる。Oicy(オイシイ)は、クックパッドに掲載されたレシピとさまざまな調理器(一部開発済)をつなぎ、好みに合わせたアレンジなどを自動で行える新しい調理サポートシステム。
食を起点にした様々なテクノロジー
参加者300名、登壇者48名、セッション数42と、昨年に比べ格段に規模が拡大したという今年、その内容も多岐にわたります。たとえば「サイエンス視点で見る料理の楽しさ:食の科学とスマートキッチンの出会い」の主題は調理の科学。分子調理学の研究者、石川伸一さんと山形のレストラン【アル・ケッチアーノ】の奥田政行シェフが登壇し、科学的視点で素材や調理工程を見直すこと、またサイエンスやテクノロジーを料理の現場に活かすことで、料理の新しい楽しさや方向性が見えてくると語りました。
【アル・ケッチァーノ】の奥田政行シェフは、食材の組み合わせや調理の組み立てに、いかにサイエンスの視点を活用するかという方法論を披露。
「医食同源としての食」や「パーソナライズドニュートリション」というセッションの主題は健康とカスタマイゼーション。前者では株式会社メタジェンの取締役CSO、水口佳紀さんが、各個人の腸内環境に適した食べ物を選ぶことによって健康や長寿が得られやすいというアプローチを、また後者、米3TandAIのCEO、ランジャン・シナさんは、遺伝子や代謝マーカーなどのデータとAIを活用し、各個人に適した食を使って慢性疾患治癒を目指す手法を提案しました。
米3T&Ai社CEOのランジャン・シナ氏は、遺伝子や代謝マーカーなどのデータとAIを活用し、各個人に適した食(パーソナライズドフード)を使って慢性疾患治癒を目指す手法を提案。
「イノベーションインフラの台頭」の主題は、食のシェアリングエコノミー。株式会社リンクアンドシェアの中間秀悟さんはスーパーの棚など余った販売スペースを、そしてキリン株式会社のコーポレートベンチャー、リープスキンの日置淳平さんは食品製造工場の余った生産ラインを、それぞれウェブサービスによってスタートアップ企業につなぎ、効率的に利用するビジネスについてプレゼンテーションを行いました。
米ヘスタン・キュー社のジョン・ジェンキンス氏が紹介したのは家庭用新調理器具。センサー付きフライパンで調理すると、食材の調理状況が完璧にレポートされ、電子デバイス(iPhoneやiPad)に次のアクションが表示される。いかにもエンジニア的発想のキッチンガジェットだ。
その他にもキッチンデザイン、機能性食品、プロの厨房機器、フードテック投資などテーマは多彩。人間の活動範囲のあらゆる部分とつながっている「食」が起点のサイエンスやテクノロジーは、まさに全方位に広がるのです。
食の社会課題と向き合うために
なかでも特に興味深かったのは、「社会課題としての食」に取り組む一連のプレゼンターの話です。たとえば「フューチャーフード&プロテイン」というセッション。2050年の世界人口は98億人に達するとも言われる今、地球上の農地と動物性タンパク質の絶対的不足は確実です。インテグリカルチャーの羽生雄毅さんとプラント・エックスの山田耕資さんが発表した培養肉開発技術と植物工場のテクノロジーの話には、危機が迫ることを改めて実感するとともに、「正しい食べ物」に関する考え方のシフトが迫られていると感じました。
細胞壁のある野菜や果物は肉や魚に比べ冷凍が難しいそうだが、この冷凍フルーツは水分流出がなく瑞々しい。
またデイブレーク株式会社の代表取締役、木下昌之さんが語った急速冷凍技術と、エバートン・アメリカのジェネラル・マネージャー、ゴードン・フォスターさんがプレゼンした特殊冷蔵技術にも驚きました。これらは冷凍、冷蔵のプロセスを経ても、食材の原型を今までにないレベルでキープできるという最新のテクノロジー。進化の著しいこれらの技術で保存できるなら、豊作・豊漁時の大量出荷で野菜や魚が値崩れを起こすことを避けられるでしょうし、もちろん廃棄も回避できるはずです。世界の食物生産量のうち1/3が毎年フードロスとして廃棄され、なかなか抜本的な打開策が見つからないなか、これらの技術が今後、風穴を開けられるかもしれません。
外村仁氏(右)とシグマクシスの田中宏隆氏(左)によるクロージングトーク。
2日間を締めくくる最後のセッションは、アップル社マーケティング本部長、エバーノート・ジャパン会長等を歴任し、現在もシリコンバレーを拠点に活動する外村仁氏とSKSを共催した株式会社シグマクシスの田中宏隆ディレクターによるクロージングトーク。サミットがスタートするまでの世界と日本の動き、来年以降に向けての想いなどを語りました。
このイベントは、2019年も引き続き開催する予定だそうです。さまざまなフードテックの最新情報をアップデートし、また未来に続く食の地平を確かめるためにも、来年も参加したいと思っています。
この記事を作った人
佐々木ひろこ
日本で国際関係論を、アメリカで調理学とジャーナリズムを、香港で文化人類学を学び、現在フードジャーナリスト、食の翻訳家。サステナブルシーフードの普及を目指して活動するシェフグループ、一般社団法人Chefs for the Blueの代表理事を務める。
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