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更新日:2018.12.14食トレンド グルメラボ 連載

イベントレポート『マグロ・コレクション』!/~食の明日のために~Vol.8

連載第5回でお伝えしたとおり、日本近海の太平洋クロマグロ(本まぐろ)は激減中。一方で、一時に比べ大幅に増えているのが大西洋のクロマグロです。その大西洋クロマグロを使い、11月23日から12月13日までの3週間、シェフス・フォー・ザ・ブルーのメンバーレストランのうち8店舗でイベントを行いました。

    【シンシア】石井真介シェフによる『大西洋クロマグロと根セロリのピューレ』

大西洋クロマグロは増加中

連載第5回では、太平洋クロマグロ(近海本まぐろ)の激減ぶりについてお伝えしました。乱獲になかなか歯止めがかからず、現在初期資源量(漁業開始前の資源量)の3%ほどしか残っていない太平洋クロマグロ。じつはその一方で、近年急激に資源量が増えているのがアメリカ大陸の向こう、大西洋から地中海にかけて回遊する大西洋クロマグロです。この二つは互いに亜種にあたり、骨格や身質が微妙に異なるものの、どちらもおいしい「マグロの王様」。いずれも「クロマグロ」として販売されています。

下は、大西洋クロマグロの資源量(親魚)の経年グラフです。1975年頃をピークに徐々に下降線をたどるものの、2000年代半ばに底を打ったあとは、急激に数が増えているのが分かります。

大西洋クロマグロ(東系群)の親魚量

    【出典】2016 水産庁・水産総合研究センター

大西洋クロマグロの資源を管理する国際団体「ICCAT」がマグロの枯渇を危惧し、一気に規制を強化したのは2007年のこと。厳しい漁獲枠を設定して獲る量を絞り、幼魚の漁獲や産卵場での操業を禁止し、徐々にその管理を徹底したところ、このような大復活が実現した経緯があります。マグロは一度に数千万個もの卵を産む魚なので、増える可能性もより高いのだそう。

気仙沼に本社を構える遠洋漁業会社、株式会社臼福本店社長の臼井壯太朗さんは、次のように話します。
「大西洋クロマグロはここ数年、ずいぶん資源が回復しました。実際、大きな魚がたくさん揚がりますよ。釣りあげてすぐの船上計量、電子タグへの記録からはじまる一連の作業は大変ですし、管理も罰則もガチガチに厳しいので神経を使いますが、それでも資源管理は大切だと思いますね。だってみんなでルールを作って我慢してみたら、本当に5年ほどでマグロが戻ってきたんですから」

ルールを順守することで資源量が増え、それに従って総漁獲量の上限も徐々に押し上げられて、各国、各船に割り当てられる漁獲枠も少しずつ増えているそうです。

    株式会社臼福本店の水揚げ風景。200㎏オーバーのマグロがどんどん水揚げされる。

8店舗で同時イベントを開催!

そんな中の今年8月、グッドニュースが飛び込んできました。臼福本店の大西洋クロマグロ漁が海のエコラベル「MSC」の予備審査を通過し、正式認証に大きく近づいたというのです。MSCは日本でまだ3つの漁協や企業しか保有していない、持続的な漁業に与えられる国際認証ですが、なんとクロマグロ漁業では世界初の快挙。ちょうど私が事務局をつとめるシェフグループ、Chefs for the Blue(シェフス・フォー・ザ・ブルー)が、あるメディアでの企画構成協力の話が進んでいた折、連動する形でレストランでもマグロ料理を提供するイベントを行うことになったのでした。

シェフス・フォー・ザ・ブルーのメンバーレストランは現在、都内に約30店舗を数えます。多くのプロジェクトが同時進行するなか、企画内容にフィットするようさまざまなレストラン(シェフ)に担当していただいているのですが、今回お願いしたのは様々なジャンルから8店舗。

内訳は、フランス料理店3店舗、イタリア料理店3店舗、そして中国料理店1店舗の布陣です。普段からクロマグロを使い慣れている日本料理店でなく、あえて仏伊中のカテゴリーのレストランにお願いしたのは、料理人はもちろん幅広いゲストの方々にマグロが抱える問題について知ってほしかったため。意外な場所でクロマグロ料理が出てきた、そんな場面ではきっと「あれ? マグロだよね」という言葉が口をつくのではないか。料理人やサービス人とゲストの間に自然な会話が生まれ、問題意識を共有できる機会もあるはずだと考えたのです。

では以下、8人8様、トップシェフ8人のクリエイティビティにあふれた大西洋クロマグロの皿をご紹介しましょう(【シンシア】はトップ画像をご覧ください)。

    【クラフタル】大土橋真也シェフ
    『大西洋クロマグロの“トンカツ”サラダニソワーズ風』

    【コンヴィヴィオ】辻大輔シェフ
    『大西洋クロマグロのフィアスコ煮』

    【茶禅華】川田智也シェフ
    『大西洋クロマグロとクラゲの頭 発酵唐辛子の香り』

    【ドン・ブラボー】平雅一シェフ
    『大西洋クロマグロ ジェノベーゼ』

    【メログラーノ】後藤祐司シェフ
    『大西洋クロマグロとカラスミ、香草のタリオリーニ』

    【ラ・ボンヌ・ターブル】中村和成シェフ
    『大西洋クロマグロの稲藁焼き 黒オリーブのソース 宇和島レモン らっきょう とんぶり』

    【ル・スプートニク】髙橋雄二郎シェフ
    『大西洋クロマグロとバナナのキッシュ』

「楽しく」「おいしく」持続可能な海を目指す

11月23日にスタートしたイベント『Chefs for the Blue マグロ・コレクション!』は12月13日に終了しました。お客さまの反応は各店、上々だったようです。「料理も好評でしたがクロマグロを取り巻く現状、大西洋の成功例などをきちんとお話できたのは嬉しかったですね」(【メログラーノ】後藤シェフ)、「マグロの話に興味を持ってきてくれるお客様、SNSで拡散してくださる方もいらっしゃったりと、手ごたえがありました」(【ラ・ボンヌ・ターブル】中村シェフ)など、嬉しい声が聞こえてきます。

でもじっくり聞いてみると、実は当初、話を持ち込まれたシェフたちは目を白黒させていたとのこと(笑)。「クロマグロは鮨で食べるのが一番という神聖な食材。それを超える料理が僕らにできるのか、とかなり悩んで試作を何度も繰り返しました」という【ル・スプートニク】の髙橋シェフ。名店【日本料理 龍吟】での修業経験も長いだけに、中途半端には使えないと、クロマグロをあえて避けてきた【茶禅華】の川田シェフ。試作用マグロが届いてから2週間足らず、皆営業後に眠い目をこすりながら試行錯誤の末、先のすばらしい料理を作りあげてくれたのでした。

そして最終的には、「本当にやりがいのあるチャレンジでした」(【コンヴィヴィオ】辻シェフ)、「大切な機会をありがとうございました」(【ドン・ブラボー】平シェフ)というコメントも。初めて挑戦する、しかも最上級に難しい食材ながら、それぞれフランス料理やイタリア料理、中国料理として見事に完成していたことに、フードジャーナリストとしても脱帽です。マグロという素材を十分に理解している日本人料理人だからこそ、新たなマグロ料理の世界を開けたのかもしれません。

シェフたちの思いの深さのおかげで、事務局が当初考えていた以上のすばらしいプロジェクトとなりました。今後もさまざまなイベントやメディア発信など、持続可能な海を「楽しく」「おいしく」目指す活動を続けていきたいと考えています。

Photo:オオツカアケミ(【クラフタル】【ラ・ボンヌ・ターブル】【ル・スプートニク】)

この記事を作った人

佐々木ひろこ

日本で国際関係論を、アメリカで調理学とジャーナリズムを、香港で文化人類学を学び、現在フードライター、エディター、翻訳家。多くの雑誌や書籍、ウェブサイトに寄稿中。料理人を中心としたサステナブルシーフード勉強会“Chefs for the Blue”の世話人。

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