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更新日:2019.02.22旅グルメ グルメラボ

“テロワールワインの王道”シャブリを再発見せよ!①

クラシックな白ワインの代表格として、あるいは生牡蠣に合うワインとして、日本でもつとに知られるシャブリ。だが、その魅力の真髄とは? どうやって選べばいいの? ワインジャーナリスト浮田泰幸が現地で徹底取材。そのレポートを基に、あなたを優美なシャブリの世界へと誘います。

“テロワールワインの王道”シャブリを再発見せよ!①

たった一つのブドウ品種から生まれる白ワインだけの銘醸地

    スラン川左岸の一級畑からシャブリの町を見下ろす

    スラン川左岸の一級畑からシャブリの町を見下ろす

 霜の降りたブドウ畑で人も馬も白い息を吐きながら畑仕事に精を出している。12月初旬のシャブリ。昼間でもなお気温は氷点下という厳しい気候だ。その風景の中には、たわわに実る果実も青々と茂る葉もないけれど、ブドウが生育し、ワインが醸される風土(=テロワール)を肌に感じることができた。

    枝を剪定し、切り取った枝を燃やす作業。厳寒の冬場もブドウ畑の仕事は続く。

    枝を剪定し、切り取った枝を燃やす作業。厳寒の冬場もブドウ畑の仕事は続く。

 ごく簡単に説明すると、シャブリはフランス中東部ブルゴーニュ地方に属するシャブリの地でシャルドネというブドウ品種のみから造られる白ワインである。レモンや青リンゴの香りとリフレッシングな酸、土壌由来の豊かなミネラル感があるのが特徴。熟成を経て、蜂蜜やナッツの香りを帯び、味わいは複雑さと深遠さを増し、「偉大な」と形容される域に達するものもある。

広くシーフードや野菜料理とマッチし、タイプによっては鶏や豚などホワイト・ミート、熟成チーズなどとも合う。牡蠣と合うと言われるのは、上級格付け(格付けについては後ほど)の畑が「キンメリジャン」という、小さな牡蠣殻の化石がびっしりと詰まった石を含む土壌であるためだ。

    左がキンメリジャン特有の石、右はプティ・シャブリのブドウが栽培されるポートランディアンの土壌から。

    左がキンメリジャン特有の石、右はプティ・シャブリのブドウが栽培されるポートランディアンの土壌から。

4つの格付けをまずは押さえて。初心者はベースラインの2つからトライ

 シャブリのブドウ畑はしっかりとした「格付け(アペラシオン)」によって下記の4つに分類されている。

●プティ・シャブリ
●シャブリ
●シャブリ・プルミエ・クリュ(一級)
●シャブリ・グラン・クリュ(特級)

 プティ・シャブリとシャブリはベースラインで、2つ合わせるとシャブリの全生産量の約8割を占める。価格で言うと2000円前後からある。ベースラインと言っても造りはちゃんとしていて、シャブリらしさも十分に備えている。まずはこの2つのカテゴリーを入門編として飲むといいだろう。

  • 収穫年から36年を経たプルミエ・クリュのシャブリ。

    収穫年から36年を経たプルミエ・クリュのシャブリ。

  • 家族経営のワイナリー「ドメーヌ・クリストフ・カミュ」

    家族経営のワイナリー「ドメーヌ・クリストフ・カミュ」

 上級クラスのプルミエ・クリュと最高位のグラン・クリュは、より限られた銘醸畑で実るブドウから造られる高級レンジだ。プルミエ・クリュを名乗れるのは40のクリマ(畑の1区画のこと)。対して、グラン・クリュはたったの7つ。価格的にはプルミエ・クリュが5000〜10000円、グラン・クリュは10000円以上(これらの価格は、ブルゴーニュの中心地コート・ドールの同クラスのワインと比べると遥かに安い)。

これら格付け上位のワインは畑が限定されている分、土地の個性(=テロワール)をより濃く写すことになる。そう言うワインを「テロワール・ワイン」と呼び、ワイン上級者は「やはり、グラン・クリュのレ・クロは、力強くて威風堂々とした味わいだね」「プルミエ・クリュの中ではフルショームが明朗な味わいで好きだな」などとその微妙な違いを楽しむのだ。

 ここで教訓を2つ。

1.白ワイン選びで迷ったら、プティ・シャブリかシャブリに任せておきなさい。

2.いつかはプルミエ・クリュやグラン・クリュを!

  • 7つあるグラン・クリュの1つ、グルヌイユは力強さが特徴。

    7つあるグラン・クリュの1つ、グルヌイユは力強さが特徴。

  • グラン・クリュのブーグロ(右)はアーシーな味わい。プルミエ・クリュのヴォーロランは柔らかい果実味が特徴。

    グラン・クリュのブーグロ(右)はアーシーな味わい。プルミエ・クリュのヴォーロランは柔らかい果実味が特徴。

造り手は、畑の個性を伝えるトランスレーター

 シャブリでは、造り手は自分たちの個性を出すのではなく、畑の特徴を忠実に再現するのが腕の見せ所となる。造り手たちはクリエーターではなく、トランスレーターでなければならないのだ。

    [ドメーヌ・ウィリアム・フェーヴル」のディディエ・セギエ氏。精密機械のように緻密なワイン造りをする、シャブリを代表するワインメーカー。

    [ドメーヌ・ウィリアム・フェーヴル」のディディエ・セギエ氏。精密機械のように緻密なワイン造りをする、シャブリを代表するワインメーカー。

 とはいえ、やはり人のやることだから、ドメーヌ(ワイナリー)ごとの個性はある。例えば、有力生産者の一つ、「ドメーヌ・ウィリアム・フェーヴル」は収穫が他社よりも早い。ワインメーカーのディディエ・セギエ氏はブドウの過熟を避けることによってピュアな果実味とミネラル感が前面に出た、クリーンな味わいのワインを実現している。

一方、ブドウがしっかりと熟すのを待って収穫すると言うのがドメーヌ・フレイのジャン=リュック・フレイ氏。彼のところのグラン・クリュ、ヴォーデジールには白い花や蜂蜜の香りに混じって、熟れたアプリコットのような微笑ましいトーンがある。

  • 「ドメーヌ・フレイ」のジャン=リュック・フレイ氏(左)と妹のマリー=ジョゼさん(右)。

    「ドメーヌ・フレイ」のジャン=リュック・フレイ氏(左)と妹のマリー=ジョゼさん(右)。

  • グラン・クリュのヴォーデジールは丸みのある味わい。

    グラン・クリュのヴォーデジールは丸みのある味わい。

 シャルドネというたった一つの品種で白ワインだけを造る。これほど潔い特徴を持った産地は他にない。最後にもう一つ、教訓を。

3.白ワインの道はシャブリから入って、シャブリから出よ。

COLUMN

~地図で読み解く多様なシャブリの味わい~

 シャブリの町を取り囲むようにブドウ畑が広がる。町を流れるスラン川を境に右岸(東側)と左岸(西側)に分かれる。最高格付けのシャブリ・グラン・クリュ(特級)は右岸、町の北西側に集中。プルミエ・クリュの畑は右岸・左岸両方にある。

地図で見て上の方は粘土質土壌が勝り、ワインはフローラルな香りになる。一方で、下の方は石灰質土壌が勝り、ミネラル感の強いフレッシュなワインになる。左岸で南東に向いた斜面は陽光に恵まれ、トロピカルフルーツのトーンがワインに出る。地図で見るイメージ通りの味わいがグラスの中で体験できるのがシャブリならでは楽しみ。


撮影/吉田タイスケ 取材・文/浮田泰幸

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